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経営再建中の三菱自動車工業は2005年8月,海外ネットワークの刷新を完了した。通信事業者を変えずに,利用するサービスだけを従来の国際セル・リレーから国際IP-VPNに変更。追加工事の発生を抑え,切り替え作業を簡略化することで,ごく短期間で運用コストを5割削減することに成功した。

 三菱自動車工業は2005年8月,世界各国の拠点を結ぶ海外ネットワークを刷新し,大幅なコスト削減を実現した。このネットワーク刷新は,リコール隠し問題に始まった業績不振から,経営を建て直すための全社的な取り組みと直結したものだ。

最もコスト高だった海外ネットにメス

 三菱自動車の社内ネットワークは,NTTコミュニケーションズ(NTTコム)の「Arcstar IP-VPN」を使った国内ネットワーク,海外ネットワークやNTTコムの広域イーサネット・サービス「e-VLAN」を使う販社ネットワークなどで構成する()。このうち今回のネットワーク刷新では,海外ネットワークのWANサービスをKDDIの国際セル・リレーから国際IP-VPNサービスに切り替えた。

菅 浩之
管理本部
IT戦略・インフラ部
マネージャー

 「三菱自動車再生計画」では,顧客の信頼回復や財務体質の強化などを打ち出している。2006年度の黒字化を目標にしており,大幅なコスト削減を実施する計画。IT関連投資も例外ではなく,「年間数億円の運用費削減が求められている」(菅浩之・管理本部IT戦略・インフラ部マネージャー,写真)。

 運用費の中でも,使用中のハードウエアのリース料金などは切り詰めるのが難しい。このため,「CIO(最高情報責任者)から通信費を短期間で下げるよう指示があった」(菅マネージャー)と言う。「小さなコスト削減を積み上げるのも重要だが,一気に運用コストを下げるには最もコスト高だった海外ネットワークに手を付けるしかないと判断した」(菅マネージャー)。

 そこで同社は2004年11月から具体的な検討を開始し,翌12月には海外ネットワークの刷新を正式決定。2005年5月から順次切り替えを開始した。わずか4カ月後の8月末には,世界各国に散らばる全13拠点の新ネットワークへの収容を完了。その結果,海外ネットワークの運用コストは,従来の約半分にまで圧縮できた。

アクセス回線コストが大幅減

 コスト削減効果が最も大きかったのは,海外拠点のアクセス回線料金だった。サービスの基本料金自体は,国際セル・リレーから国際IP-VPNへの切り替えで2割減。にもかかわらず全体で5割ものコストを削減できたのは,アクセス回線料金の総額が8割も安くなったためである。

 従来の国際セル・リレーでは,日本と英国,米国の3カ国のデータ・センターに,機器と回線のそれぞれを2重化した自営のアクセス・ポイントを用意していた。北米の拠点は米国の,欧州拠点は英国のアクセス・ポイントにつなぎ込み,セル・リレーを経由して国内事業所に配備したホストなどと通信していた。

 しかし,欧州でも英国以外の国ではアクセス・ポイントまでの距離が長い。またアジアやオセアニアなど,近くにアクセス・ポイントがない拠点は国際専用線で日本のアクセス・ポイントに直接接続するしかなかった。このアクセス回線料金が大きな負担だった。

 海外ネットワークで接続する事業所は,三菱自動車の出資比率が50%以上の現地法人。国際セル・リレー料金は三菱自動車が負担するものの,アクセス回線は海外事業所がそれぞれ負担する。「アクセス・ポイントまでの距離が長く,アクセス回線料金が高いと各国からクレームが出ていた」(三菱自動車管理本部IT戦略・インフラ部の須田勇氏)。

 新たに採用した国際IP-VPNでは,KDDIが各国に用意したアクセス・ポイントを利用すればアクセス回線の距離が相対的に短くなる。このため料金を大幅に抑えられた。

「通信事業者は変えない」がコツ

 三菱自動車が短期間に大幅なコスト削減を成功させた秘訣は,通信事業者を旧ネットワークで採用していたKDDIのまま,変えなかったことだ。

 通信サービスの品目をセル・リレーからIP-VPNに変更しても,KDDIのサービスを使い続けることで,(1)コンペ時間を短縮できネットワークの切り替えに早く取り掛かれる,(2)アクセス回線にかかわる工事期間を短縮できる,(3)KDDIからレンタルしていたWAN側機器を流用できる——といったメリットが得られたからだ。

 特に(2)のアクセス回線にかかわる工事期間の短縮が大きかった。三菱自動車が2002年に国際セル・リレーを導入した際は,アクセス回線用の管路から整備が必要で,「拠点によっては道路を掘削して設備を打ったり,建物内の管路を新たに敷設した」(KDDI)。切り替え時のリスクを軽減するために,アクセス回線自体は今回の刷新でも新たに用意し,瞬時にサービスを切り替える手法を取った。しかし,KDDIのアクセス・ポイントまでの管路は2002年に整備済みだったため,回線を短期間で用意できた。もし通信事業者を変えていたら,各拠点からアクセス・ポイントまでの管路から改めて用意しなければならなかったという。

 また旧ネットワークで使っていた機器を流用できたので,切り替え作業自体も簡略化できた。各拠点のWAN側機器とKDDIのアクセス・ポイント側の機器の設定を,セル・リレー用からIP-VPN用に切り替えるだけで完了した。

図 三菱自動車の社内ネットワーク コスト削減最優先で2005年8月に海外ネットワークを切り替えた。