写真3  ハンドルの横に付けたリモコン<BR>三菱電機のカーナビ「CU-H9700シリーズ」が採用したもの(上)。下はその試作機である。自動車に乗っているときは,停止中でもハンドルから手が離せない人が多いことに着目した。
写真3 ハンドルの横に付けたリモコン<BR>三菱電機のカーナビ「CU-H9700シリーズ」が採用したもの(上)。下はその試作機である。自動車に乗っているときは,停止中でもハンドルから手が離せない人が多いことに着目した。
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UCDに潜む課題

 このようにユーザビリティを意識した製品開発が根付いてきたからこそ新たな課題も見えてきた。目的をスムーズに果たせることだけが,ユーザーの満足度に影響するわけではない点だ。

 例えば「使えなかったものを克服した,という喜びが,その製品に対する満足感につながることもある」(富士ゼロックス 開発管理本部 ヒューマンインターフェイスデザイン開発部の国枝恵理子氏)。典型例がゲームだ。ゲームはあえてユーザーにうまく操作できない要素を入れておき,それを克服することの楽しさを与える。実際にユーザー調査をしても「すんなり使えているように見えた人が,この機械は使いにくいと答えたりする。逆に苦労していた人の方が,機械に満足していることもある」(三菱電機の沢田氏)。

 米国の認知心理学者D. A. Normanは,2004年に出版した書籍Emotional Design(邦訳:『エモーショナル・デザイン』)でこの問題を指摘した*2。Normanは,ユーザー中心の設計によって使いやすい製品を生み出すことの重要さを説いてきた学者として知られる。それがこの本で,人間の情動(Emotion)を喚起するデザインの重要性を述べた。ユーザビリティを重視して考えられたデザインは見た目には目立たないものになることが多いからこそ,ユーザーの情動を喚起するにはまた別の工夫が必要になる。

 またNormanは,UCDによってユーザーの個々の作業をスムーズに実行させることを重視すると,全体のデザインとしては複雑になりすぎることがあると指摘する。2005年7月,雑誌ACM Interactionsに投稿した“Human-centered design considered harmful”というショッキングなタイトルの記事で述べた。新しく「Activity-Centered Design」を提案し,作業の集合としてなされる活動(Activity)に着目すべきことを強調した。

地道なユーザビリティも忘れるな

 このような「情動面などさまざまな要素から成るユーザーの満足度をいかに測り,製品に反映するかが,まさに今どのメーカーも直面している課題」(三菱電機 デザイン研究所の上村一穂インタフェースデザイン部長)。ただ,その答えは簡単には見出せない。情動は定量的に測定できないぶん,それを喚起するための方法も定式化しにくい。また,ユーザーにヒントを求めるのも難しい。ユーザーを強烈に引きつけるには,今まで見たことのなかったような斬新さを提示する必要があるが「ユーザーに聞いても,未来のものは出てこない」(三菱電機 インタフェースデザイン部 インタフェース第3グループ 専任の松原勉氏)。作り手のひらめきや感性に頼るしかないのが現状だ。

 ただし注意しなくてはならないのは,「情動を喚起するデザインは,地道なユーザビリティの先にある」(ユー・アイズ・ノーバスの鱗原氏)こと。ひらめきやセンスは重要だが,ユーザーにとって使いやすいか,目的にかなっているかを無視してはデザイナの独りよがりに陥る。両方のバランスをうまく取る必要がある。

 例えば,米Apple Computer社の携帯型音楽プレーヤ「iPod」。「iPodはアイデア勝負で出てきた製品のように見えるかもしれないが,実際は地道なユーザビリティの部分も相当練り込んで作られている。念入りな調査に基づいた開発がなされたはず」(小樽商科大学 商学部社会情報学科の平沢尚毅助教授)。

 三菱電機も,2005年5月に発売したカーナビ「CU-H9700シリーズ」では入念な検証を心がけた。ハンドルの横に小さなリモコンを付けるという新たなUIを提案した(写真3[拡大表示])。これも最初は,デザイナのひらめきから生まれた。しかし「突然の思いつきだけで製品化したわけではない。2~3年前に最初の提案をしてから,試作機を作りさまざまな人に使ってもらって,フィードバックを受けてきた」(三菱電機 デザイン研究所 インタフェースデザイン部 岡田詩門インタフェース第3グループマネージャー)。