日経情報ストラテジー7月号(5月24日発売)では、松下電器産業の2000億円を超えるIT(情報技術)投資に関する特集を予定している。ITを活用して企業風土改革に挑んでいる同社の現場が、どのように変わったのかを中心にお伝えする予定だ。詳しくは本誌をお読み頂くとして、今回の取材で、改革の成否を握るのは中間管理職層ではないかと感じた。

 現場の担当者は常に改善活動をやっていることが多く、問題があることに気づいている。ボトムアップで改善活動をしようにも理解のない上司であれば、部下が持ってきた提案を却下してしまう可能性だってある。「トップダウンで実行せよ」と言った場合でも同様に何を求められているのか分からず改革がとん挫してしまう。

 松下のIT革新におけるテーマに「ITの常態化」がある。同社では、2000年からの3年間で1153億円を投じてITを活用した経営改革を実行してきた。3次元CAD(コンピュータによる設計)の導入によって設計から量産準備までの時間が短縮したり、セル生産に切り替えることなどにより在庫が減るなど効果が出ている。ただし、すべてのプロジェクトが成功したわけではない。情報システム部門が中心となって推進し、ほかの部門の協力が得られなかったなど、マネジメント不足による失敗があったのだ。

 この課題に対して、同社は研修を強化することで解決を試みている。「出前研修」と呼ぶ、事業所に講師を派遣してマネジャークラスの育成を目指す取り組みである。この話を聞いたときに、キヤノン電子の酒巻久社長(5月18日の弊誌セミナーで講演)の話を思い出した。酒巻社長は就任直後から毎日7時半から朝会を開き、役員や管理職に対して、自分の考えを孫に伝えるような分かりやすい言葉で伝えたという。改革に取り組む際のリーダーとなる中間管理職層の意識改革を進めることで、現場に自分で考える力がついた。1999年の社長就任から6年で同社の売上高経常利益率を1.6%から12.9%に跳ね上げる原動力となった。社員が20万人を超える大企業である松下の場合、ミドル層だけでも相当数いる。彼らの意識改革が今回のプロジェクトの成否を握ると感じた。