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 ソフトバンクが,とうとうボーダフォンの買収に踏み切った(関連記事)。買収価格は約1兆7500億円。2004年に同社が日本テレコムを買収した際の約3400億円に比べ,ケタ違いの規模だ。ソフトバンクの携帯電話事業に対する,並々ならぬ意欲が読み取れる。

 以前からソフトバンクは,携帯電話事業への参入に向けて,それこそなりふり構わぬ行動をとってきた。800MHz周波数帯の割り当てを要求して,総務省や,NTTドコモ,KDDIといった既存携帯電話事業者とひと悶着を起こし(関連記事),それがかなわぬと見るや,手のひらを返したようにおとなしくなって1.7GHz帯での新規参入に奔走していたのだ(関連記事)。

 しかし結局は,既存事業者の買収という形で携帯電話事業者となることに成功した。1兆7500億円という価格が高いのか安いのかは,現時点では筆者には判断しかねるが,これから全国に携帯電話基地局を敷設し,膨大な販促費をかけて一からユーザーを集めるためのカネと時間を考えると,既に1500万ユーザーを抱えるボーダフォンを買った方が安いとソフトバンクは判断したのだろう。

 となれば当然,1.7GHz帯での携帯電話事業は凍結するとみられる。1兆7500億円ものカネをつぎ込んだうえで,さらに1.7GHz帯用の設備に投資するとは考えにくいからだ。しかも1.7GHz帯の免許は,「新規参入事業者であること」が条件として付けられていた。ボーダフォンを買収して既存事業者の仲間入りをした以上,一般にはその条件が崩れたと判断される。ソフトバンクと共に1.7GHz帯での携帯電話事業参入を予定しているイー・アクセス(参入事業者は子会社のイー・モバイル)も,「1.7GHz帯を返上すべき」と主張している(関連記事)。

 だがソフトバンクは,ただでは1.7GHz帯を返すつもりはないようだ。ボーダフォン買収の発表会の席上,同社の孫正義社長は「もし1.7GHz帯を返すことになれば,そのときは既存事業者としてNTTドコモやauとのイコール・フッティング,例えば高速データ通信のための周波数帯を持っているか,800MHz帯などより使いやすい周波数帯が他の2社と比べてどうなのかといった面も含めて総合的に検討していきたい」と発言した。

 以前から孫社長が主張しているように800MHz帯の方が電波の伝播特性が良く,携帯電話サービスを提供するに当たって800MHzの方が有利な側面があることは事実だ。ボーダフォンがそれを持っていないのは,単に歴史的な経緯からそうなっただけのことだが,「不公平だ」と主張したいのであれば主張しても構わないだろう。だが,それは1.7GHz帯の返上とは別の話である。

 「高速データ通信のための周波数帯」を持っていないという主張も,筆者には理解しがたい。ボーダフォンは,2GHz帯と1.5GHz帯の周波数を十分過ぎるほど持っているからだ。将来の需要増を見越して,以前からボーダフォンは1.7GHz帯の割り当てを主張していた。しかしそれが認められるのは,一定以上のユーザーを獲得してからの話である。例えばNTTドコモは3月15日,東京・東海・近畿の一部でのみ利用可能ないわゆる1.7GHz帯の「東名阪バンド」の割り当てが認められた(関連記事)。ドコモは,2GHz帯の20MHz幅(上下合計で40MHz幅)で1500万ユーザーを突破し,割り当て条件を満たしているからである。一方,ボーダフォンは,全1500万ユーザーのうち2GHz帯を使う3Gサービスのユーザーは2月末時点で273万6200に過ぎない。

 国民にとって,周波数は限られた財産とも言える。新規参入を取りやめるのであれば,新規参入を条件に割り当てられた1.7GHz帯は速やかに返上すべきだ。返上の条件に,それとは直接関係ないイコール・フッティング(公正競争条件)の話を持ち出すのはルール違反ではなかろうか。

 それともソフトバンクは,ボーダフォンとは別に予定通りBBモバイルによる新規事業を始めるつもりでもあるのか。1500万ユーザーがいるとはいえ,月間の純増数でPHS事業者のウィルコム・グループにも劣るなど,ボーダフォンはユーザー獲得で苦戦を強いられている(関連記事)。ソフトバンクに,そんな余裕はないはずだ。

 携帯電話事業は人気稼業でもある。イコール・フッティングなぞを持ち出し,筋の通らない主張で1.7GHz帯の返上を渋って不評を買うよりも,ここは潔く返した方がトータルとしてはボーダフォンのプラスになると筆者は考える。