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今後の技術動向 (1)

複数のセンサーを照合に活用する

 技術的な側面から見て,生体認証は今後どのように変化するのか。大きく分けて,センサーの使い方や管理方法の変化と,システムのオープン化の二つの流れがあると筆者は考えている。

 まず,センサーの使い方と管理方法を説明する。従来の技術開発は照合アルゴリズムの性能を向上させることであったが,今後のコンセプトは「センサーをいっぱい使う」「センサーをサービス対象に付加しない」の二つになるだろう。

 「センサーをいっぱい使う」というのは,一つの装置で性能を向上させるより,複数の装置でトータルの性能を高めることが主流となるということだ。装置が高価な時代には,一つの装置で性能を向上させてコスト・パフォーマンスを改善することが製品開発の重要なポイントだった。しかし,装置単価は10年で10分の1以下になっている。この傾向はさらに続くだろう。また,新しい製品市場(例えば携帯電話)でのコスト低減の要求は強い。装置単価の急落と合わせて,装置の小型実装化の傾向も著しい。これらの傾向から,複数のセンサーで性能を向上させるようにすべきだと考える。

 センサーを複数使う場合,ユニモーダル(単一方式による認証)とマルチモーダル(複数方式の組み合わせによる認証)の双方でメリットがある。例えば顔認証を例にしてユニモーダルのメリットを見てみよう。顔を撮影するカメラの取り付け位置の制約によって,斜めから撮影した画像や部分的な画像で照合する場合,陰影の影響を除去するアルゴリズムの処理や3次元モデルによる照合など負荷が大きくなる傾向にあった。その代わりに安価なカメラを複数設置し,複数方向から撮影した部分画像を合成あるいは一番理想的に撮影された画像を照合に使えば,従来の照合アルゴリズムを効率よく利用した処理負荷の小さなシステムを構築できる。マルチモーダルの場合,顔認証,指紋認証,声紋認証など複数の認証装置を用いることによりトータルの性能を改善できる。

個人でセンサーを管理する方式が主流に

 「センサーをサービス対象に付加しない」というのは,サービスを受ける個人がセンサーを管理するということだ。生体認証のセンサーは脆弱性という問題を抱えている。指紋の例で紹介すると,半導体ベースの指紋センサーは静電気,水分,衝撃(破壊行為)に弱い。また,なりすましなどはデータの取得時に生じることが多い。センサーを個人が管理すれば,不特定多数のユーザーが使用することで起こり得るこれらの問題を回避できる。

 装置の個人管理は,バイオメトリクスが社会一般で受け入れられる場合の重要なキーになる。例えば施設管理などにおいてドアの開閉を行う場合,次のようになるだろう。ドア側にはセンサーをつけず,トークンあるいはモバイル端末に付加されたセンサーを使って個人情報を入力する。携帯電話などモバイル端末のカメラ,指紋センサーあるいはマイクを使って顔,虹彩,指紋,声の情報を入力する。認証は端末側あるいはサーバー側で行い,その結果をドアのコントローラに伝える。

 このような形態なら,個人が所持している端末の管理さえ十分にすれば,なりすましを防げるし,問題が生じた場合の原因特定が容易になる。また,入力装置を不特定の脅威(破壊,改ざん)から保護できる。その上,一つの端末で施設管理からネットワーク上のサービスまで複数のサービスを一貫して実現可能である。


瀬戸 洋一 Youichi Seto/日立製作所 システム開発研究所 主管研究員

1979年慶応義塾大学大学院修了(電気工学専攻)。同年日立製作所入社,システム開発研究所配属。衛星画像処理技術,医療情報処理技術,地理情報処理技術,情報セキュリティ技術の研究開発を担当。セキュリティ研究センタ副センタ長,セキュリティビジネスセンタ センタ長を歴任。工学博士(慶応義塾大学),技術士(情報工学部門),情報処理技術者(システム監査),BS7799リードオーディタ。バイオメトリクスワーキンググループ(英国政府主催)の日本代表委員,ISO/IEC SC17 WG11国内委員会主査,バイオメトリック技術を扱う国際標準化組織ISO/IEC JTC1/SC37国内専門委員会委員長。バイオメトリクスセキュリティ研究会副委員長。バイオメトリクスセキュリティコンソーシアム会長代行。『生体認証技術』(共立出版),『情報セキュリティ技術』(日本工業出版)など情報セキュリティおよびバイオメトリクス関係の著書多数。