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図1●コンピュータの故障要因<BR>汎用品を組み合わせた部品群を筐体の構造設計で保護する。筐体自体も外観に商品性があるため,破損や塗装のはげをなるべく少なくする必要がある。
図1●コンピュータの故障要因<BR>汎用品を組み合わせた部品群を筐体の構造設計で保護する。筐体自体も外観に商品性があるため,破損や塗装のはげをなるべく少なくする必要がある。
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写真1●プリント基板の配線がショートした例&lt;BR&gt;写真は故障解析の受託を業務とする沖エンジニアリングが扱った事例。
写真1●プリント基板の配線がショートした例<BR>写真は故障解析の受託を業務とする沖エンジニアリングが扱った事例。
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写真2●振動試験と温度試験を同時に実行する試験装置&lt;BR&gt;写真は電子機器の設計・製造を受託するケイテックが保有する温度試験装置と振動試験装置
写真2●振動試験と温度試験を同時に実行する試験装置<BR>写真は電子機器の設計・製造を受託するケイテックが保有する温度試験装置と振動試験装置
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図2●コンピュータが故障に至るまでの傾向&lt;BR&gt;故障率が風呂桶のようなカーブを描いて推移することからバスタブ曲線と呼ばれる。初期故障と偶発故障を少なくする工夫を設計段階でなるべく多く盛り込めるかどうかが,製品の耐久性を左右する。
図2●コンピュータが故障に至るまでの傾向<BR>故障率が風呂桶のようなカーブを描いて推移することからバスタブ曲線と呼ばれる。初期故障と偶発故障を少なくする工夫を設計段階でなるべく多く盛り込めるかどうかが,製品の耐久性を左右する。
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図3●コンピュータに対して実施する信頼性試験の主な項目&lt;BR&gt;部品の段階や開発途中の試作機の段階で,携帯や据え置きといった利用環境に応じた試験を実施する。故障事例は試験項目の追加や条件の見直しとして,設計データベースに反映される。
図3●コンピュータに対して実施する信頼性試験の主な項目<BR>部品の段階や開発途中の試作機の段階で,携帯や据え置きといった利用環境に応じた試験を実施する。故障事例は試験項目の追加や条件の見直しとして,設計データベースに反映される。
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 「満員電車で押しつぶされても壊れない」「落としてもハードディスクのデータは守られる」——雑誌や新聞の広告で,こうした文字が踊っているのを目にした読者も多いだろう。性能や機能だけでなく,ハードウェアの堅牢性をうたうノートパソコンが増えてきたのだ。実は,ノートパソコンだけの話ではない。サーバーやデスクトップ・パソコンでも堅牢性の重要性は増している。一般的なアプリケーションを利用するにはもはや不自由を感じない性能に到達した今,メーカーはポスト性能・機能競争の重点項目として堅牢性を競い始めた。

 確かにパソコンが爆発的に普及し始めた1995年と今とを比べると,マイクロプロセッサの動作周波数は100MHz台から3GHz台に,ハードディスクの容量は3.5型1台で1Gバイト前後から数百Gバイトに,ノートパソコンのバッテリ駆動時間は2時間前後から5時間超に向上した。一般的なユーザーにすれば,そこそこ満足のいく仕様である。では次に求められるのは何か。出てきたのが堅牢性という訳だ。

 堅牢性が重要になってきた背景には,パソコンやサーバーに対するユーザーの意識の変化もある。今や7万円台のノートパソコン,10万円を切るサーバー機は当たり前。その結果,ユーザーはマシンを「特別扱い」しなくなった。「コンピュータは精密機器として扱うもの」という感覚が崩れてきている。

 例えばノートパソコンなら,「当初は100万円を超えるような高級品。モノとしてのとらえ方は自動車と同じだった。ユーザーもそれに見合う使い方をしていた。ところが価格が安くなりユーザー層が拡大することで,過酷な使われ方をする場面が増えた」(レノボ・ジャパン 品質開発・製品保証 ハードウェア保証試験の安藤教博プログラム担当)。

 使われ方の変化が端的に表れるのが,故障の原因。「故障の仕方が変化してきている。以前は部品の不良によるものが多かった。今はユーザーの使い方が原因の故障が中心になっている」(日本ヒューレット・パッカード パーソナルシステムズ事業統括モバイルビジネス本部の菊地友仁プロダクトマネージャー)という。

 もっとも,扱い方が悪いと言って,ユーザーの責任とする訳にはいかない。メーカーにとって堅牢性の確保は焦眉の急ということになる。ちなみにその目安を決めるのは,日常で最も過激な扱いをするユーザー。例えば「米国の学生は緩衝材の入っていないナップザックに荷物と一緒に放り込み,そのナップザックを放り投げる。そうした利用環境を想定しなくてはならない」(複数のメーカー)。国内では,松下電器産業が朝夕の乗車率がトップクラスの東京急行田園都市線の満員電車に乗車するユーザーを想定した。

設計
守るべき四つの部品

 堅牢設計のポイントは大きく二つある。衝撃や振動,荷重といった物理的な力による破損と,熱の影響(図1[拡大表示])。この二つの脅威からコンピュータを保護する。

 前者に対しては,構造的に衝撃や振動に弱い機械部品をいかに守るかが鍵になる。次の熱については,動作に支障が出ないようにする熱設計を大前提に,筐体内の温度をなるべく下げることがポイントである。これは,熱によってあらゆる部材の化学変化が加速するためだ。例えばハードディスクは,「10℃の上昇で寿命は半分,故障率が2倍」(日立グローバル ストレージテクノロジーズ企画管理部の森部義裕部長)になる。

 物理的な力に対する保護が必要なのは,構造上衝撃に弱いハードディスクと空冷ファン,そして液晶パネルだ。

 ハードディスクはディスクをモーターで回転させて非接触式のヘッドで読み書きする機械部品。ヘッドとディスクの距離はわずか10nm前後しかない。ヘッドとディスクの衝突やモータの軸受けの破損によって生じたわずかなゴミが,ヘッドとディスクを徐々に傷つけていき,故障に至る。冷却ファンもモーターで羽を回転させて風を送る機械部品。衝撃によって軸受けのベアリングが傷つくことで故障する。

 液晶パネルは,液晶を封入したガラス部分にねじるような力が加われば割れてしまう。ノートパソコンでは,軽量化のために液晶パネルの前面ガラスを削る場合も少なくないだけに,堅牢性を確保する重要性は高まっている。液晶に電圧をかける駆動回路も,衝撃や振動によって液晶パネルへの配線が断線する。

 物理的な力への対策に加えて熱対策が堅牢性を左右するのがマザーボード。基板上にはマイクロプロセッサやチップセット,グラフィックス・チップなどの各種LSIと,コイルやコンデンサなどが搭載されている。それらを結ぶ配線は,基板がたわむことによる物理的な断線や,配線に使う金属材料の化学変化によってショートを起こす(写真1[拡大表示])。前者は筐体の強度,後者は高温による化学変化の加速を食い止める熱設計が重要である。

 今後深刻になると考えられているのが,LSIのパッケージ。マザーボードに実装する端子が弱点となる。半導体の微細化に伴い,パッケージの面積が縮小*1。毛虫に例えられる,端子をチップ周辺に配した「QFP」や「TSOP」ではなく,小さなハンダのボールを下面に格子状に配した「BGA(Ball Grid Array)」と呼ばれるパッケージが主流になりつつある。微細化が進みハンダボールの大きさが小さくなるほど,パッケージとマザーボードの接着力は弱くなる。マザーボードが衝撃を受けたりねじれが起こったりすると,ハンダボールが剥離する。基板が変形しないような工夫が必要になる。

「壊れて守る」は禁じ手

 物理的な力と熱から部品を守るのは主に筐体の役割だ。内部の部品にストレスを与えないような構造設計によって,衝撃や振動を和らげて部品を保護する。熱がこもらないように通風口の位置や数を考慮し,冷却用のヒートシンクの場所や大きさに気を配らなくてはならない。

 ただし自動車のように,積極的に変形させることで衝撃を吸収するのは禁じ手だ。ユーザーはマシンの外観も製品の付加価値の一つとしてとらえる。コンピュータとして動作が正常であっても,外観が損なわれてユーザーが使いたくなくなれば,それは「故障」と同じ。内蔵する部品を守りつつ,筐体の外観も変わらない製品が求められている。

 例えば企業向けの製品では,「減価償却が終わる4年は使い続けるのが普通。その間,簡単に傷が付いたり塗装がはげるようではユーザーは納得しない」(日本ヒューレット・パッカードの菊地プロダクトマネージャー)。コンシューマ向けでは,そもそも外観に付加価値を認めて購入するユーザーが一般的。「ユーザー層の拡大に伴って増えてきたのが外観に関するクレーム」(ソニー インフォメーションテクノロジー&コミュニケーションズネットワークカンパニーVAIO事業部門5部1課の加藤光一統括課長)なのだ。

信頼性試験
最高のテストは実使用

 堅牢設計を進める上で欠かせないのは,設計の巧拙を見極める信頼性試験だ。温度変化の影響を測る「熱衝撃試験」やある周期で繰り返し振動を与える「振動試験」などである。さらにはそれらの組み合わせを実施することで,ユーザーの実利用で起こり得る設計上の問題点をあぶりだす(写真2[拡大表示])。

 シミュレーションによって大まかな強度計算や熱設計は可能だが,「実際に作って壊してみなければ信用できない」(複数のメーカーの品質保証担当者)ところは少なくない。信頼性試験の測定結果を設計にフィードバックしながら試作を重ねることで,ユーザーの手に製品が渡ってから初めて分かる問題を最小限に抑えられる(図2[拡大表示])。

 信頼性試験の項目や条件は,実際の故障事例を反映したものを使う(図3[拡大表示])。具体的な条件はメーカーのノウハウの固まりだ。「世界各国で気候や文化,ユーザーのニーズがそれぞれ違う。そうしたさまざまな利用環境の中で生まれた事例を基に,そのつど試験項目を見直している」(ソニーイーエムシーエス IT品質保証部QME課の大熊康雄統括課長)。

 温度や湿度,衝撃,振動といった基本的な試験項目は,特注部品を多用するハイエンドのサーバー機を除けば,製品の性格にかかわらずほぼ同じ。例えばノートパソコンでは,携帯向けと据え置き型とで堅牢性に明確な差を付けている訳ではない。3kg超のノートパソコンを携帯向けと見るか据え置き向けと見るかはユーザー次第だからだ。したがって「信頼性試験によって全モデルの堅牢性がすべて同じレベルに揃う。ユーザーから特定のモデルが壊れやすいという声は聞こえてこない」(レノボ・ジャパン ブランド&マーケティング製品企画の横井秀彦部長)。

 社長直属の部門として品質保証本部を設置した富士通のような例もある。「すべての製品を同じ品質保証の基準値に揃える横串を刺すため」(富士通 品質保証本部の山口英夫本部長代理)である。

 製品単体の試験のほかに,複数の製品を組み合わせたシステムとしての信頼性試験や,梱包した状態での信頼性試験もある。梱包状態で試験するのは,製品が輸送中の衝撃や振動から守られているかどうか。例えばソニーでは,梱包状態での温度試験,湿度試験,輸送を想定した振動試験,落下試験を実施している。輸送の状態を再現するために温度試験では,輸送用の土台(パレット)に製品を積み重ねた際に受ける圧力をかけて試験する。

ユーザーがPCを“強く”する

 信頼性試験の課題は,その時間が減っていること。そして故障事例についてのユーザーからのフィードバック不足だ。

 信頼性試験にかけられる時間は開発期間と製品としての寿命で決まる。ハイエンドのサーバー機ならともかく,多くのコンピュータは製品のライフサイクルが短い。特にコンシューマ向けの製品では,四半期ごとのモデルチェンジが珍しくない。部品の機能や性能が数カ月ごとに上がり,マイナー・バージョンアップする。1年もしないうちに製品自体を新モデルに刷新しなくてはならない。通常であれば2~3年をかける開発期間が,1年を切ることもある。

 その結果,「信頼性の評価試験の一部を省いて出荷するメーカーが増えている。製品の開発期間が年々短くなり,なかなか手が回らないのが現状」(沖エンジニアリングの菅沼貞雄常務)である。

 ユーザーからのフィードバック不足は,故障に至った背景をメーカーに対して正確に告知しないことが主な要因だ。「保守契約を結んだ企業ユーザーを除けば,ほとんどのユーザーは故障に至った背景を説明しない」(富士通 品質保証本部長の木村弘正常務)。例えば落下による衝撃が原因の故障であっても,同じ故障状況に至る要因はほかにもある。そもそも「落としたことで壊れたのかどうかが分かりにくい」(ソニー インフォメーションテクノロジー& コミュニケーションズネットワークカンパニーVAIO事業部門3部2課の森政之氏)。

 故障の背景が把握できなければ,多くの可能性を検討する時間と費用がその解析にかかる。たとえ面倒でも,壊れた過程を詳細に報告する行為の積み重ねが,コンピュータの堅牢性を高める。