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インターネットの予言書「The Death of Distance」
インターネットの予言書「The Death of Distance」
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 顧客の「処遇」は、概念としては「サービス」に近い。処遇とは、「顧客を評価し、それぞれに応じた扱いをすること」なのだが、日本企業は、全般的に「応じた扱い(対応)」が下手だといえる。

 顧客への対応ぶりを詳細に観察して、問題点と改善策を講じる活動を、コトラーはゴースト・ショッピング(ghost shopping/幽霊の購買活動・利用行動)として、顧客満足の追跡と評価の方法として紹介している。一般にはゴースト・ショッピングというよりもミステリー・ショッピングと称され、ミステリー・ショッパーによる調査は米国では1970年代から行われている。調査員には、専門的な知識や経験、あるいは教育訓練と相応の倫理観が求められるので、お手軽なレストランのモニター募集というたぐいとは決定的に違う。米国にMystery Shopping Providers Association(http://www.mysteryshop.org/)があるし、サービスによる差別化の方法は、S. Brown著の「Total Quality Service」に述べられている。

 筆者の主張は、サービスによる差別化を実現するためには、組織的で専門的なミステリー・ショッピングが必要というものだ。

サービスの重要な概念

 浅井慶三郎著「サービスとマーケティング−パートナーシップマーケティングへの展望」(同文館刊)を読めば、サービスとは何なのか、サービスとはどういうものなのか、サービスがどういう特質を備えているのか、などが容易に理解できる。

 筆者が理解している要点は次の3点だ。

◎ サービスは要求者(顧客)が参加していないと成立しない。
◎ サービスには在庫がない。
◎ サービスは、インタラクティブである。

 世間では、サービスがよいとか悪いとかいう表現が頻繁に用いられる。その内容を丁寧に聴き取っていると、対応者(サービス提供者、浅井氏はコンタクト・パーソンと呼んでいる)の対応の仕方や内容が根拠になっていることが把握できる。それが個人的なのか、それとも組織的なのかがサービスの最も難しいところである。もちろん組織的であるべきなのだ。

ミステリー・ショッピングしてみる

 同時多発テロの影響で、筆者の米国旅行は途切れているのだが、それまでの10年余の間、相当頻繁に米国へ出かけていた。初めのころは、自宅近くの狭山市駅(埼玉県)から西武新宿駅まで行き、タクシーに乗り換えて東京シティ・エアターミナル(TCAT)へ、そして成田空港までバスで出かけていた。このルートだと、出国手続きが楽だった。ところが、このルートで行こうとすると、西武新宿駅の階段を重いスーツケースを引っ張って降りなければならない。どこか最寄り駅でスーツケースを引っ張って階段を昇り降りしなくてもよい駅はないかと探したが見つからなかった。

 ある時、大宮(さいたま市)—成田間をバスが走っていることを知った。それで帰国時に試してみた。成田から大宮駅へバスで行って、そこからJR川越線で川越へ行き、川越から狭山市の自宅までタクシーで戻るというルートである。ところが、大宮駅のバスの発着所から改札口までと川越駅では、出発時よりも書籍で重くなっているスーツケースを引っ張って昇降するという苦行が必要だった。

 そのうちに、神奈川県の三浦市へ越したので、新たにルートの開拓が必要になった。今のお薦めルートは、タクシーで京浜急行のYRP野比駅(横須賀市)へ行く(最寄り駅は階段だけの三浦海岸駅)。そこで京急自慢の2100系の最後部に乗る。金沢文庫駅で連結される羽田空港駅行きに乗り換える。羽田から関西国際空港へ行って、そこでお気に入りの航空会社の米国行きに乗り継ぐ。そうすると、重いスーツケースを携えて階段の昇り降りで苦行する必要がない。もちろん復路も。

 この話を持ち出したのは、このころ米国で頻繁に使われるようになったCustomer Experience(顧客の経験・CE)とサービスがどのようなものかを例示する目的である。

 日米間の移動のサービス提供者は航空会社だと思われるだろうが、旅行者にとっては自宅を出てから目的地へたどり着くまでである。国際空港への移動サービスでは、タクシー、鉄道、航空会社、それに通過点の設備施設会社がかかわっている。米国ではその点はよくできている。しかし、日本の場合は連携が全く希薄だ。旅行者と荷物の運搬サービスをそれぞれが独自に考えて提供しているからこういう事態になる。

 サービスでもう1つ考えなければならないのは、customer cost(顧客コスト)である。サービスを利用するために、顧客側が負担しているコスト(見なしの場合もある)がサービスの利用を抑制させている。つまり、よほどのハンバーガー好きでもない限り、片道150円の運賃を支払って、100円だからと買い求めには行かないということだ。(次回に続く)

多田 正行(ただ まさゆき)氏:1947年生まれ。ロッテリア、チーズブロー・ポンズ・ジャパン・リミティッド、日本タッパウェアなどでシステム企画に携わった後、93年に独立。現在「eCRM塾」主宰。著書に「売れるしくみづくり」(ダイヤモンド社)、「コールセンター・マネジメント入門」(悠々社)、「コトラーのマーケティング戦略」(PHP研究所)など。「ITpro Watcher」で「CRM Watchdog」を連載中。