2005年7~9月期の業況は、売り上げDIと粗利益率DIはやや悪化したものの、業況DIは続伸した。ユーザー企業のIT投資意欲が一段と積極的になっていることが背景にありそうだ。
日経平均株価が1万3000円台を回復、連日年初来高値を更新し日本経済は本格的な景気回復の兆しが見られる。そんな中で、ITサービス業界も元気を取り戻していることが、本誌が四半期に1度、独自に行っているITサービス業況調査の結果で明らかになった。
図1●ITサービス業界の業況DIの推移 ![]() ▲図をクリックすると拡大表示 |
一方で、売り上げDIは前回の29から7ポイントダウンして22に、粗利益率DIも前回の12から4ポイントダウンして8と、いずれも減少。業況は好転しているのにもかかわらず、売り上げと粗利益率は悪化という、いわば“ねじれ現象”が起きている。
好況を裏付けるのは、ユーザー企業のIT投資意欲の高まりだ(図5)。今回調査では、ユーザー企業のIT投資意欲が「高まっている」との回答は全体の過半数にも達しており、「ユーザー企業の投資意欲は少しずつだが改善されている」(販売会社)と、調査の自由意見欄でも前向きなコメントが目立つ。
売り上げや利益は一見伸び悩んでいるかのように見えるが、ユーザー企業からのIT投資の確かな手応えが好況感を押し上げているともいえる。「業況全般としては力強さには欠けるものの、確実に好転しているように見受けられる」(ソフト会社)。
ソフト会社の業況DIが大幅上昇
次に、ハード/ソフトなどの商品販売が主体の「販売会社」とソフト/サービスなどの開発・提供が主体の「ソフト会社」で、業態別の業況DIを見てみよう。
図2●業態別業に見た業況DIの推移 ![]() ▲図をクリックすると拡大表示 |
図3●業態別に見た売り上げDIと粗利益率DIの推移 ![]() ▲図をクリックすると拡大表示 |
次期の業況DIは、ソフト会社が30、販売会社が25と、強気の見通しになっている。
業態別に見た売り上げDIと粗利益率DIの推移は、ソフト会社と販売会社で明暗を分けた(図3)。ソフト会社の売り上げDIは17と前回に比べて12ポイントも下落し、粗利益率DIも8ポイントと前回よりも7ポイント下落した。ユーザー企業のIT投資意欲は積極的になっているものの、システム構築費用やサービスの価格の引き下げに対する要求は根強い。景気は回復傾向にあるにもかかわらず、売り上げや粗利益の面での手応えの鈍さは、ソフト会社に顕著に表れている。
これに対して、販売会社の売り上げDIが32、粗利益率DIが7といずれも前回よりも3ポイント増加している。特に売り上げDIは予想を上回った。「セキュリティ関連ビジネスの伸びが大きい」(販売会社)という意見があるように、今年4月1日に全面施行された個人情報保護法でセキュリティ製品の販売が引き続き好調だとする企業も目立つ。個人情報保護法対応は、4月1日までの駆け込み需要だけでなく、施行までに対策が間に合わなかった企業との商談も活発だ。また、スパイウエアやフィッシングなど、インターネット上の新たな脅威を未然に防止するための対策への関心も高い。
次期の見通しは、ソフト会社の売り上げDIが39、粗利益率DIが28、販売会社の売り上DIが39、粗利益率DIが14となる見通しだ。しかし、ITサービス業界の売り上げは第4四半期に集中する傾向がある。次期は、大部分を占める2005年3月期決算の企業の第3四半期に相当するため、予想に対して下振れする可能性がある。
製品、サービス売り上げが失速
図4●業種別のハード/ソフトの売り上げDIとサービスの売り上げDIの推移 ![]() ▲図をクリックすると拡大表示 |
ソフト会社のハード/ソフトの売り上げDIは、前回のマイナス14から6ポイント上昇したがマイナス8。やや好転の兆しは見えたものの、依然として厳しい状況には変わらない。中には「ハードは減少しているがソフトは増加している」(ソフト会社)との意見もある。
サービスの売り上げDIは31と、ユーザー企業の積極的なIT投資を背景に30台は維持した。だが、前回の36よりも5ポイント下落し、予想値の38に比べると7ポイント低かった。
販売会社のハード/ソフトとサービスの売り上げDIは、ソフト会社に比べて落ち込みが大きい。ハード/ソフトの売り上げDIは11と前回よりも10ポイント下落、サービスの売り上げDIも39と前回よりも11ポイント下落した。見込み値ではハード/ソフトの売り上げDIは21、サービスの売り上げDIは58だったが、それを大きく下回る結果となった。
ユーザー企業からの値下げ要求は、ハード/ソフトだけでなく、サービスに対しても波及しているのが、業態を問わずITサービス業界全体に突きつけられている課題といえる。ユーザー企業は、投資対効果を見極めた上で、価格と質を両立できるソリューションプロバイダを選定しようとする。全体の景気は好転しているとはいえ、ソリューションプロバイダは案件を受注するためには依然として厳しい状況に置かれている。
過半数がIT投資意欲に手応え
図5●ユーザー企業のIT投資意欲に対する見方の推移 ![]() ▲図をクリックすると拡大表示 |
このうち、ソフト会社の「高まっている」は前回の32%から49%に上昇、販売会社は前回の42%から57%に上昇した。「低くなっている」との回答は、ソフト会社、販売会社ともゼロだった。
大企業だけでなく、中堅・中小企業のIT投資意欲の向上について言及するコメントもあり、あるソフト会社は「昨年度に比べて意思決定が早くなる傾向が出てきた」と、ユーザー企業のIT投資への前向きな姿勢を感じ取っている。
IT投資に積極的な分野は、先に述べたようなセキュリティ関連だけでなく「運用の見直しに関するビジネスが伸びている」(販売会社)、「今後さらにアウトソーシングサービスのニーズは高まるだろう」(ソフト会社)などと、情報システムの運用に関する需要の高まりに期待する声も聞こえてきた。
最近ではITIL(ITインフラストラクチャ・ライブラリ)に対するユーザー企業の関心も高まっており、今後は運用を切り口にした商談もますます活発化しそうだ。
調査の概要 業況判断の指数となる「DI(ディフュージョンインデックス)」は、回答者の感覚的な判断を知る目的で使われる数値で、日本銀行が四半期ごとに発表している景気判断調査「日銀短観」でも使われている指標。本調査では、業況、売り上げ、粗利益率のそれぞれについて「良い」または「増える/増えた」と回答した企業の割合から「悪い」または「減る/減った」と回答した企業の割合を差し引いて算出している。 |