PR

◆ディスクレス型◆ ローカルCPU活用

図7●米Ardence社の仮想ディスク
OS自体をサーバーで集中管理できる。Ardenceサーバーに格納した仮想ディスク・イメージをローカルのハードディスクと認識させてOSを起動する。実際には,ネットワーク・ブートの標準仕様としてほとんどのネットワーク・カードが備えるPXE(Preboot eXecution Environment)の枠組みを使う。PXEクライアントはPXEサーバーからTFTP(Trivial File Transfer Protocol)でArdenceクライアントを取得。Ardenceクライアントは,ディスクを読み書きするBIOSプログラム(拡張INT13)をArdenceサーバーにリダイレクトするよう設定する。Ardenceサーバーの仮想ディスク・イメージを読み込んでOSの起動を開始した後は,OSの仮想ディスク・ドライバがリダイレクト処理を担う。
写真●PC Bladeシステムのクライアント機「C/Port」の背面
キーボード/マウスやディスプレイの信号を重畳して,最大200m離れたブレード・サーバーにアナログ信号として伝送するリピータとして動作する。イーサネット・コネクタはネットワーク用ではなく,伝送路として使うカテゴリ5以上のイーサネット・ケーブルを接続する。
図8●米ClearCube Technology社の「PC Blade」システム
アナログRGBはケーブル長が数mで表示が乱れ,信号伝送が難しくなる。USBは仕様上の上限が3m。これらを最大200mの距離で伝送するため,カテゴリ5以上のイーサネット・ケーブルに信号を変換して重畳する。ディスプレイ・ケーブルとUSBケーブルを200mまで延長したイメージだ。200mを超える距離に位置する場合は,光ファイバを使う。

 (2)のディスクレス型は,ハードディスクのみをサーバーで集中管理する。米Oracle社が1996年に提唱した「Network Computer(NC)」や1997年に米Intel社やMicrosoftなどが仕様を策定した「NetPC」はこの形態のシンクライアント・システムだ。クライアントは起動時にサーバーからOSやアプリケーションをダウンロードして使う。サーバーでバージョンアップやセキュリティ修正パッチの適用を済ませれば,各クライアントを再起動するだけでシステム全体が更新される。一方でクライアントのマイクロプロセッサを有効活用するため,画面転送型が不得手とする動画や3次元CADもパソコンと変わりなく使える。

 問題はネットワークの性能だった。アプリケーションを起動したり,キャッシュするのにいちいちネットワークを介してサーバーにアクセスする。始業時間がある企業では,同じ時間帯にクライアントの起動が集中するという問題もあった。

サーバーに仮想ローカルHDD

 したがって一番の課題は帯域である。2003年に1万円を切るギガビット・イーサネット・カードが登場し,状況は大幅に改善された。

 ただ旧来のディスクレス型は,改変したOSや特別のアプリケーションの配布管理システムを必要とする。互換性の面では,アプリケーションの改変なしに使える工夫を盛り込んだ画面転送型に見劣りしてしまう。そこでこの弱点をなくして再登場したのが,ネットワーク経由でサーバーのハードディスクをローカルのハードディスクとしてマウントする手法だ。ローカルのディスクとして動作させれば,パソコンと同じ実行環境が得られる。

 例えば米Ardence社の仮想ディスク*5。Ardenceサーバーに格納した仮想ディスク・イメージをローカルのハードディスクと認識させてOSを起動する(図7[拡大表示])。実際には,ネットワーク・ブートの標準仕様「PXE(Preboot eXecution Environment)」の枠組みを使う。ほとんどのネットワーク・カードがPXEによるネットワーク・ブート機能を備えているため,既存のパソコンからハードディスクを取り除くだけでシンクライアントに仕立てられる。「シンクライアント機を,パソコン以下のコストで作成するにはベストの解決策」(デル クライアント製品マーケティング本部OptiPlexブランド・マネージャーの船本庸氏)だ(別掲記事「1万円台の追加投資でシンクライアント化」を参照)。

 BIOSでOSの起動方法をPXEに設定すると,PXEクライアントはPXEサーバーを検索してTFTP(Trivial File Transfer Protocol)で起動プログラムをダウンロードする。この起動プログラムは,ディスクを読み書きするBIOSプログラム(拡張INT13)をArdenceサーバーにリダイレクトするよう設定する。Ardenceサーバーの仮想ディスク・イメージを読み込んでOSの起動を開始した後は,OSの仮想ディスク・ドライバがリダイレクト処理を担う。

 Ardence方式であれば,サーバーの処理は仮想ディスク・イメージの提供だけで済む。サーバーが演算処理を担う画面転送型よりサーバーの性能が低くても事足りる。また,従来のディスクレス型の課題だった,始業時など一斉にクライアントが起動する際の性能低下も起こらない。具体的には,仮想ディスクをマルチキャストで配信できるからだ。同じ仮想イメージを使うクライアントをグループとしてまとめ,マルチキャスト機能によって一斉に起動させる。

◆KVMスイッチ型◆ 200mをケーブル接続

 (3)のKVMスイッチ型は,サーバー室に収めたサーバーを管理者がリモート管理するのに使うKVMスイッチを応用してシンクライアント・システムを実現する。パソコンの筐体をまとめてサーバー室に置くことで集中管理するイメージだ。パソコンとまったく同じ使い勝手を実現できる唯一の方式と言える。

 問題は信号の伝送距離。一般にKVMスイッチは,ディスプレイのアナログRGBやキーボード/マウスのUSBといった入出力機器の信号を専用ケーブルで延長する。一般にアナログRGBはケーブル長が数mで表示が乱れ,信号伝送が難しくなる。USBは仕様上の上限が3mで,それ以上の距離を経るごとにUSBハブが必要になる。しかしオフィス用で考えると,サーバー室と一般の職務スペースを結ぶには,100m超の伝送距離が欲しいところだ。

 そこで出てきたのが,米ClearCube Technology社のような改良型KVMスイッチを使う手法だ(写真[拡大表示]))。ClearCube Technologyの「PC Blade」はカテゴリ5の安価なイーサネット・ケーブルで最大200mの距離でアナログRGB信号とUSB 1.1の信号を伝送する(図8[拡大表示])。当然,リモート・デスクトップやX Window Systemは使わない。

 難点はイーサネット・ケーブルの追加が必要なのと伝送距離に制限があること。伝送距離を延ばす技術の詳細は明らかにしていないが,カテゴリ5ケーブルが内蔵する4対すべての心線に,アナログRGBとUSB 1.1の信号を長距離伝送可能な信号に変換して重畳する。このためイーサネットの信号を流す既存のネットワークとは別に,カテゴリ5以上のイーサネット・ケーブルによるPC Blade専用のネットワークが必要になる。

 また200mを超える距離に位置する場合は,光ファイバを使う。500m超では,KVMスイッチ型以外の方式でなければ対応できない。TCP/IPなどの汎用ネットワーク・インフラがあれば事足りる画面転送型やディスクレス型と違い「適するのはCADや動画を主に使う特殊なユーザー」(日立製作所の岡田純センタ長)というのが現状だ。

(高橋 秀和)

1万円台の追加投資でシンクライアント化

写真●NTTコムウェアとノベルが共同開発した「USB-Linuxシン・クライアント」の試作機
CD-ROMとして認識する読み出し専用のUSBフラッシュ・メモリーを外部起動ドライブとして使う。OSはWebブラウザのFirefoxなどを含めて640Mバイト以下に抑えたカスタマイズ版のSUSE Linux。ハードディスクやUSBストレージのデバイス・ドライバを含まないため,ローカルのハードディスクは認識しない。2005年8月の製品化を予定する。

 シンクライアント機の価格は,パソコンとさほど変わらない。そのうえ何十台ものブレード・サーバーが必要となると,集積度の高い部品を使うためむしろ割高になる。このため既存のマシンを手軽にシンクライアントにするソリューションが古くから模索されてきた。

 最も手軽なのは,普通のパソコンにターミナル・サービス・クライアントをインストールする方法。ただそれだけでは,ローカルのハードディスクの利用を制限できない。そこでUSB接続のフラッシュ・メモリーをCD-ROMとして認識させることで,読み出し専用のOS起動ドライブとして使う(写真[拡大表示])。既存のパソコンのUSBポートに接続し,起動ドライブをBIOSでUSB機器に設定するだけでシンクライアントに仕立てられる。

 例えばNTTコムウェアとノベルが共同開発した「USB-Linuxシン・クライアント」。OSはSUSE Linux。WebブラウザのFirefoxなどを含めて640Mバイト以下に抑えたカスタマイズ版だ*A。ハードディスクやUSBストレージのデバイス・ドライバを含まないため,ローカルのハードディスクは認識しない。起動したOS上でターミナル・サービスのクライアントを立ち上げ,サーバー上のアプリケーションにアクセスする*B

 読み出し専用のストレージとして,複製コストが安いCD-ROMを使う方法もある。ただCD-ROMは,「OSやアプリケーションを読み出すたびにCD-ROMドライブへのアクセスが発生する。オフィスではアクセス音がうるさくて実用上問題がある」(NTTコムウェア オープンソースソフトウェア推進部OSS企画部門オープンソース戦略推進Gの北山秀安スペシャリスト)。USBフラッシュ・メモリーをフラッシュ・メモリーの大容量・低価格化によって現実的になった。

 課題はOSの起動時間。USBフラッシュ・メモリーの読み出し速度は数Mバイト/秒程度で,現在のハードディスクよりひと桁遅い。ユーザーのハードウェアに合わせたカスタマイズでハードウェアの認識と初期化の時間を省く手もあるが,「カスタマイズ費用がかさみ価格が上がる。どのパソコンで使える汎用品として1万円台の価格に抑える。起動時間は1分以内が目標」(NTTコムウェアの北山スペシャリスト)だという。