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 先日,この「記者のつぶやき」で,「ユーザーがシステム構築費用を語りたがらない理由 」という記事を執筆し,その中で「企業の取材で,ユーザーがシステム構築費用を教えてくれないのは,そもそも正確な費用を分かっていないからではないか」と書きました。

 その後,1つの疑問が浮かびました。では,システムを提供する側のベンダーは,システム構築で発生したコストをどこまで正確に把握しているのだろうか,と。疑問を持ったきっかけは,記事の公開と前後して,ある中堅のSIベンダーが「ユーザーから請求金額の内訳を開示するように言われたが,どんぶり勘定でしか把握していないので困っている」という話を聞いたからです。

 外部から調達するハードウエアやソフトウエアの価格は明らかでしょう。しかし,システム構築費用のかなりの部分を占めるソフト開発の人件費などを,プロジェクトのフェーズや作業項目ごとに,きめ細かく把握できているベンダーは,実際のところかなり少数派なのではないでしょうか?

 教科書的に言えば,変動費と固定費,間接費と直接費,ABC(活動基準原価計算)に基づくコスト配分など,製造業で使われているオーソドックスな原価計算の手法は,ソフト開発にも流用できるはずです。しかし実際の開発現場では,実績値を把握するための管理業務の負荷を嫌って,あえて「どんぶり勘定」を選択しているベンダーも多いはず。それに,再利用できるコードやノウハウがどれぐらいあるかで,各プロジェクトに対応づけるべきコストも変わってきます。

 その一方で,上記のような「開発費用の内訳開示を要求する」ユーザーの事情も分かります。費用の内訳が明示されていれば,価格の妥当性を判断する材料になるからです。加えて,そのベンダーと継続的に付き合う場合は,次回以降のプロジェクトにおける価格交渉の材料ともなります。たとえ「どんぶり勘定」でも良いから費用の内訳を開示してもらい,その上で,受注時点での見積もり金額と違う理由を説明してもらいたいところでしょう。特に,中堅・中小企業では,システムの「価値」を正しく判断するIT技術者を社内に抱えていませんから,それだけに料金の根拠となる「費用の内訳」を知りたいというニーズが強くあります。

 もちろん,「実際に発生した費用+利益」がそのまま「ユーザーに請求する料金」になるわけではありません。それに,たとえシステム構築費用を正確に把握していたとしても,自分自身のコスト構造を喜んで明かすベンダーはいないでしょう。「費用の内訳をどこまで開示するか」は,ユーザーとベンダーの力関係で決まってくるはずです。そして,ユーザーの要求で何らかのデータを開示せざるを得なくなったベンダーの多くは,「どんぶり勘定」のデータをもっともらしく「お化粧」して,ユーザーに伝えているのではないでしょうか。