システム障害の根本的な原因は、IT部門の弱体化にありそうだ。こんな考えを持ち始めた業界関係者はきっと多いことだろう。証券会社のIT部門に在籍したことのある東京情報大学の玉置彰宏教授もその1人だ。ITは本流でないとし、IT部門を縮小したり子会社化したりする。さらにIT子会社を売却してしまう。そんな企業がIT部門の人材育成に力を入れるわけもなく、システム開発はITベンダーに丸投げする。

 弱体化したIT部門は、システム障害が起こると、ITベンダーに対策を命じるだけ。右往左往するだけのIT部門は、ITベンダーに開発や運用を委託したのだから、責任はすべてITベンダーにあると社内や世間に訴える。もちろんITベンダー側にも責任はあるのだろうが、11月1日にシステム障害を起こした東京証券取引所はその典型に見える。

 厳しい経営状態に陥った企業、IT活用をあまり重要視していない企業の中には、IT投資の削減をIT部門に強く要求する経営者もいる。コストとしか見ていないからで、そうなればIT部門の責任者はITベンダーに値下げを要請する。開発途中で更なる値下げを求めることもあるという。ITベンダーは本来なら10人で10カ月の開発期間が必要だと分かっていても、その要請に応えるには7人でやるしかない。断れば商談を失う恐れがあるからだ。技術者もそこそこの人しか配置できないし、手抜きではないだろうが、例えばテスト工数を減らすことになる。開発現場でこんなことが起きているのが想像できる。

 10年ほど前からIT子会社を設立するユーザー企業は増えている。大きな理由は、しつこいようだが、ITコストの削減とIT部門要員の処遇問題にある。IT部門を子会社化し、「安くて間違いのないITシステムを作り上げてくれさえすればいい」と思っているのもかもしれない。親会社のコスト削減要求に何とか応えようと、未経験の外販に進出したり、外注依存率をさらに高めたりする。処遇に困っていた技術者らをIT子会社に移すことで、後は子会社でなんとかしてくれるだろうと思っている。だが、子会社に移った技術者らは「親会社から言われたことをすればいい」とだんだん思うようになり、「こうした方がより良くなる」といった提案はなくなっていく。

 中には、IT子会社を天下り先の1つと見ている企業もあるだろう。IT部門長が子会社の社長あるいは取締役に就任するにあたって、親会社から投資の抑制や人員を増やすなどと指示されることもあったという。一種の流行でIT子会社を設立した企業もある。野村総合研究所や新日鉄ソリューションズなど成功したIT会社になれるかもしれないと考えたからだろう。外見だけ真似をしてもしょうがいないのだ。親会社とは異なる文化をつくり上げる。高い技術力を持った集団に仕立てる。そんな考えをもった経営者がいなければ、IT子会社はIT子会社のままになる。

IT要員の育成を怠ったツケ

 「ITは外部の専門家に任せておけばいい」と思っている企業は、IT部門の技術者を育成しない。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)の調査(企業IT動向調査2005)でも、IT部門の教育体系を整備している企業は1割程度しかないことからも明らか。企画提案もITベンダーに求める。その先にあるのは、システムを検証するなどの技術力や企画力のなくなったIT子会社の売却となる。

 大手企業でIT部門長を勤めたことのある技術者は「かつては社内の情報システムの内容が頭の中にあった。障害が発生し自宅に電話があれば、障害の状況を説明してもらえば修復の指示ができた」と話す。今はシステムが複雑化していることもあるだろうが、そんな対策を打てる人材は少なくなっている。しかも、若手技術者にノウハウを継承することもなくなる。ITベンダーにすべてお任せ状態になってしまい、若手技術者を評価する土壌もないからだ。

 それでもシステム障害は悔やんでも悔やみきれない。「あのテストさえしておけば」とIT部門もITベンダーも慎重さに欠けたことを反省するだろう。東証が慌ててIT投資を倍増すると発表したのは、そうしたことが背景にあったのではないか。その後、CIO(情報統括責任者)を採用することも決めた。

 社会インフラと化したITシステムが止まれば大変な事態になることは誰もが知っているのに、納期通り、予算通りにカットオーバーしても誰も喜ばないし、評価もしない。開発担当者が「よくやった」とほめられることも少ない。経営者が「できて当然」と思っているからだろう。そんな考え方を改めない限り、誰が責任をもってITシステムをつくろうとするだろうか。丸投げをやめて、ITで企業経営を支えるのだという気概を持った技術者(IT部門もITベンダーも)を育てる環境をつくる。社内におけるIT部門の位置づけを変え、きちんと処遇する。まず、そこから始めるべきではないだろうか。

注)本記事は日経コンピュータ05年12月12日号「ITアスペクト」に加筆したものです