電話のしくみをIPネットワーク上で実現するIP電話。そのIP電話の世界で最近注目を集めているのが「無線IP電話」である。無線IP電話とは,携帯電話機型の端末を使い,IP電話の音声や呼制御データを無線LANでやりとりするシステム。今回は,この無線IP電話を研究してみた。
無線IP電話は,生まれたばかりの新しい製品カテゴリである。国内で無線IP電話製品が出始めたのは2003年半ばごろ。それ以降,企業におけるIP電話の急速な普及という後押しもあって,無線IP電話の認知度はどんどん高まっている。2004年に入ると,大手メーカーからの製品発表が相次ぎ,無線IP電話機を数百~1000台単位で導入する企業も現れている。
IEEE802.11b無線LANを使う
単体で入手可能な無線IP電話機は,2005年3月初めの時点で6機種ある(表1[拡大表示])。展示会などで参考出品された製品や,出荷が予定されている製品が今後続々と出てくることを考えれば,さらに入手可能な製品バリエーションは増えるだろう。
無線IP電話は,何種類かのネットワーク機器を組み合わせて構成するシステムである。その中心となるのが,無線IP電話機だ。まずはこの無線IP電話機とは,いったいどんな機器なのかを確認しておこう。
無線IP電話機は,見た目は携帯電話やPHSの端末とそっくり。しかし,利用する電波の周波数帯や搭載しているプロトコルなど,その中身は携帯電話やPHSと大きく異なる。
具体的には,物理層およびデータリンク層の仕様として2.4GHz帯の電波を使う無線LAN規格であるIEEE(アイトリプルイー) 802.11b*を使う*。この11b上で音声や呼制御データをやりとりする。このほか,アナログの音声をディジタル信号に変換する音声符号化機能(コーデック),変換した音声データをIPパケットに入れてやりとりするTCP/IPスタック,相手を呼び出したり電話を切ったりといった制御を担う呼制御プロトコルなどを搭載する(図1[拡大表示])。
2大要素に着目して製品を理解
IP電話で使えるコーデックの種類はたくさんあるが,現在販売されている製品はすべてISDNでも使っている符号化速度が64kビット/秒のG.711*と,音質は悪いが符号化速度が8kビット/秒と低速回線向けのG.729*の二つを標準搭載している。呼制御プロトコルはSIP(シップ)*が主流だが,H.323*やSCCP*などを採用している製品もある。
無線IP電話を理解するうえで,ポイントとなる要素は二つある。それは,盗聴などに対処するための「セキュリティ対策」と,快適な通話を実現するための「通話品質(QoS*)の確保」である。
この二つの要素は,無線IP電話を安全・快適に使ううえでぜひ搭載したい機能。実際,メーカー各社はそれぞれ独自の考えに基づいた技術を製品に搭載している。要するに,メーカーの色や製品ごとの差がはっきり出やすい部分なのだ。そこで以下では,この二つに着目しながら各製品が備える機能やしくみを見ていく。
電話機以外にも装置が必要
無線IP電話は,無線IP電話機を買ってきて電源を入れればすぐに使える製品ではない。無線IP電話機からのアクセスを受け付ける無線LANアクセス・ポイントが必要になるし,内線電話番号を一元管理したり,通話を制御する呼制御サーバーやIP-PBX*といった機器も用意しなければならない。このほか,ネットワークの規模や構成によっては,複数のアクセス・ポイントを集中管理する無線LANスイッチや,IEEE802.1X*を使う場合の認証処理を担当するRADIUS(ラディウス)*サーバーなども必要になる(図2[拡大表示])。
ここで重要なのは,これらの機器はほかの機器と連携して動く必要があるということ。無線IP電話機とアクセス・ポイントがうまく接続できないようではそもそも話にならないし,無線IP電話機と呼制御サーバー間では呼制御メッセージを正しくやりとりできなければならない。
ところが現状では,こうした連携はマルチベンダー環境でうまくいかないケースが多い。このため,無線IP電話を導入する際には,基本的に同じメーカーの機器で統一するか,あるいは相互接続性が保証されている機器を組み合わせて導入する。中にはシステムとしてのセットでのみ販売するというメーカーもある(図3[拡大表示])。
もちろん,ユーザーが希望すれば無線IP電話機などを個別に購入できるようにしているメーカーは多い。ただし,そうしたメーカーも機器単体での販売は,試験導入や相互接続性の検証のためというスタンスで販売している。
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