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エンターキナー,韓 芝馨

 IT分野のトレンドにとても敏感な韓国。しかし,IP電話については最近までビジネスとして立ち上げようとする企業がなかった。その理由の一つは,韓国のITバブルとその崩壊を象徴する「ダイヤルパッド」の記憶である。だが,専用番号「070」を使うIP電話が2005年8月に登場したのを契機に,2005年末から2006初頭にかけて,電話会社や大手インターネット・ポータルなどがIP電話ビジネスを開始する。IP電話が従来の固定電話に取って代わる可能性は小さいが,TV電話やインターネット・ポータル・コンテンツ,「WiBro」のようなモバイル・ブロードバンドとの連携がもたらす可能性に注目が集まっている。

悪夢のような「ダイヤルパッド」の記憶

 ダイヤルパッドは「セロム技術(Serome Technology。現在の社名はSolborn)」という韓国のベンチャー企業が1999年10月に米国で開始したIP電話サービス名である。パソコン同士(PC to PC型),電話機同士(Phone to Phone型)のIP電話サービスが無料で利用できるダイヤルパッドに対する期待は多く,120年の電話の歴史を変えるとまでいわれ,一時は500万人の登録者を集めた。

 しかし,「加入電話に比べて通話品質が悪い」「着信はできない」といった理由で,ユーザーの不満は募っていった。その後,同社のビジネス・モデルだった広告収入だけでは会社を運営できなくなり,破産した。

 セロム技術の株価は,韓国のITバブルとその崩壊を象徴しているといえるだろう。1999年初頭から2000年初頭までの1年間で,セロム技術の株価は100倍になった。しかしその1年後にはまた元に戻り,その後破産。多くの投資家が痛手を被った。セロム技術の破産は,2000年初頭のITバブル崩壊を象徴する事件として,多くの韓国人の記憶に残っている。同時期に,多数あったその他のIP電話会社もなくなった。以降,現在までIP電話ビジネスをやろうとする企業は現れなかった。

増えない「070」IP電話の加入者

 韓国でIP電話ビジネスへの関心が再び高まったのは,2004年10月。情報通信部が「070」で始まるIP電話専用番号の割り当てを実施すると発表したためである。「070」は日本の「050」と同様なIP電話専用番号で,一定基準を満たした事業者に限って割り当てられる。「070」IP電話の魅力は,着信が可能なことや,加入電話と同じような通話品質(R値70以上)を実現できること(参考記事),加入電話に比べて通話料金は安価であること---などである。

 まず,「Samsung Networks」と「Anyuser.Net」の2社が2005年8月に「070」IP電話サービスを開始した。いずれも,日本の第2種電気通信事業者に該当するビジネスをしている企業である。しかし,10月になっても両社の加入者数は1万3000人に留まっている。そのほとんどは企業ユーザーである。

 「070」IP電話の加入者が増えていない第一の理由は,ユーザーの認識不足である。サービス開始から2カ月以上が経過しているが,「070」で始まる電話番号がIP電話番号であることを知っている一般ユーザーは非常に少ないようだ。

 「070」が知られていないために,「070」IP電話に加入した企業ユーザーの一部からは不満が漏れている。「060」で始まる“スパム電話”だと誤解して,電話を受けてくれないケースが多くて困っているという。韓国では気象情報や観光案内といった情報提供の電話番号には「060」を割り当てている。この「060」番号は,商品やサービスを勝手に説明するスパム電話の“隠れ蓑”として使われることが多いために,「060」からの発信は受けない人が多いのである。

 また,加入電話よりも安いことがウリのはずの通話料金が,実際にはそれほど安くないという不満がある。基本料については,加入電話が月額4000~5000ウオンであるのに対して,IP電話は月額2000ウオンなので確かに安い。

 しかし,市内通話料金はIP電話の方が高い。もちろん,市外電話や国際電話はIP電話の方が安価であるが,市外電話の場合には携帯電話を使う人が多い。また,国際電話については各社とも従来から“激安”サービスを提供しているので,そういったサービスのユーザーにとっては,通話料金の差はそれほど大きくない。

 以上の理由から,今後「070」IP電話のサービス提供事業者が増えても,加入者が急増する可能性は小さいのが現状である。

表1 加入電話と「070」IP電話の料金比較 (単位:ウオン)
料金加入電話(KT)加入電話(Hanaro Telecom)「070」IP電話(Samsung Netwokrs)
月額基本料520040002000
国内通話料市内39(3分)39(3分)45(3分)
市外14.5(10秒)13.9(10秒)
携帯電話14.5(10秒)14.5(10秒)14(10秒)
国際通話料米国(1分)288276180
日本(1分)690672300
中国(1分)996984480

固定電話と「070」IP電話の差異化を図るKT

 固定電話サービスを提供しているKTやHanaro Telecom,Dacomは,当初,今年11月から「070」IP電話サービスを開始する予定だった。現状,固定電話市場のシェアはKTが90%以上を占めている。この独占的な状況を打ち破る方法の一つとして,Hanaro TelecomやDacomは「070」IP電話に期待をかけた。

 一方KTでは,「070」IP電話サービスがユーザーに受け入れられた場合の“保険”として,「070」IP電話サービスへ参入する準備を進めてきた。