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 今回は,貸借対照表の上下の関係を見てみよう。富士通 の2005年3月期(2004年度)の貸借対照表(クリックで別ウインドウに表示)もそうだが,右側の資産は流動資産,固定資産,左側の負債は流動負債,固定負債となっている(図1)。いずれも流動,固定の順序,すなわち流動性の順序で並んでいる。ここでいう「流動性」とは換金性,すなわちどれだけ容易に現金になるかを意味する。

 資産や負債の流動性の有無を判断する基本は「1年基準(ワン・イヤー・ルール)」である。すなわち,資産であれば1年以内に現金化されるものを流動資産といい,1年を超えるものを固定資産という。分かりやすい例は,流動資産である短期貸付金と固定資産である長期貸付金である。短期貸付金とは何となく短い期間のものを指すわけではなく,1年以内に返済される予定の貸付金を意味する。同じく,長期貸付金は返済される時期が1年超のものを意味する。

 流動負債の短期借入金と固定負債の長期借入金も全く同じである。1年以内に返済期限が来るものが短期借入金であり,1年超のものが長期借入金である。

 なお,富士通の貸借対照表には計上されていないが,資産の一番下に「繰延資産」という項目を計上することがある。これは少々特殊な資産なので,詳細な説明はここでは割愛させていただくが,繰延資産は換金性が全くないという点で特殊な資産であるということだけ押さえておけばいいだろう。


流動項目は日々の仕事で現れる

 流動資産,流動負債のより具体的なイメージは,日々の事業活動の中で,現金を中心に循環するものだ(注1)。富士通のような製造業であれば,日々の事業活動は,購買→製造→販売という業務プロセスで構成される。この業務プロセスに沿って見てみると,購買プロセスにおいて,まず現金が材料に変わる。次に,製造プロセスにおいて,材料が仕掛品を経て製品になる(注2)。そして,販売プロセスで製品が売られて現金に戻る。この一連の営業サイクルの中に登場する,現金,材料,仕掛品,製品などの資産が流動資産の代表的な項目だ。

 また,購買プロセスにおいては普通,材料を購入しても,すぐには代金を現金で支払わない。通常は,1ヵ月分の支払を月末にまとめて支払うようなことをする。つまり,ツケで購入するのが慣行だ。このツケている状態の債務を,「買掛金(かいかけきん)」や「支払手形」という。両者は,ツケという点で全く同じだが,買掛金は支払に対する口約束,支払手形は手形という書面による約束という点だけが違う。

 同様に,販売プロセスにおいては立場が逆になり,通常はツケで販売することになる。顧客にツケられている状態の債権を,「売掛金(うりかけきん)」や「受取手形」という。売掛金が口約束,受取手形が書面による約束でである点も同様だ。

 買掛金,支払手形は支払義務なので流動負債,売掛金,受取手形は代金請求権なので流動資産になる。

 なお,手付金や内金のように,場合によっては購買や販売前に代金を支払うケースもある。購買プロセスにおいて代金を先に支払った状態を「前渡金」,販売プロセスにおいて代金を先に受け取った状態を「前受金」という。これらも典型的な流動項目である。

 上記のものが,流動項目の主たる登場人物だ。企業の営業サイクルの中に登場する流動資産,流動負債の多くは,1年基準などという悠長なものではなく,2~3ヵ月サイクルで「常に現金に戻りたがっているもの」というのが,現実的なイメージになる(図2)。


固定資産は使用するために保有し続けるもの

 1年基準に従えば,「固定資産は1年以内には換金されないもの」ということになる。具体的には「換金するつもりがない」ということである。換金目的でないとすると,何が目的なのかといえば「保有し続けて使うこと」が目的である。つまり,固定資産は会社を形作っているインフラだと思えばよい。

 固定資産は,さらに有形固定資産,無形固定資産,投資その他の資産に分類される。有形固定資産は,文字通り「形の有るもの」だ。具体的には,建物,機械装置,車両,土地などがその典型例だ。

 無形固定資産は,「形が無い」ものだ。一般的に,無形固定資産で質的にも金額的にも最も重要なのは,企業内で使用するソフトウエアだ。例えば,会計システム,購買管理システム,生産管理システム,販売管理システムなどが典型例だ。これらのソフトウエアは,形こそ無いが,企業を支える設備の一種だ。それ以外には,特許権,商標権などの法的権利などが無形固定資産として計上される。

 投資その他の資産は,株式投資に伴う資産などにまとめられている。


資本と資本金は違う

 最後に,資本の部について見てみよう。資本の部は,法制度が深く関連するので,少々難しい部分であるが,専門家以外の方は,資本金,資本剰余金,利益剰余金の3つだけ理解しておけば十分だ。

 最も重要なポイントは,資本と資本金は違うということだ。

 資本とは,そもそも返済不要の資金源であった。資本金は,会社設立当初に外部の株主に注入してもらった返済不要の資金源である。
この資本金は資本の一部である。

 会社は,外部の株主から注入してもらった資本金という燃料を元に走り出す。走り出した後は,燃料(=資金)を自分で再生産する。これが利益だ。そして,会社は利益の一部を翌年度以降に繰り越すということをする。いわゆる,利益の内部留保だ。なぜ留保するのかといえば,それは翌年度以降の設備投資や材料購入に充てるためだ。すなわち,利益はその年度の結果であると同時に,翌年度以降の新たな資金源となる。

 この資金源は,自分で稼ぎ出したものであるから,誰に返済する義務もない。したがって,翌年に繰り越された利益の一部も,返済義務のない資本を構成することになる。貸借対照表における表記は「利益剰余金」という。

 資本剰余金は,資本金に準ずるものと思っていればいいだろう。例えば,取得した自己株式を再び売却したとき,取得時より高値で売れて売却益が出たとする。(注3)この売却益は,株主からの追加出資に相当するので,資本金に準ずるものとして,資本剰余金に計上する。

 ちなみに追加出資であるから,損益計算書(P/L)は関係ないはずだが,ライブドアは,これを通常の利益に含めて損益計算書(P/L)に計上することで,見かけ上の利益を水増しした。これは当然,粉飾決算となる。

 以上をまとめると,資本は大きく分けて株主から拠出された部分と,利益の内部留保からなると理解しておけばよい(図3)。

 次回は,損益計算書(P/L)の構造について解説しよう。

(注1)この流動・固定分類基準を「正常営業循環基準」という。正常営業循環基準の方が1年基準より優先される。これ以外に,有価証券の流動・固定分類基準として所有目的基準がある。
(注2)流通業や小売業のように,仕入れたものを販売する場合は,「商品」という。製造業においても,他社製品をOEM販売する場合のように,完成品を仕入れて販売する場合は「商品」という。
(注3)自己株式を取得した際は,一種の資本金の払戻なので,資本の部から控除する形で計上する。

■金子 智朗 (かねこ ともあき)

【略歴】
 コンサルタント,公認会計士,税理士。東京大学工学部卒業,東京大学大学院工学系研究科修士課程修了。日本航空株式会社情報システム本部,プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント等を経て独立。現在,経営コンサルティングを中心に,企業研修,講演,執筆も多数実施。特に,元ITエンジニアの経験から,IT関連の案件を得意とする。最近は,内部統制に関する講演やコンサルティングも多い。

【著書】
 「MBA財務会計」(日経BP社),「役に立って面白い会計講座」(「日経ITプロフェッショナル」(日経BP社)で連載)など。

【ホームページ】
http://www.kanekocpa.com