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NSRI(USA) 林 光一郎

 こんにちは。私は米ニューヨークで社会人大学院に通うエンジニアです。初めて読まれる方もおられるかもしれませんが,これまで日経ITプロフェッショナル・サイトで留学奮闘記を連載してまいりました。これまでの奮闘記はこちらをごらんください。今回からITproに場所を移しての連載となりました。今後ともご愛読のほどよろしくお願いいたします。

 ニューヨーク勤務の辞令が出たのをきっかけに,以前からの念願だったIT系の社会人大学院への進学を決意。2年前にニューヨーク大学(NYU)の技術経営(Management of Technology, MOT)系の社会人修士コース「Management and Science」に入学しました。それからの2年間は,仕事との両立や不慣れな米国の大学の仕組みなどに苦労しましたが,ほぼ座学の科目を終えることができました。5月からはいよいよ最後の難関・卒業研究の準備が始まります。

 今回は,この2年間で一番大変だった,今年初めの2科目同時履修について書きたいと思います。

ついに来た,2科目同時履修

 話は去年の年末に遡ります。私が通うNYUの社会人修士コースは,春期・夏期・終期の3学期制。各学期はそれぞれ前半と後半に分かれています。最初のうちは取るべき科目の多さに圧倒されていたこともあり,深く考えずに,とりあえず必須科目と興味がある科目を登録しました。が,1年半経つと,あれだけ多く感じていた科目の大半を履修してしまい,残るは下記の3つの科目のみという状態になっていました。

 ●卒業研究(2科目分・前後半通し)
 ●プロジェクト管理(2科目分・前後半通し)
 ●選択科目1クラス

 「これら科目をどう履修しようか。2科目の同時履修は大変だから,今回も避けたいな。サマータイムになる夏期に1科目を履修して,残りの期間は夜遊びをしようかな」,などと当初は気楽に考えていました。ところがこれらの科目には受講制限があったことを思い出し,調べることにしました。すると,以下のような条件があったのです。

・卒業研究は残りの科目全てを履修した後でないと履修できない
・プロジェクト管理は卒業研究の直前の学期に履修する必要がある
・プロジェクト管理は春期と夏期にコースが設定されているが,夏期のコースはオンラインではなく,教室での授業となる(私の場合,授業のある曜日の夜は定例会議が行われているため,教室事業に参加するのは無理)
・在学中は最低一学期一つの科目を履修する必要がある

 これらの条件を全て満たすためには,春期に「プロジェクト管理」と「選択科目」を,そして夏期に「卒業研究」を履修するしかないことに気づいたのでした。

 私は2科目を同時に履修する覚悟を決めました。そして,春期の中でもより負担が軽そうな前半に「リスク管理」を登録し,その間,プライベートの用事をなるべく入れないようにして,授業が始まるのを待ちました。

怒涛のような課題の波,そして衝撃の低評価

 2006年1月末,とうとう授業が始まりました。予想していたとはいえ,2科目を同時に受講するのは,考えていたよりもかなりかなりハードでした。

 最も大変だったのは掲示板への参加でした。1科目の時でさえ,平日に全体課題とグループ課題の掲示板の双方に書き込みをするのは一杯一杯。それが倍になったのです。ある掲示板のトピックに反応して作業していると,別の掲示板ではついていけないほど議論が進んでいることが頻繁に起こりました。唯一の救いは,受講している科目が「プロジェクト管理」と「リスク管理」というように似たテーマだったこと。プロジェクト管理の前半はリスク管理の話が多かったため,調べたことを両方の掲示板で使いまわすことができました。しかし,「さっき,この話をどっちの掲示板に書いたっけ?」とあやふやになることも……。

 それでも「何とかなるかな」と楽観的に考えていたところに,最初の課題の成績が発表されました。「プロジェクト管理」の方の成績はほぼ予想したとおりでしたが,「リスク管理」でグループ掲示板参加の結果が最低点の「F」。私は信じられませんでした。この週の掲示板への発言は,それなりの調査に基づく長文の新規発言を2件,他の学生へのコメントも,それなりの調査に基づいた発言を3件,書き込みました。これまでの科目であれば,「B」か「B+」が付いてもおかしくない,という手ごたえもありました。評価に納得のいかなかった私は担当教官に,「何か基本的なミスがありましたか?」とメールで問い合わせましたが,返事は「掲示板への参加状況やコメント内容などから総合的に判断した。今まで以上の積極的な参加を求む」という木で鼻をくくったようなものでした。

 それからしばらくは地獄のような日が続きました。なにしろ何をどの程度やればよいのか,今までの経験が全く役に立たないのです。そのくせ,毎週やるべきことは着実に増えてきます。「プロジェクト管理」はまずまずの成績をキープしていましたが,「リスク管理」は発言回数を増やして,合格ラインギリギリの「C+」まで成績を上げました。しかし,それ以上何をすれば成績が上がるのか見当もつきません。そんなときに限って,仕事でも面倒なことが次々と起こったのでした。

 精神的にも疲れがピークとなっていた2月下旬の3連休に,以前から計画していた小旅行に出かけることにしました。やるべきことは山積みでしたが,「リフレッシュしないとヤバイ」と考え,空港に行ったのです。すると,カウンターの前に人だかりができ,非常に騒がしいのです。行って話を聞くと,私の予約した便がキャンセルになり,他の飛行機会社でも代わりの便が取れないとのこと。「そんなバカな!」と粘ってみたものの結局はNGで,旅行をキャンセルする羽目になりました。疲れもピークに達していたのでしょう。なんとアパートに戻るやいなや熱が出て,寝込んでしまいました。

結局成績は…?釈然としない結果

 後から思うと旅行がキャンセルになって良かったようです。連休の最終日は掲示板の話題の調査・発言に費やすことができたからです。「今の自分ができることはすべてやったので,これで駄目なら仕方ないや」と思えるようになりました。それからは掲示板や個人課題・グループ課題に焦ることなく取り組み,春期前半を終えることができたのです。「リスク管理」の最後の授業で担当教官が,「不合格者はいません」と言ったとき,やっとホッとすることができました。

 成績も「まぁ,合格ギリギリのCかC+だろうなぁ」と思っていましたが,なんと「A-」。掲示板や個人・グループ課題の結果から考えると,とてもこんな成績になるとは思ってはいなかったのでびっくりでした。まあ,この科目に費やした努力を考えると妥当な成績だとは思いますが……。

 驚きから覚めて少し冷静になると,ちょっと腹が立ちました。担当教官は学生がサボらないよう,個々の課題に対しては厳しい成績をつけていたのです。私もあの3連休がなければ,本格的に体調を崩してしまい,リタイアしていたかもしれません。

 仕事が優先で時間に限りのある社会人学生がリタイアしないためには,まずは学習のリズムをつかむこと。次に,目先の結果に惑わされることなく,自分ができる範囲のことを誠実にやっていくことが重要です。

 次回には私の全ての座学コースの履修が終了していると思われるので,座学コースの授業の紹介と,日本のエンジニア教育について考えてみたいと思います。


ウィリアムズバーグからイーストリバー越しに見たマンハッタンの眺め。ここは東京で言うと下北沢のような感じの街。ハイ センスだけれど力の入っていないレストランやブティック,ギャラリーが集まっています。NYUから地下鉄で3駅という便利な場所にあるため,学生がたくさ ん住んでいます。
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 林 光一郎(はやし こういちろう)
NSRI(USA)

1991年,京都大学農学部卒業後,日本郵船に入社。関連IT企業のNYKシステム総研への出向を経て現職。現在はニューヨークにあるNSRI(日本郵船グループ)社内のアプリケーション開発プロジェクトに従事しながら,ニューヨーク大学大学院Management and Systems学科に在学。情報処理技術者試験に関する複数の著書のほか,「情報処理技術者用語辞典」(日経BP社)のデータベース項目の執筆を担当。日本システムアナリスト協会・中小企業診断協会会員

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