PR
図4  TOPPERSプロジェクトが想定する組み込みソフトウェア構成<BR>斜線部が,現時点でTOPPERSプロジェクトが提供している部品。オープンソースである。
図4 TOPPERSプロジェクトが想定する組み込みソフトウェア構成<BR>斜線部が,現時点でTOPPERSプロジェクトが提供している部品。オープンソースである。
[画像のクリックで拡大表示]

組み込みシステムとRTOSの今後

 連載を終えるにあたって,リアルタイムOSの将来について触れておきたい。

 第2回で,リアルタイムOSの二つのタイプとして汎用OS型とリアルタイム・カーネル型を紹介し,両者が今後も共存していくだろうと述べた。リアルタイム・カーネル型は,リソース制約・信頼性・リアルタイム性に対する要求が厳しい分野で,今後も重要な役割を果たしていく。こうした分野では,厳しい制約をクリアするために,専用化されたシステムという特性を生かすことが不可欠になるが,静的OSや構成可能なOSはこの特性を活用するための技術であり,リアルタイム・カーネル型のリアルタイムOS向けの技術だと言える。一方,組み込みLinuxやWindows CEなどの汎用OS型は,制約が緩やかで,汎用システムに近い性格を持ったシステムでシェアを伸ばしていくだろう。

 ところで,組み込みシステムの多目的化・汎用化が進んでおり,専用システムといえるものはなくなるとの指摘がしばしばなされる。また半導体技術が進歩するなかで,リソース制約やリアルタイム制約は今後,それほど大きな問題ではなくなるという意見もある。そうなると,リアルタイム・カーネル型の重要性は下がる。この意見に対して,次のように反論をしたい。

 確かに,携帯電話機やデジタルテレビ,ハードディスク・レコーダ,カーナビなど,既存の組み込みシステムの多くで複雑化・多目的化が進んでいる。しかしこういう状況が起きているのは,それが中途半端に接続されている(言い換えると,ユビキタス化が不十分である)結果ではないかと,著者は考えている。

 例えば,デジタルテレビ,ハードディスク・レコーダ,セットトップボックスが接続されている状況を考えてみよう。現在は,いずれの機器も多機能化・複雑化する方向に進み,それぞれが重複した機能を備える事態に陥っている。これが理想的な姿だとは思えない。第一,使い勝手が悪い。すべての組み込みシステムがネットワーク接続され,それらが協調動作できるなら,それぞれを単機能化・専用化し,システム全体として必要な機能を実現するという考え方もあり得る。

 もう一つは,既存の組み込みシステムの大規模化が進む一方で,より厳しい制約を課せられた新しい分野が生まれていることである。例えば,ICカードやセンサーネットワークだ。実際,センサーネットワーク向けのOSとして,TinyOSという極めて小さいリソースで使えるOSが注目されている。

 最後の反論は,半導体技術の進歩が曲り角を迎えていることである。確かにLSIの微細化・高集積化はしばらく進むが,消費電力の低減と性能向上の両立は難しい状況になりつつある。そうなると,消費電力を減らすという設計制約が重要性を増してくる。

プラットフォーム化は必然の流れ

 組み込みシステム開発技術の方向性として筆者は,アプリケーション・ドメインごとのプラットフォームの構築と,アプリケーションのモデルベース設計*6の促進が重要になっていくと考えている。ここでいうプラットフォームとは,アプリケーション・ドメインに向いたハードウェア上にリアルタイムOSと必要なソフトウェア部品(ミドルウェア)を載せたものを指している。パソコンで言えば,米Intel社のマイクロプロセッサと米Microsoft社のWindowsの組み合わせがプラットフォームにあたる。

 このようなプラットフォームの例として,松下電器産業が社内共通のデジタル家電用統合プラットフォームとして開発した「UniPhier(ユニフィエ)」が挙げられる。UniPhierの技術的な詳細は公表されていないが,プロセッサとビデオコーデックなどを含むシステムLSIと,ミドルウェアやOSなどのソフトウェアからなるとされている。

 また,CE Linuxフォーラム(CEはConsumer Electronicsの略)やJasPar(Japan Automotive Software Platform Architecture)のように,特定の業界内でプラットフォームを標準しようという活動もある。CE Linuxフォーラムは,松下電器やソニーが中心となり,デジタル家電向けLinuxの仕様策定を行っている。JasParは,自動車メーカーが主導し,部品メーカーや半導体メーカーが参加するコンソーシアム。自動車制御システムのネットワーク技術やソフトウェア・プラットフォーム,開発ツールなどの標準化を目指して活動している。

 筆者が中心に取り組んでいるTOPPERSプロジェクトも,組み込みシステム向けのソフトウェア・プラットフォームの構築を目指している*7。ただし,特定のアプリケーション・ドメイン向けではなく,プラットフォーム構築に必要となる部品と,その部品を使ってプラットフォームを構築するための技術の開発が目標である。

 (図4[拡大表示])に,TOPPERSプロジェクトが想定する組み込みソフトウェア構成を示す。うすく塗りつぶした箱が,現時点でTOPPERSプロジェクトがオープンソースとして提供している部品である。この図に示すようにTOPPERSプロジェクトでは,プラットフォームを構築するために必要となるオープンソース・ソフトウェアを開発している。また,これらの部品をプラットフォームに組み上げるための技術として,組み込みコンポーネント仕様の策定・開発にも取り組んでいる。

 筆者としては,図4に示すプラットフォーム技術の研究・開発に今後とも尽力するつもりであることを強調して,連載の筆を置くことにする。


高田 広章 Takada Hiroaki/名古屋大学大学院情報科学研究科 情報システム学専攻

東京大学の坂村健教授の研究室に在籍中からITRONプロジェクトに参画し,ITRON仕様のリアルタイムOSの開発と普及に務める。その後,豊橋技術科学大学を経て,現在は名古屋大学に在籍。研究テーマは,当初のリアルタイムOSから,徐々に組み込みシステム設計開発技術一般に広げている。最近では,ソフトとハードの境界分野に最も興味を持っている。自動車メーカとの共同研究を数年にわたって継続しており,組み込みシステムの適用分野の中では,自動車の制御システムが一番詳しい。