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 「クリーニングは“やりたいこと”ではなく“やらなければならないこと”。それに休日を使いたくないはずだ」。大手クリーニングチェーンである喜久屋(東京都足立区)の中畠信一社長は,顧客のライフスタイルにクリーニング店が合わせていくべきだと考えていた。そんな折,宅配サービスに特化したネットサービスのポータルサイト「出前館」を運営する夢の街創造委員会(大阪市中央区)から,クリーニングのネットサービスを手がけてほしいという依頼がきた。

 これが,夜間でも家にいながらクリーニング・サービスが受けられる「ムーンライトデリバリー23」開発のきっかけとなった。


「出前館」通じてインターネット・サービスに進出


 「出前館 」とは,インターネットや携帯から宅配サービスを申し込める宅配ポータルサイトだ。ピザや蕎麦,寿司といった飲食分野から,マッサージや修理サービスといった生活分野まで,3500店を越える加盟店を抱えている。


図1●出前館のホームページ

 ユーザーが出前館へ注文する手段は,インターネット,携帯電話,デジタルテレビなど様々だ。ユーザーはまず「出前館」のウェブサイトで宅配を希望する地域を入力する。すると,受けられるデリバリー・サービスのリストが出るので,その中から利用したいサービスを選ぶ。注文に関する情報を確認したら,そのままネット上で注文ができる。

 2003年9月,喜久屋は出前館で初めてのクリーニング・サービスをスタートした。「サービスのラインアップに,ぜひクリーニングを加えたい」という,出前館側の強い要望があったのだ。顧客対応や顧客管理は出前館,集荷と配送は宅配業者が担当するので,喜久屋は洗濯だけを担当して欲しいという。喜久屋は,売り上げ金額から数%の手数料を出前館へ支払う。新たな販路拡大になると考えた中畠社長はサービス開始を承諾した。

 宅配業者が顧客宅に集荷・配送し,クリーニング店で洗濯をするというスタイルは,特別なサービスには感じられないかもしれない。ただし顧客には「信頼できない業者に衣類を預けたくない」という心理がある。インターネット経由のサービスでは,顧客が実店舗を見ることができず,信頼してもらえるかどうか不安がある。このため,クリーニングのインターネット・サービスに乗り出す企業はほとんどなかった。

 しかし喜久屋が出前館でサービスを開始してみると,顧客のニーズはかなり高いことが分かった。仕上がりに対する評判も上々。受注件数は徐々に伸びていった。

 ここで思わぬ展開となる。サービス開始からまもなく,集荷・配送を担当していた会社が「コストが合わない」と音を上げたのだ。東京都内で人口密度が高い地域を選んで展開したのだが,それでも地域が広すぎて,物流の効率が悪くなっていたのだ。中畠社長はサービスを続けるかどうか悩んだが,結局,自社でサービスのすべてを運営する決心を固めた。


宅配クリーニング向けパッケージの活用でコスト抑える


 自社で集荷・配送まで担当するには,「集荷・配送の日時や場所をどのように管理するか」「預かった衣類をどのように管理するのか」といった課題を解決しなければならない。

 何か良い策はないかと考えていたところ,中畠社長がたまたま受け取ったダイレクト・メールの中に,宅配クリーニング・サービス向け業務管理ソフトを紹介したものがあった。

 ソフトの開発元であるネクストベリー は宅配ビジネスを得意分野とするコンサルティング会社で,福岡に拠点を持つ。実は福岡は,宅配クリーニングが発達している地域だったのだ。

 中畠社長は早速,ネクストベリーへ連絡を取って,同社の清水勇吉社長から説明を受けた。その上で「ベンチャー企業で,経営者が若かったから」という理由で採用を決定。経営者が若ければ,顧客や自分と同じ価値観でサービスが開発できると感じたのだ。ソフトがそれほど高額でなかった点も採用の理由だ。

 ネット経由の物販とクリーニング・サービスとの一番の違いは,モノのやり取りが一方向か双方向かにある。物販は顧客宅に届けたら終わりだが,クリーニングは集荷と配送の両方を管理しなければならない。もちろん,預かっている衣類の管理も大切だ。ネクストベリーはクリーニング店の業務に合わせた宅配用の業務管理ソフト「宅配マネージャー(クリーニング業者向け)」を提供していた。

 「宅配マネージャー(クリーニング業者向け)」は,パソコン操作があまり得意ではない人でも簡単に使える。

 コールセンターの担当者は顧客からの集荷依頼や配送希望日を電話などで受け付けて,宅配マネージャーに入力する。宅配マネージャの集配管理画面では案件ごとの集荷・配送状況が一覧できるので,顧客宅を効率よく回れるように集配車のスケジュールが組める。そのほかにも,顧客宅が不在だった場合の不在管理,クレーム管理,クリーニングが仕上がっているかどうかを確認する仕上管理,集金管理など,宅配クリーニングに必要な管理業務をカバーする。

図2●D-Nextの集配管理画面。案件ごとの集荷・配送状況を一覧できる
(クリックで拡大)

 喜久屋では「宅配マネージャー」を,自社の業務内容に合わせてカスタマイズした。カスタマイズの費用はおよそ100万円。ASP(Application Service Provider)方式で提供されているため,毎月の利用料金を支払うだけでよく,サーバーなどのハードウエアを用意する必要はなかった。

 ネクストベリーでは現在,宅配用の業務管理ソフトに導入時のカスタマイズや指導をセットにした「D-Next」という商品を提供している。価格は初期費用が78万円から(カスタマイズ費用は個別見積もり),月間利用料は2万円(2アカウントの場合)。デリバリーの月商が1000万円までなら宅配マネージャー,それ以上の規模になると「D-next」に移行する店が多いという。

 喜久屋独自のデリバリー・サービス「ムーンライトデリバリー23」は2004年2月に始動し,5月頃から本格稼働した。当初は直営2ヵ所とFC店4ヵ所の6地域で展開。コールセンターを置いて電話での依頼を受けるとともに,出前館を使ってインターネットからも注文を受け付けた。

 次回は,喜久屋が展開している夜間集配サービス「ムーンライトデリバリー23」の特徴と仕組みについて説明する。


【喜久屋第1回】顧客のニーズから発想し,新サービスを次々と提案

■基太村 明子 (きたむら あきこ)

【略歴】
 フリーランスライター。神奈川県生まれ。早稲田大学商学部卒業後,日本証券新聞社に入社。編集部記者として中小企業を中心に取材活動を進める。2000年にビジネススクールおよびコンサルティング業のコーチ・トゥエンティワンに入社し,広報担当として日本におけるコーチング普及に尽力。2003年には「日経情報ストラテジー」にてコーチングに関する連載を手がける。

 2004年より独立し,中小企業経営,コーチング,マネーなどに関する記事を執筆。講演や広報に関する研修にも注力している。現在「日経情報ストラテジー」「日経ベンチャー」「リアルシンプル」にて執筆中。日本ファイナンシャル・プランナーズ(FP)協会アフィリエイテッド ファイナンシャル プランナー(AFP)。