カスタマイズ対応力が決め手に
黒澤氏は,システムを再構築するに当たり,NECを含むベンダー3社から提案を募った。各ベンダーの提案内容は,同学部が事前に指定した主な要件は満たしていたが,ハード/ソフトの構成は大きく異なった(図3[拡大表示])。
各社の提案を精査した黒澤氏と松島氏は,システムの可用性を重視する観点からハード機器の総数に着目した。「経験上,障害の発生率はハード機器の総数に比例する傾向がある。従来よりもハード機器の台数が増える構成は避けたい」(黒澤氏)と考えていたためである。そんな黒澤氏の目に留まったのが,メール・サーバー2台,NAS装置1台というシンプルな構成の提案だった。
冗長構成についても,NECだけがアクティブ-アクティブ方式を提案した。システム構成を決めたNECの天内剛史氏(第一官庁システム事業部 主任)は,「アクティブ・サーバーからスタンバイ・サーバーへの切り替え失敗といったサービス停止のリスクを最小限にしたかったため」と説明する。
決め手の一つになったのは,メール・サーバー・ソフトのカスタマイズ対応力だった。同学部は,ユーザー認証の用途にNIS(Network Information Services)サーバーを運用しており,メール・サーバーに新規ユーザーを登録する際には,NISサーバー上でもユーザーを登録する二重の作業が発生していた。DEEPMailの製品説明に訪れたディープソフトの担当者と打ち合わせた際,黒澤氏は二重の登録処理を解消したいと相談を持ちかけた。すると,「(DEEPMailを)カスタマイズすれば対応できる」と開発工数の目安をその場で即答したという。「“いったん持ち帰って検討します”と答えるベンダー担当者が多い中,即断できる技術力とフットワークの軽さに魅力を感じ,DEEPMailを採用したい気持ちが強くなった」と黒澤氏は打ち明ける。
三つの手順でノンストップ移行を実現
もう一つ決め手となったのは,NECが提案した,メールの送受信を止めることなくシステムを移行する案だった。段階的にいくつかの手順を踏むことにより,無停止での移行を実現している(図4[拡大表示])。
まず,DNSサーバーの設定を変更して,送受信の処理を新メール・サーバー(DEEPMail)に切り替えた(手順1)。「作業自体は瞬時に終わるため,メーラー上にデータを保存しているユーザーは,新規メールを送受信しても切り替わったことにすら気がつかない」(天内氏)。
旧メール・サーバー内に保存されているメール・データの移行が工夫のしどころだった。新規メールの送受信を開始したDEEPMailサーバーに,旧メール・サーバーのデータを移行すると,データを上書きしてしまい不整合が生じる可能性があるためだ。
この問題を回避するため,メーラーの機能を応用して旧メール・サーバーからIMAP形式でメールを取得するツールを自作し,旧メール・サーバー内のデータをDEEPMailサーバーに取り込んだ(手順3)。
ただし,旧メール・サーバーのデータを取得する際には,事前にNISサーバーでユーザー認証を実行する必要があるが,「パスワードは設定したユーザー自身しか分からない」(天内氏)。そこで,全ユーザー・アカウントに仮のパスワードを付与した移行用のNISサーバーを別途用意しておき,認証処理を代行した(手順2)。ユーザー・アカウントの数だけ,データを取得する処理を繰り返し,約3時間でデータの移行が完了した。