グループの営業情報を販売戦略に活用島津製作所本社は2001年から,NTTコミュニケーションズ(NTTコム)の広域イーサネット・サービス「e-VLAN」を使ってきた。一方,販売会社などの関係会社は独自にネットワークを構築。グループ間でやり取りするのは,ホスト・コンピュータのバッチ処理データ程度にとどまっていたため,専用のネットワークは構築していなかった。
ところが2001年夏ごろ,「関係会社が蓄積する営業情報などを共有し,販売戦略の策定や製品開発などに生かそうという議論が持ち上がった」(上坂至ITセンター長,写真)。そこで,グループ各社で共同利用するIPベースの営業支援システムなどの新規開発を決定。並行して,ネットワーク・インフラ整備の検討を始めた)。 ただし新規のネットワーク構築は,関係会社の負担増に直結する。島津製作所が利用していた広域イーサネットはアクセス回線料が比較的高いため,各社をそのまま収容するのは難しかった。いったんはインターネットVPNを導入したが,特定の拠点や時間帯でスループットが安定しない。グループ間を結ぶ大規模ネットワーク構築は,思うように進まなかった。 県間フレッツの開始を知って即決転機が訪れたのは2003年4月。NTT東西地域会社の地域IP網の県間接続が認められ,東西NTTの割安VPNサービス「フレッツ・グループアクセス」(東日本)と「フレッツ・グループ」(西日本)が,サービスの提供を始めたからだ。 島津製作所は早速,同年8月から一部の関係会社で試験導入を開始。「営業支援システムの開発にメドが付いた時期と重なり,ぴったりだと思った」(島津ビジネスシステムズの浴田豊治システムビジネス課長)。 検証の結果,インターネットVPNよりスループットが安定していると分かり,新ネットワークへの適用を決めた。構築作業は2004年度に本格的に開始し,2005年3月に完了した。 拠点によってインフラに“メリハリ”新ネットワークは,関係会社ごとにフレッツ・グループまたはグループアクセス(以下,フレッツ・グループ・シリーズ)を契約。京都市のデータ・センターと接続する形態に決めた(図)。東日本地域の拠点はいったん東京支社と接続し,広域イーサネット回線を経由してつなぐ。 足回りは原則的にFTTH(fiber to the home)サービス「Bフレッツ」を選択。「ADSL(asymmetric digital subscriber line)より抜群に安定している」(島津ビジネスシステムズの日下正弘システムビジネスリーダー)からだ。 島津製作所本社は広域イーサネットから切り替えず,基本的にアクセス回線の速度を増強するにとどめた。通信品質を保証しない割安VPNでは不安があったためだ。これらの拠点は,遅延に厳しいホスト・コンピュータのプロトコルを流している。拠点の重要度に応じてインフラに“メリハリ”を付けた格好である。 インフラを整えた島津製作所は,早速,データ・センターで営業支援システムなどを稼働させた。本社の営業部隊が,関係会社の営業情報などを把握する時間を短縮。過去の納入実績と現状との違いを把握して販売戦略を立てるのが容易になった。 社員個人に任せていた顧客情報の更新作業も,専従部隊を設置して最新の状態を維持する体制を整えた。「営業情報を集約したからこそ,こうした体制を作れた」(上坂ITセンター長)。
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