PR
表 TOPPERS プロジェクトの主な開発成果*4<br>*4 [ ]内でIPAとあるのは情報処理推進機構(IPA)の補助事業の支援,経済産業省とあるのは経済産業省の地域新生コンソーシアム事業の支援を受けて開発したことを示す。
表 TOPPERS プロジェクトの主な開発成果*4<br>*4 [ ]内でIPAとあるのは情報処理推進機構(IPA)の補助事業の支援,経済産業省とあるのは経済産業省の地域新生コンソーシアム事業の支援を受けて開発したことを示す。
[画像のクリックで拡大表示]

TOPPERSプロジェクト
組み込みの“Linux”を目指す

 ITRON仕様からの新しい展開として,筆者が中心になって取り組んでいるのがTOPPERSプロジェクトである([拡大表示],)。TOPPERSプロジェクトを進めるナイーブな動機は,日本の主要産業で重要な役割を果たしている組み込みシステムの分野で,日本独自のITRONの技術を維持・発展させていきたいということである*3。

 TOPPERSプロジェクトは,ITRON仕様OSをはじめとして,組み込みシステムの基盤となる各種ソフトウェアを開発し,オープンソース・ソフトウェアとして普及させることを狙っている。一言でいうと,組み込みシステム分野において,Linuxのような位置付けとなるOSの開発を目指している。最近では,組み込みシステムでもLinuxが盛んに使われているが,Linuxが得意とするのは「汎用システム的な性格の組み込みシステム」であり,専用システムという性格の強い組み込みシステムには向かない。それに対してTOPPERSは,リソース制約・信頼性・リアルタイム性に対する要求が厳しく,アプリケーションごとの作り込みが必要な組み込みシステムを狙って開発していくつもりである。

 この意味で,TOPPERSはT-Engineとも違う領域を狙っている。T-Engineと同じ領域を狙ってトロングループのなかで競合するよりも,役割分担したほうが良いのはいうまでもない。

三つの狙い

 TOPPERSプロジェクトの狙いは三つある。(1)現世代のリアルタイムOSの決定版を開発する,(2)次世代のリアルタイムOS技術を開発する,(3)組み込みシステム技術者の育成に貢献するだ。

 (1)は,ITRONの20年間の成果を総結集した,いわば決定版のITRON仕様OSを開発し,オープンソースとして普及させることと言い換えられる。これにより,少なくともカーネルに対する「過剰な重複投資」と「過剰な多様性」の問題は軽減されるだろう。

 リアルタイムOSの決定版という意味では,これまでにμITRON4.0仕様のスタンダード・プロファイルに準拠したTOPPERS/JSPカーネル(以下JSPカーネル)や,同仕様のすべての機能を実装したTOPPERS/FI4カーネル(以下FI4カーネル),ITRON TCP/IP API仕様に準拠したTCP/IPプロトコル・スタックであるTINETを開発・公開している。これらは開発現場での適用が進んでおり,製品事例が増えてきた。

 (2)は,携帯電話ほど顕著ではないものの,TOPPERSが狙う領域でもソフトウェアの大規模化・複雑化が進んでおり,それに応える次世代のリアルタイムOS技術が求められていることに関係する。例えば,リアルタイム性を確保しつつメモリ保護を実現する技術や,マルチプロセッサ(マルチコア型マルチプロセッサ)への対応,ミドルウェアを容易にインテグレートするための技術などが必要とされている。これらについては,次回に解説したい。次世代リアルタイムOS技術を開発するにあたっても,オープンソースという手段を用いることで,産学官の力を結集することが容易になる。

 (3)の組み込みシステム技術者の育成は,非常に重要である。組み込みシステムの複雑化によって技術者不足が深刻になっているからだ。しかし一方で,組み込みシステムについて教育(勉強)するための良い教材がないのが実情である。オープンソース・ソフトウェアは,内部まですべて見ることができるという意味で教材としては最適といえる。TOPPERSプロジェクトでも,教材の開発・提供や教育の場を設けるなどの活動を行っている。開発した教材も,自由に使えるものとしてオープン化している。

 以上に述べたようにTOPPERSプロジェクトでは,オープンソースを組み込みシステム技術と業界を発展させる手段と考えている。オープンソース化自体が目的ではないし,何でもオープン化すれば良いとは考えていない。むしろLinuxのように,TOPPERSプロジェクトの周辺にビジネスが成立することが重要と考えている。