PR

 ユーザー企業は提案をどう評価し、選んでいるのか。ソリューションプロバイダの多くは、選考過程が分からず遮二無二提案し、失注を重ねているのではないだろうか。本特集では、普段は見ることができない商談の裏側をユーザー企業の視点で追う。

 ソリューションプロバイダの視点を上段に、同じ時期にユーザー企業がどう考え、どう行動したのかを下段に配置し、同時並行で両方の視点を比べられる実験的な見せ方を試みた。両者の視点を対比しながら読み進めてほしい。

=文中敬称略


 「ユーザー企業の要望を満たしたはずなのに」。失注に際して、こう悔しがる営業担当者は多いのではないか。だが、ユーザー企業の本音を分かっていないだけだ。ソリューションプロバイダの思惑と、ユーザー企業の思惑には大きな隔たりがある。この隔たりを明らかにするため、本特集では1つの商談を、ソリューションプロバイダとユーザー企業両方の視点から再現する。特にユーザー企業の選考過程を徹底的に探り、各フェーズで何を考えているかを洗い出す。

 教科書になる素材には、商談でぶつかる様々な“事件”が詰まったものを選んだ。アイティフォー(ITFOR)が今年4月に受注した、松坂屋のギフト用EC(電子商取引)サイト構築案件だ。複数社競合、厳しい納期、ユーザー企業の社内事情などのソリューション営業がぶつかりがちな壁。チームワークや社内調整、取って置きの“必殺技”といった解決策は、必ず商談に応用できるはずだ。

アイティフォー
2004年12月

 「申し訳ない。現行ベンダーのままになりそうだ」。松坂屋で営業統括本部営業推進室eビジネス推進部長を務める寺沢洋志邦が発した言葉に、最終選考に残った喜びは一瞬で消え去った。ITFOR eコマースシステム事業部営業部第二グループ次長の垣本真哉は、2度の提案でかなりの好感触を得ていただけにショックを隠し切れなかった。

 「2年間通い詰めた結果がこれか」。松坂屋を辞した垣本に12月の冷たい風が追い討ちをかける。ちょうど2年前の12月、松坂屋を初訪問した日の垣本は同じ場所に立ち、寒さに震えてはいたが心は期待で大きく膨らんでいた—。

松坂屋
2004年12月

1年半通い詰めて商談の場に

2002年12月、垣本が受注実績のない松坂屋のeビジネス推進部(当時はインターネット業務部)eビジネス推進スタッフ課長の絹井博康を訪ねたことから商談は始まった。自社で開発中のECサイト構築ソフトを売り込むべく、毎月のように通い詰めるも、それから1年半は、全く商談に結びつかなかった。しかし、その粘りがチャンスを呼び込む。翌年に出る松坂屋の中期経営計画で、ECが事業の3本柱の1つに格上げされるという情報を絹井が教えてくれたのだ。

 続いて2004年9月、松坂屋の寺沢がEC事業の推進役として参画し、システム刷新の話が急展開する。チャンスと見たITFORも、垣本と執行役員でeコマースシステム事業部事業部長を務める野口恭弘の2人体制を組んだ。垣本と野口はまず、完成したばかりのECサイト構築ソフト「ITFORecアイティフォレック」を提案する。「好感触だ」。垣本は、身を乗り出し笑顔で提案を聞いてくれる寺沢の反応に確かな手応えを感じた。

 しかし、垣本の知らないところで第1の関門が築かれていた。いつまにか10社8グループによる激しい競合となっていたのである。寺沢はすべてのソリューションプロバイダによる提案を吟味した上で具体的な要求仕様を再度、提示してきた。垣本は浮かれていた気持ちを引き締めざるを得なかった。

チャンスをつかむも機能不足でピンチ

 垣本は要求仕様を見て息を飲む。寺沢が出した主な要求は(1)6月1日に新サイト開設、(2)受発注処理の自動化による業務コスト低減、(3)1つの注文で複数の送り主、複数の届け先を設定できる機能—の3つである。

 特に納期は、6月1日に始まる実店舗を含めた中元商戦に間に合わせるため、「1日たりとも延期するわけにいかない」との厳命だ。2つ目の受発注処理の自動化は、現行システムでは、事業拡大に比例して運用費も増えてしまうという問題の解決だ。今は、いったんWebで受注したデータを発送システムや会計システムに手作業で打ち直す必要がある。ただし、ITFORにとって、この2つの要求を実現するのは難しくなかった。

 垣本が苦しんだのは、3番目の複数送り主/複数届け先機能だ。松坂屋に限らず、百貨店のECサイトは中元・歳暮といったギフトが売り上げの中心。中元・歳暮は通常のネット通販と異なり、数百個の商品が一度に注文される上に、商品ごとに届け先が異なるケースが多い。さらに、届け先によって送り主を会社名にするか、個人名、家族名にするかなどをきめ細かく指定される。この機能を、ITFORecは持たなかったのである。寺沢からも「百貨店はギフトが重要なんだ。ギフトの機能はどうなっているんだ」と釘を刺された。