PR
図1  実用段階に入り見えてきた三つの課題<BR>使い勝手向上や精度を確保するための運用方法,認定制度も含めた標準化,プライバシーや個人情報保護にかかわる法制度が問題となる。
図1 実用段階に入り見えてきた三つの課題<BR>使い勝手向上や精度を確保するための運用方法,認定制度も含めた標準化,プライバシーや個人情報保護にかかわる法制度が問題となる。
[画像のクリックで拡大表示]
写真  沖電気工業の生体認証システム(上)と富士通の静脈センサー(右)&lt;BR&gt;沖電気工業の生体認証システムを使った実験では虹彩認証と顔認証を同時に行った。右側は富士通の手のひら静脈認証センサーを銀行ATMに設置した例。
写真 沖電気工業の生体認証システム(上)と富士通の静脈センサー(右)<BR>沖電気工業の生体認証システムを使った実験では虹彩認証と顔認証を同時に行った。右側は富士通の手のひら静脈認証センサーを銀行ATMに設置した例。
[画像のクリックで拡大表示]
図2  実証実験で使用した装置の利用説明画面&lt;BR&gt;出国審査で用いた装置の画面。指紋認証の際のガイダンスでは,指の置き方を説明した。沖電気工業が作成。
図2 実証実験で使用した装置の利用説明画面<BR>出国審査で用いた装置の画面。指紋認証の際のガイダンスでは,指の置き方を説明した。沖電気工業が作成。
[画像のクリックで拡大表示]

 銀行のATMや空港など社会インフラに広まりつつある生体認証には,生体情報を使うがゆえの容易に解決し難い課題が存在する。

 具体的には三つの壁がある(図1[拡大表示])。一つが本来の精度を出し切るような運用方法,二つ目が照合精度を保証しながら相互運用性を確保することや安全性を評価するための体制作り,三つ目がプライバシーや個人情報の扱いなど法的問題だ。

 それぞれの問題に対する解決策に大枠の方向性は出ているものの,議論が混沌として着地点が見えない。使用法は使い勝手に直結するので,運用しながらユーザーの声を拾い上げて対策を考えなければならない。一気呵成とはなかなかいかない。照合精度を保証する相互運用性や安全性の評価の枠組み,法制度のすり合わせは,これから話を詰めていく段階にある。

運用方法
適切な使い方を案内する

 本人であるにもかかわらず,何度試しても認証されない—。生体認証では少なからずこのようなトラブルが起こる。なぜなら,安定的に認証されるためには,慣れが必要だからだ。本来の精度で照合するには,最適な状態の登録データと,適切な照合方法が求められる。そのためには,指紋であればどういう指の置き方が必要なのか,虹彩であればどこに焦点を合わせるのかなど,認証の際のコツをユーザーに分かりやすく周知しなければならない。

 メーカー側もユーザー・インタフェースや説明画面を工夫して,ユーザーに負荷を掛けないよう取り組んでいる。例えば富士通は,手のひらの静脈をきれいに撮影できるようにセンサーの周囲に手を載せるためのアクリル板を設置した。こうしてセンサーに手を近づける距離や手のブレを解消した(写真[拡大表示])。

 このほか,成田国際空港で2005年1月~6月に実施した,生体認証を使った搭乗手続きの実証実験でもさまざまな工夫が盛り込まれた。空港は頻繁に利用するわけではないため,利用者の慣れには頼れないからだ。

 実験では,誘導画面と生体認証の実施手順の工夫が大きく使い勝手を左右した。ちなみに,この実験では顔,虹彩,指紋を使って運用性を検証(別掲記事参照)。沖電気工業,松下電器産業,NTTデータがそれぞれ別の生体認証システムを構築した。

案内と認証手順の工夫が効果

 指紋認証では,沖電気工業が指の置き方を表示する画面を作った(図2[拡大表示])。指をセンサーに載せる場合,先端から第1関節までの指紋がまんべんなくセンサーに接触するのが望ましい。ところが人によっては指を垂直にして先端だけをセンサーに押し当ててしまう。そこで視覚的に案内したところ,撮り直したり,本人を拒否してしまうことは少なくなった。

 認証方式の順番も試行錯誤だった。生体認証に慣れていないと照合完了までの時間が長くなりがち。沖電気工業は当初,顔認証,指紋認証,虹彩認証という順番で認証するようにしたが,次の動作に移るのに時間がかかってしまった。そこで顔と同時に虹彩も撮影し,そのあとに指紋認証に移るようにした(写真[拡大表示])。「普段撮り慣れている顔と同時なので,虹彩も安定的に撮影できるようになった。三つを別々に認証するのに比べて,認証完了までの時間が半分程度になった」(沖電気工業システムソリューションカンパニー社会情報ソリューション本部SE第三部の星佳典担当部長)。

 松下電器産業は,顔と虹彩の認証機能を備えたシステムを構築した。特に,位置あわせが難しい虹彩認証で工夫を重ねた。LEDと音声による案内機能や装置に設けたミラーで「どこを見ればよいのか」がすぐに分かるようにして,認証用カメラに対して正面の位置に顔を合わせやすくする工夫を盛り込んだ。

 ただ,撮影するタイミングに問題が生じた。「ICカードの読み取りに時間が掛かったため,利用者がICカードに気を取られている間に虹彩認証がスタート。結局,虹彩で認証できなかったケースがあった。今後,虹彩認証と顔認証との連携動作を改善していく」(松下電器産業 パナソニック システムソリューションズ社 先行開発グループの石原健グループマネージャー)。



図 e-Passport連携実証実験の概要
2005年1月~6月まで,外務省,国土交通省,法務省,航空会社などが実験用のIC旅券,空港での手続きにかかる時間を短縮するためのSPT(Simplifying Passenger Travel)カードを使い実験した。IC旅券には顔認証用データが,SPTカードには顔認証,虹彩認証,指紋認証用のデータが格納してある。チェックインとセキュリティ・チェックではJAL(日本航空)とANA(全日空)がそれぞれ異なる装置を設置した。JALの装置は顔認証と虹彩認証,ANAの装置は顔認証と指紋認証に対応。出国審査では,法務省が顔認証,虹彩認証,指紋認証に対応した装置を設置した。[画像のクリックで拡大表示]

生体認証を使って搭乗手続きを高速化

 生体認証は空港での手続きにかかる時間の短縮につながるか——。成田国際空港で実施した実験では,時間短縮につながることを裏付けるデータは得られなかった。

 この実験は2005年1月から6月まで実施した「e-Passport連携実証実験」の一環。2006年3月から導入予定のIC旅券と,生体認証を用いて手続きを高速化するSPT(Simplifying Passenger Travel)カードの運用性を検証した。

 現在,搭乗までの手続きを終えるまでの時間はかなり長い。成田国際空港(NAA)によると,2001年の調査では旅行者は出発時刻からさかのぼって平均2時間40分前に空港に来ていた。そこでNAAは2010年の旅行スタイルを見据えた「e-Airport構想」を掲げ,このなかで手続きの時間短縮を目指している。

 「空港では異なる管轄でそれぞれ本人確認をしている。チェックイン,セキュリティ・チェック,出入国審査をワンストップにすれば時間を短縮できると考えた」(成田国際空港 総合企画本部経営計画部投資管理グループの村山憲治マネージャー)。ちょうど国際的にもIATA(International Air Transport Association,国際航空運送協会)が,ITを使って手続きを簡素化するSPTを提唱。国土交通省と航空会社などは2002年からSPTの実験を始めた。

 e-Passport連携実証実験では,IC旅券に顔データを,SPTカードに顔,虹彩,指紋データを格納した。顔は国際的にIC旅券に格納することが必須だが,虹彩と指紋はオプション扱いになっている。

 チェックインとセキュリティ・チェックでは,JAL(日本航空)が松下電器産業のシステムで顔と虹彩を,ANA(全日空)がNTTデータのシステムで顔と指紋の認証を実験した。出入国審査は法務省の管轄。「ブラックリストとの照合を考えると,国際的にもデータが豊富にある指紋の導入は必須」(法務省 入国管理局総務課 出入国情報管理室の君塚宏補佐官)という考えから,沖電気工業のシステムで顔,虹彩,指紋のすべての認証を試した。ちなみに生体データの登録時と照合時の装置は異なる。

 実験の結果,精度が高かったのは指紋と虹彩だった。顔認証は照明の条件が悪かったこともあり,認証精度が全体的に低くなった。特に本人拒否が高い端末があり,途中でしきい値を変えるなどチューニングを施した装置もあった。このほか虹彩認証は照合時にコツが必要で時間がかかる場合が見受けられた。「安全性はなんとか確保できるレベルだが,利便性に課題がある。人によっては何度やっても拒否される場合があった。いかにいい状態で登録・照合できるかがポイントになる。もう少し技術的な進歩を待つか,ユーザー・インタフェースやガイダンス,運用法を考えなければならない」(法務省の君塚宏補佐官)。