人間の操作ミスは車載センサーや車車間通信機能の搭載によって,ある程度解決できる。クルマが危険を事前に察知してドライバに警告するからだ。しかし,ドライバの様子を見ない警告システムは独りよがりで,不快感や不信を生む可能性がある。ドライバが止まろうと思っているのに,「ブレーキを踏め」と警告されたら不快だろう。また,土地勘がなく運転に自信のないときは細かく指示してほしいし,イライラしているときは最少限がありがたい。
ドライバの様子を見ながら,適切なタイミングで危険を教えてくれる。つまり,“気配りの利く同乗者”のようなクルマが理想の姿だ(図1[拡大表示])。
カメラと運転動作で状態を判断
ではクルマはドライバをどのように観察すればいいのか(別掲記事「雰囲気で危険を知らせるインタフェース」を参照)。
ドライバの運転行動は「認知」「判断」「操作」に分解できる。認知では,周囲の状況を把握し,もし危険があればそれを理解する。判断でその危険を避ける方法を決定し,操作で判断に基づいてハンドルやブレーキを動かす。
これら三つのうち,認知と操作は外部から観察可能だ*1。まずは認知。カメラを使えば,先行車など危険が迫っている方向にドライバの注意が向いているかを調べられる。顔の方向や視線を検出するのだ。まぶたを観察すれば,眠たいのか,または眠っているかを判断可能。脈拍センサーを使って脈をとることでも,緊張や眠さ,疲れ,驚きなどの状態をある程度推測できる。体の状態によって脈拍が敏感に反応することを使う。
操作はドライバの運転動作をセンシングすれば分かる。例えば,ハンドルやアクセル,ブレーキ,シフトレバー,方向指示器などを観察し,これらが周囲の状況に応じて適切に操作されているか調べるのだ。
バックミラーが人を見守る
カメラを使ったドライバの認知状態の観察は実用化されつつある技術である*2。デンソーや東海理化といった自動車部品メーカーが開発に力をいれる。例えば,東海理化は名城大学と共同で顔の向き,瞬き,視線を観察するシステムを開発している*3(写真1[拡大表示])。
ドライバーの動作はバックミラーに仕込んだ赤外線カメラで観察する。バックミラーにカメラを仕込むのは「ドライバがクルマに乗ったときに自分で合わせてくれるから」(東海理化 技術開発センター開発部ITS開発室の森惠室長)。ドライバごとにシートに座る位置や座高が異なる。カメラを固定的な位置に置く場合,すべてのケースを想定し広い領域を撮影するか,人の顔の位置に合わせて自動調整する機構を設けなければならない。バックミラーならこうした手間が省ける。
バックミラーの中にはカメラのほか,撮影に十分な光量を確保するために近赤外光のLEDを組み込む。短時間のパルス発光をさせるなど,ドライバに違和感を与えないように工夫する。また,ミラーの表面には照射光と同じ波長のものだけを通すフィルタが張ってあり,鏡としての能力は落ちない。
瞬きの速さで眠気を判定
顔の向きは,両目の間隔から割り出す(図2[拡大表示])。人の顔をカメラで撮影すると前を向いているときが最も両目の間隔が広く,横を向くほど間隔が狭くなる。大きく横を向き両目が検出できなくなった場合は,顔の輪郭と目の間隔を使う。
瞬きはまぶたの動きから検出する(図3[拡大表示])。まぶたの周辺は顔の中で色の濃淡の変化が最も大きい。この特徴を使って上下まぶたの位置を決定する。視線はまぶたの検出から得た目頭と,瞳孔の位置関係から割り出す。
顔の向きは,よそ見検知に使えるほか,視線と合わせてドライバの注視方向の検出に利用できる。ドライビング・シミュレータを使った実験では,平均誤差5.4度で視線の方向を割り出せたという。人間の視野角は約20度なので,ドライバが正面に注目しているかどうかは判断可能だという。
瞬きは居眠り検知と,眠気の検出に使える*4。居眠りはまぶたを閉じている時間で検知する。ある一定時間以上目を閉じていると眠ったと判定するのだ。また,人は眠いときにゆっくりと瞬きする傾向がある。まぶたの開閉時間を観察し続ければ眠いときが分かる。実験を実施したところ,センサーによる推定結果と眠いという自己申告が約95%の確率で一致した。
検出のときにサングラスやメガネの装着はそれほど問題にならないようだ。「いくつかのサングラスで試してみたが,近赤外光はフィルタしていないらしく,問題はなかった。ただし,すべてのサングラスで試したわけではないので,もしかしたら問題が出るケースがあるかもしれない。メガネはまぶたと重なってしまうような細いものだと問題が出る」(森氏)という。
雰囲気で危険を知らせるインタフェース 危険なとき,クルマがいちいち人に警告するのではなく,その雰囲気を伝えるというアプローチもある。雰囲気を伝えるだけなら,あまりおせっかいにはならない。 デンソーは2005年10月22日~11月6日まで千葉県の日本コンベンションセンター(幕張メッセ)で開催された第39回東京モーターショーで,クルマの状態を雰囲気で伝えるインタフェース「Robot Interface eye」を展示した(写真[拡大表示])。Robot Interface eyeはダッシュボードに設置することを想定したもの。中央から目玉のようなカメラが飛び出ている。また,装置の周囲にはLEDが散りばめられている。 クルマの外部センサーで周囲を調べ,Robot Interface eyeに搭載のカメラでユーザーの状態を調べる。そして,クルマが危険な状態にあるときには赤色,安全な状態にあるときには青色,間ぐらいならオレンジという具合に色を変化させる。カメラ部はユーザーに警告を発するときやコミュニケーションをとるときにその人の方向に向く。それ以外のときには,きょう体に沈胴している。カメラ部は全方位カメラを搭載しているので,沈胴しているときも,搭乗者の動きを観察できる。 |