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図1●ノートパソコンの耐衝撃,耐圧力,耐振動などのハードウェア面での堅牢性を高める主な取り組み
図1●ノートパソコンの耐衝撃,耐圧力,耐振動などのハードウェア面での堅牢性を高める主な取り組み
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写真1●1型ドライブのヘッド保持機構<BR>米Hitachi Global Storage Technologies社は2.5型以下のハードディスクで弓形に湾曲したヘッドの保持機構(サスペンション・アーム)を採用している。ヘッドの退避時にディスク上にサスペンション・アームが重ならないため,衝撃を受けたときにディスクとサスペンション・アームが接触することによる破損を防げる。
写真1●1型ドライブのヘッド保持機構<BR>米Hitachi Global Storage Technologies社は2.5型以下のハードディスクで弓形に湾曲したヘッドの保持機構(サスペンション・アーム)を採用している。ヘッドの退避時にディスク上にサスペンション・アームが重ならないため,衝撃を受けたときにディスクとサスペンション・アームが接触することによる破損を防げる。
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図2●米Lenovo社のハードディスク保護機構&lt;BR&gt;ハードディスクはヘッドのディスク上から退避させた状態とヘッドがディスク上にある状態とで耐衝撃性が4~5倍違う。そこで筐体に加速度センサーを搭載。加速度がしきい値を超えた場合に「落下の前兆」としてヘッドの退避命令をハードディスクに発行する。
図2●米Lenovo社のハードディスク保護機構<BR>ハードディスクはヘッドのディスク上から退避させた状態とヘッドがディスク上にある状態とで耐衝撃性が4~5倍違う。そこで筐体に加速度センサーを搭載。加速度がしきい値を超えた場合に「落下の前兆」としてヘッドの退避命令をハードディスクに発行する。
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図3●東芝のハードディスクを保護する方式&lt;BR&gt;加速度センサーの感度を高い値に固定した場合は,机上時など安定した状態でもヘッドが退避してしまいユーザーの体感性能に影響する。低い場合は落下の前兆時にヘッドの退避が間に合わない。そこで3軸の加速度センサーによって傾きの度合いを検知し,その程度によって動的に加速度センサーの感度を変える。dynabook SS MX/LXシリーズに搭載した。
図3●東芝のハードディスクを保護する方式<BR>加速度センサーの感度を高い値に固定した場合は,机上時など安定した状態でもヘッドが退避してしまいユーザーの体感性能に影響する。低い場合は落下の前兆時にヘッドの退避が間に合わない。そこで3軸の加速度センサーによって傾きの度合いを検知し,その程度によって動的に加速度センサーの感度を変える。dynabook SS MX/LXシリーズに搭載した。
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図4●軸受けの種類による耐衝撃性の違い&lt;BR&gt;現在のハードディスクは,オイルを用いた流体動圧軸受けを使ったモーターを搭載するのが一般的。点接触によって摩擦を減らすボールベアリングは衝撃が接触点に集中しやすい。キズによる摩耗の激化によって故障の要因になるとともに,異音の増加が故障と判断されることもある。一方,流体動圧軸受けでは,回転する軸に刻んだ溝によってオイルに圧力をかけて軸と軸受けを面接触で保持する。このため衝撃に強い。
図4●軸受けの種類による耐衝撃性の違い<BR>現在のハードディスクは,オイルを用いた流体動圧軸受けを使ったモーターを搭載するのが一般的。点接触によって摩擦を減らすボールベアリングは衝撃が接触点に集中しやすい。キズによる摩耗の激化によって故障の要因になるとともに,異音の増加が故障と判断されることもある。一方,流体動圧軸受けでは,回転する軸に刻んだ溝によってオイルに圧力をかけて軸と軸受けを面接触で保持する。このため衝撃に強い。
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写真2●東芝のdynabook SS LXのハードディスク用緩衝材&lt;BR&gt;ハードディスクはネジで固定せず,ハードディスクの4隅を緩衝材で覆って固定する。
写真2●東芝のdynabook SS LXのハードディスク用緩衝材<BR>ハードディスクはネジで固定せず,ハードディスクの4隅を緩衝材で覆って固定する。
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写真3●東芝のdynabook SS MXのハードディスクの裏ブタ&lt;BR&gt;ドーム形状にすることで押し下げ圧力に対する強度を高めている。
写真3●東芝のdynabook SS MXのハードディスクの裏ブタ<BR>ドーム形状にすることで押し下げ圧力に対する強度を高めている。
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写真4●米Hewlett-Packard社のHP COMPAQ NC6230のハードディスク固定方法&lt;BR&gt;ネジによる3点留めで筐体に固定する。遊びによる振動の増幅や衝撃の増加を防ぐ。
写真4●米Hewlett-Packard社のHP COMPAQ NC6230のハードディスク固定方法<BR>ネジによる3点留めで筐体に固定する。遊びによる振動の増幅や衝撃の増加を防ぐ。
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写真5●米Lenovo社のThinkPadシリーズの液晶パネル保護機構&lt;BR&gt;3点でかみ合わせることで,圧力による筐体の変形を最小限に抑える。これにより液晶パネルの破損を防げる。
写真5●米Lenovo社のThinkPadシリーズの液晶パネル保護機構<BR>3点でかみ合わせることで,圧力による筐体の変形を最小限に抑える。これにより液晶パネルの破損を防げる。
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写真6●東芝のdynabook SS MX/ LXの耐衝撃性を高める形状&lt;BR&gt;本体側の筐体の四隅に張り出しを設ける。落下時に張り出し部分が衝撃を受け止めるため,液晶パネルにかかる衝撃を和らげる効果がある。張り出し部分は基板や構造物のない空きスペース。積極的に変形させることでハードディスクや基板に対する衝撃を吸収させるのが目的だ。
写真6●東芝のdynabook SS MX/ LXの耐衝撃性を高める形状<BR>本体側の筐体の四隅に張り出しを設ける。落下時に張り出し部分が衝撃を受け止めるため,液晶パネルにかかる衝撃を和らげる効果がある。張り出し部分は基板や構造物のない空きスペース。積極的に変形させることでハードディスクや基板に対する衝撃を吸収させるのが目的だ。
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写真7●東芝の液晶パネル保持機構&lt;BR&gt;ハードディスクと同様に,液晶パネルとその駆動回路部品を緩衝材のみで支えている。写真中で青く見える部分が緩衝材。試作機のスケルトン・モデルのため実際の緩衝材の色は異なる。dynabook SS MX/LXで採用。
写真7●東芝の液晶パネル保持機構<BR>ハードディスクと同様に,液晶パネルとその駆動回路部品を緩衝材のみで支えている。写真中で青く見える部分が緩衝材。試作機のスケルトン・モデルのため実際の緩衝材の色は異なる。dynabook SS MX/LXで採用。
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写真8●松下電器産業のLet'snote W4/T4で採用した液晶パネル側筐体の天板形状&lt;BR&gt;ボンネット形状の構造物を設けて強度を高める従来の工夫に加えて,天板の両サイドに傾きを付けた「ねじり構造」による立体構造を追加した。ロゴマークのある天板中央の面も曲率半径が6000mmの曲面にした。
写真8●松下電器産業のLet'snote W4/T4で採用した液晶パネル側筐体の天板形状<BR>ボンネット形状の構造物を設けて強度を高める従来の工夫に加えて,天板の両サイドに傾きを付けた「ねじり構造」による立体構造を追加した。ロゴマークのある天板中央の面も曲率半径が6000mmの曲面にした。
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写真9●松下電器産業のLet'snoteシリーズの内部構造&lt;BR&gt;液晶パネルを保護するために液晶パネルの周辺部を直方体の構造物でくるむデザインを採用した。写真は液晶パネル側筐体の天板側。液晶パネル側底面部と組み合わせることで直方体の構造物にくるまれる形になる。
写真9●松下電器産業のLet'snoteシリーズの内部構造<BR>液晶パネルを保護するために液晶パネルの周辺部を直方体の構造物でくるむデザインを採用した。写真は液晶パネル側筐体の天板側。液晶パネル側底面部と組み合わせることで直方体の構造物にくるまれる形になる。
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図5●松下電器産業が採用した基板指示方式&lt;BR&gt;基板の一部のみをネジ留めすることで,筐体の変形によって基板に直接圧力がかかることを防ぐ。
図5●松下電器産業が採用した基板指示方式<BR>基板の一部のみをネジ留めすることで,筐体の変形によって基板に直接圧力がかかることを防ぐ。
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写真10●松下電器産業の「ディンプル構造」&lt;BR&gt;菱形の凹凸を使った金型により,マグネシウム合金の射出成型を均一にし薄型化を実現。同時に凹凸を形成することで強度を高める。
写真10●松下電器産業の「ディンプル構造」<BR>菱形の凹凸を使った金型により,マグネシウム合金の射出成型を均一にし薄型化を実現。同時に凹凸を形成することで強度を高める。
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図6●PCカード経由で伝わる衝撃を緩和する工夫&lt;BR&gt;松下電器産業のLet'snote W4/T4では,筐体から張り出したPCカードに集中した衝撃が基板にダメージを与えないように緩衝材と補強用のリブを設けた。松下電器産業の資料を引用。
図6●PCカード経由で伝わる衝撃を緩和する工夫<BR>松下電器産業のLet'snote W4/T4では,筐体から張り出したPCカードに集中した衝撃が基板にダメージを与えないように緩衝材と補強用のリブを設けた。松下電器産業の資料を引用。
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 コンピュータの中で最も過酷な環境下に置かれるのはノートパソコンだ。持ち運びが前提なので,屋外や屋内,自動車のなかと,気温や湿度の違う環境を行き来する。衝撃を受ける機会も多い。バッテリ駆動時間の延長と無線LANの普及によって,重さが1kg前後の軽量・薄型ノートパソコンはもちろん,2kg超のノートパソコンでも,企業内や家庭内で持ち運ばれる場面が増えてきた。移動する機会が増えるほど,ユーザーの不注意による落下や圧迫を受ける可能性が高くなる。

 ノートパソコンで守るべきはハードディスク*1,液晶,基板だ(図1[拡大表示])。ハードディスクは,ハードディスク自体の改善と筐体による保護,そして制御するソフトウェアの3点で堅牢性を高める。液晶と基板は,構造上強度が弱い大きな平面を,最小限の重さと厚みの筐体でたわみや衝撃から守る。

ハードディスク
ソフト・メカ・筐体の総合力で保護

 ノートパソコンで守るべき三つの要素のうち,とりわけ重要なのがハードディスクである。「ハードディスクが,製品全体の耐久性を決める」(レノボ・ジャパン 品質開発・製品保証 機構設計の加藤勝利主任)。

 ハードディスクは機械部品と,ヘッドの位置決めやキャッシュ・メモリーを制御するLSIで構成されている。機械部品は,モーターをスムーズに回すためのベアリング,所望のデータを読み書きするためにヘッドを移動させるアクチュエータなどから成る。弱点となるのは,ディスクとヘッドが衝突することによる破損と,モーターの軸受けに使うベアリングだ。

 ディスクとヘッドが破損する可能性を減らす方法は大きく三つある。(1)記録密度の向上によるディスクの枚数やヘッドの数の削減,(2)ディスク外にヘッドの退避場所を設けるロード・アンロード機構の採用,(3)ロード・アンロード機構を制御するソフトウェアの工夫だ,

 (1)の記録密度が上がることによって,同じ容量をより少ないディスク/ヘッドで実現できる。ディスクやヘッドの数が減るので破損の確率が減る。同様に,ディスクの半径を小さくしても,ユーザーの要求を満たす容量を確保できる。1.8型や1型のハードディスクは,自重が軽いため衝撃自体が弱まる。部品点数が減ることで,軽量化が図れるので堅牢性も高まる。

 (2)のロード・アンロード機構は,滑り台のようなレールをディスクの脇に設けることによって,非動作時にヘッドをディスク外に退避させる仕組みである。2.5型から導入が進み始め,今では3.5型でも一般的な機能となっている*2。ヘッドとディスクの衝突による破損を防げるので,非動作時の耐衝撃性や耐振動性が上がる。

 ただヘッドがディスク外に退避した状態でも,ヘッドを支える保持機構(サスペンション・アーム)はディスク上に覆い被さった格好になる。そこでディスクの上空に構造物が位置しないようにサスペンション・アームの形状を工夫したのが,米Hitachi Global Storage Technologies社。

 同社は,2.5型以下のハードディスクで弓形に湾曲したヘッドの保持機構(サスペンション・アーム)を採用している(写真1[拡大表示])。ヘッドの退避時にディスク上にサスペンション・アームが重ならないため,衝撃を受けたときにディスクとサスペンション・アームが接触することによる破損を防げる。

動作時でも非動作時の耐久性を

 ハードディスクの耐衝撃性は動作時が200~300Gであるのに対して,非動作時では1000~1100Gと4~5倍の差がある*3。動作中はヘッドがディスク上にあるので,衝撃によってディスクと接触してしまう。非動作時なら,少なくともヘッドがメディアに接触しても問題が発生しない場所に位置している。物理的にヘッドが破壊されるような衝撃でない限り問題ない。

 そこで動作中にアンロード操作を行うことで,ハードディスクの堅牢性を高める手法が出てきた。筐体に加速度センサーを搭載。加速度がしきい値を超えた場合,「落下の前兆」としてヘッドの退避命令をハードディスクに発行する。米Lenovo社や東芝が,自社のノートパソコンに組み込んで出荷している。

 例えばLenovoが2003年10月以降のThinkPadシリーズの一部機種で搭載している機構(図2[拡大表示])。ファイル・システムのドライバが,加速度センサーからの情報で2次元(前後・左右)の動きを感知し,一定の加速度がかかるとヘッドを退避させる命令を発行する。

 この効果は,落下によって衝撃を受けるまでにアンロードできるかどうかにかかっている。自由落下する物体が1m落ちるのにかかる時間は約450ミリ秒である。落下の検知からヘッドの退避が完了するまでには,およそ500ミリ秒かかる。単純に自由落下の加速度を感知してからヘッドを退避させようとしても,これでは間に合わない。

 そこで筐体の傾きや揺れに伴う2次元の加速度がしきい値を超えた時点で「落下の予兆」と判断してアンロードしてしまう。2次元の加速度センサーは筐体に対して垂直の加速度を検知できないが,水平に静止した状態で落下が始まるケースはまれ。膝の上から落とす,手から滑り落ちる,といったケースがほとんどなので実用上問題はない。

落下の予兆を推論

 加速度センサーの感度を高い値に固定した場合は,机上時など安定した状態でもヘッドが退避してしまいユーザーの体感性能に影響する。低いと落下の前兆時にヘッドの退避が間に合わない。Lenovoの方式は,移動中やひざの上という設置状態における定常動作時のデータをプロファイルとして持ち,ヘッドを退避させる加速度のしきい値を動的に変更することで無用なヘッド退避を減らしている。

 Lenovoと同様な機構を採用した東芝は,筐体の傾きの度合いを検知し,その程度によって動的に加速度センサーの感度を変える機構をdynabook SSMX/ LXシリーズに搭載した(図3[拡大表示])。加速度センサーには3次元の方向を検知可能なものを用いる。「3次元のベクトルが検知できるので傾きを正確に把握できる」(東芝 PC&ネットワーク社PC開発センターPC設計第一部第八担当の中村浩二主査)。つまり,上下方向の加速度も落下の前兆としてとらえられるようにした。また,ACアダプタ接続時は感度を弱め,バッテリ駆動時に上げる。前者の方が机上など安定した状態にあるケースが多いためだ。

オイルのベアリングで異音を排除

 流体動圧軸受けは,回転部の摩擦を減らすベアリングにオイルを使うので耐衝撃性が上がる。

 ベアリングの耐衝撃性は,衝撃が特定の個所に集中するかどうかで決まる。例えばボールベアリングは,ボールの点接触によって摩擦を減らす構造になっているので,衝撃を受けた際に軸受けが傷つきやすい(図4[拡大表示])。軸受けが傷つくと,キズによる摩耗の激化によって故障の要因になるとともに,異音の増加が故障と判断されることもある。

 一方流体動圧軸受けは,軸と軸受けの間に満たしたオイルで摩擦を減らす。具体的には,軸に刻まれた溝が回転することでオイルに圧力をかけ,軸と軸受けが接触しないようになる。軸を面で支える形になるため特定の個所に衝撃が集中しない。

 流体動圧軸受けは2001年に採用製品が出始め,現在のハードディスクは流体動圧軸受けを使ったモーターを搭載するのが一般的だ。「ボールベアリングの軸受けが主流だった時代は,経年劣化による回転音を異音と見なして故障と考えたユーザーがいた。流体動圧軸受けに変わってから,そういったクレームは聞こえてこない」(レノボ・ジャパン 品質開発・製品保証 ハードウェア保証試験の安藤教博プログラム担当)。

筐体に安全地帯を形成

 筐体からハードディスクに伝わる衝撃や振動を和らげるには,大きく二つのアプローチがある。一つは緩衝材,もう一つがネジによって筐体に固定する方法だ。

 前者のアプローチを採る東芝のdynabook SS LX/MXでは,ハードディスクをネジで固定せず,ハードディスクの4隅を緩衝材で覆って固定する(写真2[拡大表示])。これにより衝撃は緩衝材で吸収された後でハードディスクに伝わる。さらにドーム形状にした裏ブタをすることで,押し下げ圧力に対する強度も高めている(写真3[拡大表示])。

 後者のアプローチでは,遊びによる振動の増幅や破損を,ハードディスクを筐体に強く固定することで防ぐ。「ハードディスクは筐体狂にかっちり固定するのが現時点でのベストと考えている。フローティングは確かに衝撃には強いが,振動に対してはそうとも言えない」(ソニー IT&モバイルソリューションズネットワークカンパニー ITカンパニー3部2課の三好直樹氏)。

 例えば米Hewlett-Packard社の「HP COMPAQ NC6230」は,ハードディスクを筐体に取り付けるためのマウントをネジによる3点留めで筐体に固定する(写真4[拡大表示])。マウントの変形を食い止めるのが目的だ*4。ただし製造時のネジ留めに時間がかかるといった問題を抱える。故障時の部品交換時に,修理担当者がハードディスクを取り外す際の手間も増える。

液晶パネル
デザインで決まる強度維持の手法

 2枚のガラスの間に液晶を封入した液晶パネルは,パネル単体では衝撃や振動に弱い部品だ。そこで液晶パネルをはめ込む筐体の構造を工夫することで,圧力や衝撃に対する強度を高めている。工夫の仕方は,筐体のデザインに応じて大きく二つのアプローチがある。ノートパソコンでは一般的な石板のような形状を維持しつつ強度を確保する手法と,強度を高めるために凹凸のある構造を取り入れる手法だ。

衝撃を集中させ液晶を保護

 まず石板形状の場合。液晶パネルを収めた石板状の筐体は建造物と違って梁や柱を設けられないため,変形をふせぐ工夫が必要になる。

 例えば,石板に似た平らな筐体をコンセプトとするThinkPadシリーズでは,平面のまま圧力に対する強度を高める手法として,閉じたときに液晶パネル側の筐体を本体側に固定できるようにして耐圧力性能を高めた(写真5[拡大表示])。具体的には,3点でかみ合わせることで,圧力による筐体の変形を最小限に抑え,液晶パネルの破損を防いでいる。

 液晶パネルだけでなく,液晶パネルを駆動する回路部品や配線を守るのも筐体の役割だ。液晶パネルの駆動回路は,バックライトに電源を供給する昇圧回路のインバータと画面を描画するドライバから成る。駆動回路は液晶パネルとは別部品。解像度に応じた配線数をフレキシブル基板でつなぐ必要がある。ここが弱点になる*5

 例えば東芝のdynabook SS MX/LXは,液晶パネルを保護する目的で,筐体本体の四隅に張り出しを設けた(写真6[拡大表示])。いわば自動車のバンパーに該当する。特徴は,「壊れてしまうのではなく,形が元に戻る弾性変形で守る点である*6」(東芝 PC&ネットワーク社PC開発センターメカニカル開発センター第四担当の川村法靖グループ長)。

 張り出しによって吸収し切れなかった衝撃は,ハードディスクと同様に緩衝材で吸収する。具体的には,液晶パネルとその駆動回路部品を緩衝材のみで支える(写真7[拡大表示])。駆動回路と液晶パネルを接続するタブも緩衝材で保護するようにした。

凹凸と曲面で強度を確保

 強度向上の観点から平面ではないデザインを採用したのが,松下電器産業のLet'snoteシリーズである。車のボンネットに似た構造にすることで圧力に対する強度を高めた。しかも変形に弱い平面をなるべく少なくすることで,現行のLet'snote T4/W4では天板全面で100kgの荷重(加速度は1m/秒)に耐える強度を実現した。

 Let'snote T4/W4は,天板の両サイドにわずかな傾きを付けるとともに(写真8[拡大表示]),ロゴマークのある天板中央の面も曲率半径が6000mmの曲面に成型している。液晶パネル側筐体の天板を曲面で構成することによって,圧力を受けた際の変形を抑えている。

 このほか,液晶パネルを保護するために周辺部を直方体の構造物でくるんだ(写真9[拡大表示])。つまり,液晶パネル側の底面部の内側にもう一つの壁を形成し,天板と組み合わせた際に直方体の構造物にくるまれる形になるようにした。これによって,液晶パネル側筐体の周囲に補強物を入れたのと同じ強度を確保できるようになった。液晶パネル側筐体の端をつかんで持ち上げる際や,液晶パネル側筐体が衝撃を受けた際の変形を防ぐ効果がある。

基板
たわみと衝撃を筐体で食い止める

 ノートパソコンの基板は,サーバーやデスクトップに比べて面積が小さい。このため基板の一部に圧力を加えた場合の基板のたわみがより急カーブになる。LSIやコンデンサ,コイルのはく離や断線につながる可能性が高まる。

 特にはく離は,環境負荷軽減の要求と半導体パッケージの小型化によって起こりやすくなっている。前者は有害物質規制をクリアする鉛フリーのハンダによって接着力が弱くなること,後者はパッケージと基板を接着するハンダの接着面積が小さくなることによって,それぞれ強度が低下する。そこで基板に圧力や衝撃が加わらないようにするのが,本体側筐体の役目だ。

 圧迫に対する基本的なアプローチは,本体側筐体が変形しないように,強度を保てる肉厚の部材を使うこと。樹脂と比べて強度が高く軽量なマグネシウム合金が主流である。ただ軽量化を至上とするノートパソコンでは,マグネシウム合金の肉厚をなるべく薄くする必要がある。

 例えば松下電器産業は,基板の変形をふせぐために柔構造を採用した。具体的には,基板の一部のみをネジ留めする構造を取り入れた(図5[拡大表示])。基板の周囲を筐体にネジ留めする一般的な構造では,筐体の変形が基板に直接伝わってしまう。そこで基板の一部のみをネジ留めすることで,筐体の変形によって基板に直接圧力がかかることを防ぐ

 軽量をコンセプトとする同機では,筐体外板の肉厚をなるべく薄くする必要がある。問題は,肉厚を薄くすると強度が落ちること。マグネシウムの成型も難しくなる。マグネシウムは,液体のマグネシウム合金を一気に金型に注入して作る。液体金属が固体となるまでの時間はほんの一瞬だ。金型が薄く大きくなるほど歩留まりが落ちる。

 そこで筐体の底部は,ひし形の凹凸を付ける構造とした(写真10[拡大表示])。凹凸を付けることで強度が高まる。同時に,「マグネシウムが金型に行きわたりやすくなる」(松下電器産業 パナソニックAVCネットワークス社テクノロジーセンター機構設計チームの佐藤潤氏)という。

 衝撃については,筐体の保護をかいくぐって基板に直接衝撃がかかるケースも考えなければならない。例えばPCカード・スロット。挿入したPCカードが張り出している場合は,PCカードに集中した衝撃が筐体の保護を経ることなく基板にダメージを与える。そこで筐体内部のPCカードのコネクタ部分に緩衝材と補強用のリブを設けた(図6[拡大表示])。


図●日用品として携帯電話機がさらされる動作環境の例
精密機器としての扱いが期待できるノートパソコンと異なり,ユーザーが電話をかける際の落下や自動車内での動作など日用品としての頑丈さが求められる。
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写真●折り畳み式携帯電話機が想定する押し下げの例
電話機を開いた状態で一般的な体重の人間に踏まれるケースを想定した耐久テストを実施する。
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ケータイの課題はカメラモジュール

 今や携帯電話機はノートパソコンと変わらない精密機器となっている。保護すべきは,液晶パネル,基板,そしてカメラモジュールだ。今後はこれにハードディスクが加わるケースが増える。韓国Samsung Electronics社は1型のハードディスクを搭載する携帯電話機を2004年9月に発売した。東芝も2005年秋に0.85型ハードディスクを搭載する携帯電話機を出荷する予定だ。

 ところが精密機器であるにもかかわらず,携帯電話機がさらされる環境は過酷。「携帯電話機は日用品。ユーザーが毎日肌身離さず使う。当然,精密機器としての扱いは期待できない」(三洋電機 パーソナルエレクトロニクスグループ テレコムカンパニー テクニカルエンジニアリングユニット メカニカル部の岩木徹部長)。携帯電話機の信頼性試験の条件は,落下なら立ち上がった人が手でもった際の目安として1.5m,動作温度は自動車の車内を想定するなど厳しい。ズボンのポケットに入れたユーザーが,座ったり立ち上がったりする際の屈曲による圧力にも対処する必要がある。「一般的な体重の人が踏んでも破損しない強度を維持している」(三洋電機の岩木部長)。

 液晶パネルについては,「背面の液晶パネルと前面の液晶パネルを同じ基準で守るのは難しい。前面の液晶パネルを優先的に保護することで,強度と薄さを両立させている」(岩木部長)。基板は,コンデンサや抵抗といった実装部品を筐体からいくらか離すことで破壊を防ぐ。

 今後の課題は,カメラモジュールの保護。現在のところ,「カメラモジュールは防塵のために密封された構造体の中にあるので,外部に露出しているレンズ周辺にピンポイントで荷重がかからない限り壊れない。壊れやすいという印象はない」(岩木部長)。

 ただ携帯電話機のカメラモジュールは,デジタルカメラに匹敵する機能を備えるのが主流。レンズが可動することでピントを調節するオートフォーカス機構を備える携帯電話機は珍しくない。さらに光学ズーム機構を備えるカメラモジュールを搭載する携帯電話機も登場し始めた。「光学ズームはオートフォーカスに比べると可動部分が大きい。保護する工夫が必要になる」(岩木部長)。

 そこで光学レンズの可動ではなく液体レンズの変形によってピント調節や光学ズームを実現する製品の開発が進んでいる。オランダRoyal Philips Electronics社や韓国Samsung Electro-Mechanics社などが,円筒内に屈折率の異なる液体を2層に満たしたレンズを開発中。片方の液体に電荷をかけて変形させることでピントを調節する。仏Varioptic社は,液体レンズを2枚組み合わせた光学ズーム機構を開発中だ。