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図6 通話品質を確保するための工夫<BR>a.音声の優先制御,b.アクセス・ポイント1台当たりの同時接続台数の制限,c.ローミング時の切り替え処理の高速化――がある。
図6 通話品質を確保するための工夫<BR>a.音声の優先制御,b.アクセス・ポイント1台当たりの同時接続台数の制限,c.ローミング時の切り替え処理の高速化――がある。
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図7 TOSフィールドを使って音声パケットの優先処理を指定&lt;BR&gt;アイコムの無線IP電話機「VP-43」の設定ページの例(開発中のもの)。TOSフィールドを見て優先処理ができるルーターと組み合わせることで,音声データを途中で捨てないようにする。
図7 TOSフィールドを使って音声パケットの優先処理を指定<BR>アイコムの無線IP電話機「VP-43」の設定ページの例(開発中のもの)。TOSフィールドを見て優先処理ができるルーターと組み合わせることで,音声データを途中で捨てないようにする。
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通話品質確保の工夫は三つ

 ただ,仮にデータと音声を分けたとしても,数百台以上の無線IP電話機を導入するケースのようにネットワークの規模が大きくなってくると,話が違ってくる。端末の数が増えるほど,1カ所のアクセス・ポイントに接続が集中したりする可能性が高まり,実際の利用状況の偏りが予測しにくくなるからだ。そこで通話品質を保つ工夫が機器側にも必要になる。

 各メーカーが販売している無線IP電話機や無線IP電話システムが搭載しているQoS機能は三つある。(1)音声の優先制御,(2)アクセス・ポイント当たりの接続台数の制限,(3)ローミング*時の切り替え処理の高速化——である。以下,順番に見ていく。

IPヘッダー中で優先度を指定

 音声の優先制御とは,名前が示すとおり,音声パケットがネットワーク中でほかのパケットよりも優先的に処理されるようにすることである。この優先処理のための情報として,主にIPヘッダー中のTOS(トス)フィールド*を使う。

 音声パケットを送信する無線IP電話機は,IPヘッダー中のTOSフィールドに優先度を書き込んで送り出す。この音声パケットを受け取った無線LANアクセス・ポイントやルーターは,TOSフィールドに書かれている優先度の値を見て音声パケットを優先的に中継する(図6a[拡大表示])。こうすれば,音声パケットが伝送途中で処理を待たされたり,捨てられることを避けられる。

 実際にTOSフィールドにどういう値を書き込むかは,製品によってさまざま。例えばアイコムのVP-43の場合,Webブラウザから端末の詳細設定画面を呼び出して,ユーザーが任意の値を指定する(図7[拡大表示])。ただし,これだけでは不十分。指定したTOSフィールドの値に応じて音声パケットを優先処理するようにルーター側に設定しておく必要がある。

送信権を優先的に取得する

 音声パケットの優先制御のための工夫は,ほかにもある。例えば,NECのMH-210*が備えている機能だ。それは,無線LAN区間で無線IP電話機に音声パケットの優先的な送信権を与えるという機能である。

 無線LANでは信号の衝突を避けるために,誰かが無線LANフレームを送り終えてから一定時間以上待たないと,ほかの端末は次のフレームの送信に取りかかれない決まりになっている。要するに,誰かが手を上げたあとは,しばらく待たないと誰も「私が送信します」と手を挙げられない。

 もし,手を挙げられるようになるまでの待ち時間を無線IP電話機だけが短くなるように設定できれば,無線IP電話機は常に優先的に音声パケットの送信権を取得できるようになる。このようなしくみ*によって,無線IP電話機は音声パケットをほかのパケットよりも優先的に送出できる。

同時に接続できる台数を制限する

 二つめの工夫であるアクセス・ポイント当たりの接続台数の制限について見ていこう(図6b[拡大表示])。ここまでに説明したような音声の優先制御機能は,データと音声が混在する状況では有効だが,同じ無線IP電話機同士が送信権を奪い合うような状態では,役に立たない。

 したがって,1台のアクセス・ポイントに無線IP電話機のアクセスが集中しているような状態では,別のQoS機能が必要になる。なぜなら,アクセス・ポイントへアクセスが集中して限度を超えてしまうと,そこで通話中のすべてのIP電話の通話品質が劣化してしまうからである。

 これがデータ通信なら,TCP/IPレベルでデータの再送が起こるので,少し遅くなったかなと感じる程度で済む。しかし,無線IP電話の場合は,誰一人としてまともな通話ができないといった状況に陥る危険がある。

 このため,許容限度以上にアクセス・ポイントに無線IP電話機がつながらないように,接続数を制限する。具体的にどのように制限するかは2通りの方法がある。一つは無線LANスイッチが各アクセス・ポイントの接続状況を監視し,あらかじめ設定していた接続数に達したアクセス・ポイントには,それ以上の接続を許可しないように指示する方法。多くのメーカーが,この方法を採用している。

 もう一つは,米シスコシステムズ独自の方法である。無線IP電話機が無線LANスイッチから各アクセス・ポイントの負荷状況を教えてもらい,この負荷状況を見て端末自身が接続先を決める。

認証手続きの簡略化で途切れを解消

 通話品質を保つ三つめの工夫は,ローミング時の切り替え処理の高速化である(図6c[拡大表示])。ローミングとは,無線IP電話機が接続先のアクセス・ポイントを切り替えて通信を続ける機能のこと。このローミング時にアクセス・ポイントの切り替えに時間がかかると,通話が一瞬途切れてしまう。

 切り替えの時間がどれくらいかかるとユーザーが違和感を感じるかというと,「一般には,100ミリ~200ミリ秒程度であれば切り替わったことをほとんど感じない。500ミリ秒を超えるとノイズが混入したと感じ,1秒を超えると明らかに通話が途切れたと感じる」(NECの石原伸一UNIVERGEサポートセンター マネージャー)。

 ローミング時の切り替え処理を高速化する方法は二つある。一つは,IEEE802.1Xの認証を使っている場合に,認証処理を簡略化する方法である。IEEE802.1Xを使う場合,ローミングによってほかのアクセス・ポイントに接続し直すと,そこで再び認証処理をやり直す。このとき,「認証方式にもよるが,何も工夫しないと再認証処理に数秒の時間がかかることがある」(シスコシステムズの渡邊靖博プロダクトマネージャ)。切り替え処理に数秒も時間がかかってしまうと,ユーザーは電話が切れたと思って通話をやめてしまうかもしれない。

 認証処理を簡略化する手順は,まだ標準が固まっていないため,すべてメーカー独自の実装ということになる。しかし,基本的な考え方はだいたい似ている。いったんどこかのアクセス・ポイントで認証を受けた無線IP電話機の情報を無線LANスイッチに記録しておく。そして,無線IP電話機がほかのアクセス・ポイントに移動した際には,記録していた情報を使うことで再認証の手順を最初からやり直さず,簡略化する。

 ローミング時の切り替え処理の工夫としては,接続先アクセス・ポイントを検索する処理を高速化する方法もある。無線IP電話機がローミングをするときには,直前に切り替え候補となるアクセス・ポイントを探索する。この探索方法は単純にやるなら利用可能なすべての無線チャネルを順番にサーチする。

 しかし,IEEE802.11bの場合,お互いに干渉しないように無線チャネルを使うには,少なくとも4チャネル分は離す必要がある。例えば,自分が第1チャネルを使っているなら,ローミング先のチャネルは第5や第9,あるいは第13チャネルになっている可能性が高い。そこで,第1チャネルから順番に無線チャネルをサーチするのではなく,予想されるチャネルを先に探していくことで,探索時間を短縮する。