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図1●コンタクト・トラッキング&マネジメント・ソフトの系譜
図1●コンタクト・トラッキング&マネジメント・ソフトの系譜
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 CRM(顧客関係管理)という言葉が日本で言われ始めてから、ほぼ7年が経過した。しかし筆者に言わせてもらうと、日本のCRMはいまだに“出だし”でつまずいたままである。

「顧客との接触」ではなく、ソフトの機能論に終始

 筆者は繰り返し、CRMプロジェクトの実行者や参画者、つまりステークホルダーに対して、「CRMを成功させるために、まずコンタクト・トラッキング&マネジメントをよく理解しよう」と訴えてきた。例えば筆者は昨年12月から今年5月にかけて、「日経情報ストラテジー」誌で連載記事を執筆した。連載の第1回目(2004年12月号)では、「コンタクト・トラッキング&マネジメントの系譜 − 出だしでつまずいた日本のCRM市場」というテーマを書いた。

 しかし、相変わらず日本企業が実施するCRMプロジェクトの多くは、CRMソフトの機能論に終始している。だから、CRMプロジェクトは当初の期待を裏切る成果しか出せていない。

 先に紹介したコンタクト・トラッキング&マネジメントとは、顧客との接触(コンタクト)履歴を管理・分析して、次の働きかけによる経営効果を最大化することである。

 特にB2B(Business to Business)のセールス&マーケティングでは、このコンタクトの実践と管理が難しい。例えば、目の前にいる商談の相手が、必ずしも購入の意志決定権を持っているとは限らない。いわゆるB2C(Business to Consumer)とは大きく異なる、複雑な意志決定プロセスが存在しているのだ。B2Bのセールス&マーケティングの考え方をきちんと理解するには、「アカウント・マネジメント」と呼ばれる分野の文献を参照する必要がある。

 B2Bのコンタクト・トラッキングでは、「Aさんはこう言った」、「Bさんはこう言った」、「Cさんはこう言った」という接触記録をもとに、顧客先の意志決定のプロセスを分析する。そして、責任や権限の分担関係を相関図のように見立てて検討・評価する。これにより、「実際には意志決定権者と直接対話していないけれども、顧客は我々の提案に相当肩入れしているようだ」といった形で判断・評価できるようになるわけだ。

日本から失われたCRMの学習と経験の機会

 コンタクト・トラッキング&マネジメントを理解するには、まずは小さい規模でそれを実践し、体験するのが良い。米国には、コンタクト・トラッキング&マネジメントを実務を通して学習できる、入門レベルのソフトが存在する。それが「ACT!」という製品だ。

 1993年ごろ、筆者は仕事の関係で、年に何度も米国を訪ね歩いていた。渡米した時には必ずと言って良いほど、パソコン・ショップをのぞいた。ワープロや表計算ソフトばかりが並んでいる店頭で異彩を放っていたのが、ACT!だった。ACT!はいわゆるPIM(個人情報管理)ソフトの一種だが、人とのコンタクト履歴を意識せずとも作成できる点が大きな特徴である。当時は米シマンテックが販売していた。

 1990年代中盤はまだインターネットは存在しておらず、パソコン通信の時代だった。LANもいまほどは普及していなかった。そのような時からACT!は、パソコン単独で使うことも、LANでパソコン同士をつないで顧客データベースを共有することもできたし、パソコン通信を使って電子メールの送受信も可能だった。パソコンからの操作で電話をかける/受けるといったCTI(コンピュータ・テレフォニー・インテグレーション)の機能も備えていた。

 ACT!は業務ソフトの中ではかなりユニークな位置にある。パソコン・ショップで購入できるからだ。つまり、個人で買って、個人で使うことができる。

 実際、ACT!はまず個人ユーザーが職場で使い、さらに職場でユーザーが増え、企業の部門全体で使い始める、といった形で普及してきた。ACT!の良さを体験した個人が、徐々に部門全体へと段階的に拡げていったのだ。利用経験のある個人ユーザーが主体的に導入を進めていくのは、非常に効果的である。さらにACT!が優れているのは、そもそも個人向けのソフトとして育ったため、導入作業が難しくないことである。

 筆者は、ACT!は非常に良いコンタクト・トラッキング&マネジメント・ソフトだと感じた。筆者以外にもACT!を高く評価する米国の知人・友人が複数いたので、筆者の見方は間違っていないと思う。

 その後しばらくして、シマンテックは日本でACT!日本語版を販売し始めた。しかし売れなかったようで、間もなく日本市場から撤退した。

 ACT!が日本から消えたことで、日本のユーザーは、コンタクト・トラッキング&マネジメントを実践する機会が失われた。同時に、その概念が日本市場に浸透する手がかりも失せてしまった。そして、いまでも日本市場はACT!を失った影響を被っている。

 なぜ日本ではACT!が根付かなかったのだろうか。