ITU-Tが2006年4月20~21日に開催した,NGN(next generation network)のワークショップ「Workshop on NGN and its Transport Networks」において,三菱電機はSIPを搭載したホーム・ゲートウエイを展示した。
NGNでは通信のセッションを管理するプロトコルとして,IP電話などで使われているSIP(session initiation protocol)を採用する。同社が参考展示したホーム・ゲートウエイはSIPを搭載し,NGNへの対応を見据えている。試作機の開発に携わった三菱電機 光通信システム部光ネットワーク制御チームリーダーの横谷哲也氏と同チーム主席研究員の佐藤浩司氏に,試作機のしくみと開発意図を聞いた。
---展示しているホーム・ゲートウエイはどのようなしくみで通信し,どういったメリットがあるのか。
例えば動画の例で説明すると,動画などのストリーミングではRTSP(real time streaming protocol)というプロトコルが多く使われている。RTSPはベストエフォートの通信だと,ネットワークが込んだときにパケットのロスが生じて映像にノイズが載ってしまう。我々が開発したホーム・ゲートウエイは端末とサーバー間でやりとりするパケットの中身を見て,コンテンツが必要とする帯域を確保した上で通信できる。つまり,このホーム・ゲートウエイがあれば,家庭内の端末(テレビなど)ごとにそれぞれ必要な帯域を得られ,なめらかに映像を再生できる。
---NGNはSIPを呼制御手順として使うと聞くが,SIPを採用しているのか。
そうだ。ホーム・ゲートウエイがNGNのSIPサーバーとやりとりする。このため,家庭内の端末にSIPを搭載するといった変更を加えずに済む。通信事業者側のSIPサーバーはSIPのメッセージの中に記述するSDP(session description protocol)にコンテンツが必要とする帯域を記述する。そのメッセージを受け取ったホーム・ゲートウエイは必要な帯域を認識し,サーバーとネゴシエーションして帯域を確保する。つまり,帯域管理もSIPでやることになる。
---SIPメッセージのSDPに必要な帯域を記述するというが,SIPのメッセージを拡張するといった独自仕様にはならないのか?
帯域制御程度なら,SIPの標準に準拠する格好で作り込める。
---このホーム・ゲートウエイは現在ITU-Tが作成中のリリース1準拠なのか?
リリース1というより,リリース2を想定して開発した。リリース2ではホーム・ネットワーク仕様が議論される予定。NGNとホーム・ネットワークを接続する際に,宅内の機器をどう制御するかという問題が生じる。今回の試作機は,その議論に向けた一つの提案と考えている。NGNにおいて家庭内端末が通信事業者のサーバーと通信するときは,セッションごとに帯域を確保してQoSを保証するという方向にいくと思う。エンド-エンドのQoSを確保するならエンドユーザーを識別しなければならない。この識別処理をIPアドレス単位でやろうとしたら膨大な数のIPアドレスを管理しなければならなくなり,現実的ではない。おそらくセッションごとに識別していくのではないだろうか。これは通信事業者が設計するサービスで決まることではあるが,セッション単位での管理という方向に向かうなら今回展示した試作機の手法を活用することができる。