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 ときわ印刷に電話インタビューを行うことで仮説を確認し、提案書を作成する段階まできた。重要なことはシステム導入を考えた人たちが、なぜ必要だと考えたかを理解することである。ときわ印刷が置かれた状況に立ち戻り、経営者の視線で必要性をとらえた提案が求められている。

(小野 泰稔=コンサルティング・フェア・ブレイン代表取締役)



これまでの経緯
 営業の情報武装化を検討中のときわ印刷は、売上高が90億円で社員数は150人。同社の栗原氏から郵送された提案依頼書の内容を検討し、経営課題を解決するという視点から仮説を立案した。その結果に基づき、ときわ印刷に電話インタビューを行った。プレ提案書は作成せず、用意した質問リストに従って話を進めていった。

注)本記事に登場する社名、氏名はすべて仮名です

図1●提案書の表紙

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図2●提案書の内容や添付資料などの流れ

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図3●提案の背景と基本方針を示す

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図4●プロジェクトで検討する課題

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図5●今回のプロジェクトのアプローチ

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図6●プロジェクトのスケジュールを示す

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図7●プロジェクトの推進体制

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図8●「成果物イメージ」としてシステム画面を見せる

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 ときわ印刷の経営課題に関する仮説を検証するため我々は栗原氏に電話でインタビューを行った。以下、栗原氏からのコメントを整理した。

  1. ときわ印刷は栗原氏の父である現社長が30年前に広告宣伝用のちらしを印刷する会社として創業した
  2. ここ数年、特に競争が激しくなり、工場の稼働率も下がり、業績も非常に厳しくなっている
  3. 栗原氏が進めてきた企画・演出機能の強化を突破口に、現状を打破したいと考えている
  4. 営業部が第1営業部と第2営業部に分かれているのは、既存の事業を中心に活動している第1営業部と企画・演出を手掛ける第2営業部があるからだ
  5. 第1営業部には古くから社長に仕える幹部がおり、改革の抵抗勢力になっている。これが理由で社内のみでのプロジェクト推進が困難になっている
  6. 企画・演出機能を強化した営業活動については、成約までに時間がかかり、簡単に目に見える成果が上げにくいことから、敬遠する営業部員もいる
  7. 古くからの営業部員には自分の営業情報を他人に知られること自体に大きな抵抗感を持つ人も多い
  8. 抵抗勢力となっている幹部たちも付加価値の高いビジネスへの転換は必要だと考えている
  9. 顧客の絞り込みを実施したいと考えているが、どの顧客に重点を置くかなどの会社方針は描けていない
  10. 営業スタイルは第1営業部でも第2営業部でも属人的であり組織として確立されたスタイルはない
  11. 営業部員のスキルは、個人の能力に任せられており、スキル教育などは行われたことがない
  12. 収益構造の分析や見積もり手法の開発は重要であり、やりたいことの1つであるが、今回と同時並行で進めることは困難であり、提案からは外してほしい

社内の状況を配慮して提案する

 電話インタビューの結果、我々が立てた仮説は、ときわ印刷の経営課題を正しくとらえていたことが分かった。栗原氏自身も今までばく然と感じていた課題意識の部分があり、インタビューを通してそれが整理できたことに価値を感じていただけたようだった。

 また我々が提案依頼書を見て懸念していた、「なぜ営業部が完全に2つに分かれているのか」ということも、明快な回答を得られた。この点は、プロジェクトを運営していく上での要注意事項である。

 栗原氏との話の中で、提案範囲についての要望があったことも重要である。我々が指摘した「収益構造の分析や見積もり手法の開発」については、必要性は十分に感じているが今回の提案には含めないでほしいとのことであった。これほど重要なテーマを同時並行で進めることには、社内の体力がとても追いつかないということが理由であった。現状の営業部の状況を考えれば非常にうなずける。そこで、この部分については削除した形で提案書を作成することにした。

なぜシステム化が必要なのかを考える

 我々の提案書の作成作業は、提案依頼書の「2.提案依頼事項」に立ち戻ることから始まった。提案事項として期待されていることを念頭に、まずどこに重点を置いた提案書にするかの方針を固める必要がある。

 今回の提案で直接的に求められていることは、営業支援のSFAとナレッジマネジメントのシステム化要件をどう定義するかである。この2つのシステムの要件を定義することは、ときわ印刷にとって困難を伴う。個人スキルに依存し確立されていない顧客獲得活動の定義や、営業活動を行うために必要になる情報の抽出・標準化などが必要になるからである。しかし我々が提案する上で最も重要なことは、システム化要件の定義方法ではないと考えた。最も重要なことは、これらのシステムを導入しなければならないと考えた人たちが、なぜ必要だと考えたかを理解することである。

 単純に営業活動をシステムで効率化しよう、という提案では恐らく顧客に響かない。ときわ印刷が置かれた状況に立ち戻り、経営者の視線でシステム導入の重要性を訴える提案が必要だ。そのような目線に立ってこそ、顧客と温度差のない提案ができるはずである。図1から図8までが作成した提案書である。後日、ときわ印刷を直接訪問し、プレゼンテーションを行う。

著者プロフィール
情報サービス会社でシステム構築の一連の業務に携わった後、トーマツ コンサルティングのマネジャーのほか、社団法人・日本能率協会の専任講師も務める。IT戦略、システム化計画、システム開発方法論のカスタマイズ・提供など、ITを中心としたコンサルティングと人材育成を行っている。現在はコンサルティング・フェア・ブレイン代表取締役