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 大阪市役所の改革本部では、昨年4月から9月末までの6カ月間で「地域」「市役所」「事業」の3つの観点から大阪市を丸ごと解析、いわば「人間ドック」のような作業を行った。今回は概要を紹介する。

■「地域」の実力:豊かなストックと先細りのフロー

 様々な指標で他都市と比較する。上下水道、道路、地下鉄など大阪市の都市基盤は他を大きく凌駕するとわかった。しかも市役所が市域の25%もの面積を所有する(道路、埋立地を含む)大地主だとわかった。だが税収の落ち込みは他都市以上だ。しかも市民は東京・横浜の6~7割の額の税金(年間約10万円)しか払っていない。生活保護の受給率は他都市を大きく上回る。

 どうやら資産の蓄積は豊かだが町も個人も所得が先細り傾向のようだ。ならば資産の流動化だ。余剰の土地・建物・株式を売ったり貸したりする。各局ばらばらに管理する駐車場やビルをプロの手に委ね、一元管理してもらいまとまって現金収入を得る方策も考える。地下鉄や水道などは投資を終えた上で確実な日銭収入も見込める。民営黒字化すれば市役所に大きな配当収入をもたらす。

■「市役所」の実力:身の丈を超えた支出体質

 大阪市は道路や上下水などの都市インフラの投資をほぼ終えている。下水道の普及率は100%だ。だがいったん投資したインフラはその維持に人手とお金がかかる。さらに人口減・税収減の要素が加わる。従来の労使の約束や既得権益を断ち切り、組織もコストもスリム化しなければならない。ここから「身の丈」改革というキーワードが出てきた。

 例えば経常予算は5年で20%削減することを目標に掲げた職員数は人口比で横浜の約2倍だ。半分はきちんとした理由がある。大阪ではJR環状線を除けばほぼ市営交通局の独占だ。低地だから下水設備が多い。だが残りの半分は単なる過剰人員配置のせいだ。そこで今回は「5年間採用凍結(教職員などは例外)」を打ち出した。当然、各局は人繰りに困る。だが、だからこそ局・職種・年齢の壁を壊した配置転換が促せると目論んだ。

■事業分析――セグメンテーションとベンチマーキングを重視

 国も地方も行政改革ではたいてい「政府全体」の人・予算・組織のスリム化の数値目標を決める。それを各部門に割り振る方式が普通だ。今回もある程度はそれをやった。だがむしろ重視したのが個々の事業の「事業分析」である。今までゴミ収集、地下鉄、バス、学校給食、営繕、公園管理、幼稚園、卸売市場、広報公聴といった事業に企業の経営分析の手法を応用した。役所の中にノウハウはない。そこで専門の経営コンサルティング会社を雇いプロジェクトチームに分析手法を教育(技術移転)させながら作業を進めた。

 重視したのがセグメンテーションとベンチマーキング(他との比較)である。前者では事業を戦略分析に適した単位に分けて数値を算出する。例えば地下鉄事業。全体収支ではなく、路線別の収支、コスト、客単価などを細かく算出する。後者は数値を類似事例と比べて改善ポイントを探る手法だ。コスト要因を路線間で比較したり過去の傾向と比べた。

 事業分析で分かったことをいくつか紹介する。

【地下鉄】
 単年度57億円の黒字になっていたが実は一般会計からの補助金が72億円入っていた。これを除けば赤字だ。営業キロ当たりの職員数は都営の1.3倍。収支は御堂筋線など4路線でバスも含めた全体の収支を均衡させる構造。だが肝心の御堂筋線の乗客が毎年2%ずつ減っていた。毎年0.5%ずつ収入減と仮定すると10年後に単年度赤字と分かった。こうした分析をもとに市長は新線(8号線)の延伸凍結を決めた。

【環境事業(ゴミ収集)】
 家庭用ゴミは高コスト・高サービス体質だった。収集は100%直営で他都市には珍しい3人乗り収集車。狭い路地の奥まで入り戸別回収する。他都市では民間委託も多く中型車に2人乗務が普通。ステーション方式の回収が多い。しかし事業系ゴミでは大阪市は優等生だった。町にカラスがいない。大阪では飲食店などの事業系ごみは深夜から早朝にかけ民間事業者が集める。市の清掃工場が受け入れ、朝には片付く。東京は朝まで路上に放置し、ようやく直営の収集車が来る頃にはカラスの朝ごはんが終わっている。

【保育所】
 入所したくても入れない待機児童がいる一方で市立幼稚園の多くが定員割れだった。単純計算では待機児童の9割近くが幼稚園の教室の活用で吸収できる。さっそく教育委員会と保育所担当の健康福祉局との共同チームをつくり幼保一元化の可能性を探ることになった。

◎分析事例について詳しくは市政改革本部のページを参照ください。http://www.city.osaka.jp/keieikikakushitsu/kaikaku/index.html

※注 本稿はあくまで筆者の個人的見解である。(2006年3月23日執筆)

上山氏写真

上山信一(うえやま・しんいち)

慶應義塾大学教授(大学院 政策・メディア研究科)。運輸省、マッキンゼー(共同経 営者)、ジョージタウン大学研究教授を経て現職。専門は行政経営。行政経営フォー ラム代表。『だから、改革は成功する』『新・行財政構 造改革工程表』ほか編著書多数。