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 NTT西日本が12月22日,興味深いインターネット上のサービスを開始した。PCグリッドを活用した受託計算サービスである(関連記事)。

 これは,NTT西日本の「フレッツ・光プレミアム」または「Bフレッツ」と「フレッツ・v6アプリ」の契約者が使っているパソコンの余剰能力を結集し,並列計算させることで仮想的なスーパー・コンピュータを実現するというサービス。NTT西日本は,この仮想的なスーパー・コンピュータを,高速で大規模な計算処理が必要な企業ユーザーに貸し出すことで料金を徴収する。

 地球外生命体の探索を目的とした「SETI@home」など,インターネット・ユーザーのパソコン能力を集めて計算処理を行うプロジェクトは以前からあった。しかし筆者が知る限り(少なくとも日本国内では),インターネット・ユーザーのPCグリッドを活用した商用サービスはこれが初めてである。

 しかもこのNTT西日本のグリッド・サービスがおもしろいのは,パソコンの余剰能力を提供するユーザーに対して,NTT西日本がその対価を支払うという点だ。最初その話を聞いたときは,対価を支払うといっても,その分をフレッツのサービス料金から割り引くというようなものだと思っていた。だがよく調べてみると,対価は参加ユーザーが指定する銀行口座に振り込まれるという。文字通り,ユーザーがパソコンの能力を提供してお金を稼ぐことができるというわけだ。

 NTT西日本は,すでに第1弾のプロジェクト募集を始めている(NTT西日本のページ)。1月9日までユーザーを募り,1月中旬から遺伝子解析のプロジェクトへの利用を開始する予定だという。

 これまでも,企業サイトへのリンクを個人ホームページなどに掲載することによって報酬を得る「アフィリエイト」などはあった。NTT西日本のグリッド・サービスは,アフィリエイトと同じ“インターネット上の個人ユーザーが企業からお金を稼ぐ”サービスであると言える。

 ただしアフィリエイトとは違い,その報酬レベルはかなり低い。パソコン能力の提供者に対して支払われる金額は,1時間当たりたったの2円だ。丸1日(24時間)提供したとしても48円。仮に,1カ月間丸々パソコン能力を提供できたとしても1500円足らずにしかならない。最近,書店などには「アフィリエイトで高額収入」などのマニュアル本が並べられていたりするが,同様の「PCグリッドで高額収入」などという本が発行されることは,今のところなさそうだ。

 正直な話,この程度の報酬ではユーザーは積極的に参加しようという気にはなかなかなれないだろう。それでも筆者がこのサービスをおもしろいと感じるのは,それこそ「参加することに意義がある」からである。もし筆者がNTT西日本のサービス・エリア内に住んでいて,対象のフレッツ・サービスを使っていたら,確実にこのサービスに申し込んだであろう。

 それは自分のパソコンが何かの研究や開発に使われるということが,何かちょっとした“ワクワク感”を生じさせるものだからである。そういう視点はNTT西日本も持っていると思われる。ユーザー募集サイトのサービス紹介ページには「社会貢献」などという文字も見えるし,具体的な企業名を明かしてはいないものの,第1弾のプロジェクト募集欄にはきちんと「遺伝子解析」(おそらくはヒトゲノムであろう)と銘打ってある。

 ただし,参加者のワクワク感がいつまで続くかは少し疑問だ。最初は物珍しさも手伝って筆者のようなマインドを持ったユーザーの参加はある程度見込めるが,時間がたつにつれて関心は薄れていくような気かする。しかも対価が現状のレベルのままだとすれば,報酬が強力なインセンティブになるとも思えない。

 であれば,もう一段の工夫が必要になるだろう。例えば,計算能力を欲しているユーザー企業の名前を明らかにするのはどうか。新車開発を行っている自動車メーカーや,新しいゲームを開発しているソフト・メーカーなどが,新しい商品の開発を行っていることを明らかにしてユーザーを募るのである。

 もちろん開発中に「開発している商品の名前」は明らかにできない。しかし,それが商品化されたあかつきには,「あなたのパソコンは○○の開発に使われました」と明かすのだ。その際には,なんらかの形で「証明書」を発行するのも良いだろう。そうすれば,例えば車やゲームに対して関心の高いユーザーの参加が見込めるようになるかもしれない。

 荒唐無稽と笑う方もいらっしゃるかもしれない。しかし,支払ったお金の用途をあまり意識することなく「白いバンド」が飛ぶように売れる世の中である。インターネット・ビジネスにも,こういった発想があっても良いのではないだろうか。

(安井 晴海=日経コミュニケーション 副編集長)