ビフォー・ アフター 情報ツールを用いた営業改革は、ともすれば、ただ単に訪問件数などを管理して、現場のサボリを防止するといった後ろ向きな使われ方で終わることが多い。 これに対してリコーでは、まずトップセールスと成績が思わしくないローセールスの活動状況を各種プロセス指標で比較するといった調査を丹念に実施して、最大の課題が顧客訪問件数が商談に結びつく確率の向上にあることを突き止めた。この分析をしたあとで、電子日報ツールや顧客情報を統合したデータベース(DB)の活用指針を定めていった。 さらに、それらをどう営業マネジャーが活用して現場に助言すべきかといった役割についても、小さな成功事例を作りながら明確にした。こうして、電子日報ツールの導入完了から半年以内でまずは保有案件が1割増加した。さらに今後3年間で2割増を目指す。 |
![]() 訪問すべきターゲット顧客を話し合う会議(上)。主力機種のimagio NeoC455(右) [画像のクリックで拡大表示] |
![]() ●新規案件に結びつく確率を高めて商談数を増やす [画像のクリックで拡大表示] |
その推進力になるのが、情報システムを駆使した営業マネジメント改革だ。2004年にマネジメント改革の方向性や情報ツール開発にメドをつけ、2005年9月に営業情報インフラの展開を終えた。そして早くも商談数が半年間で1割増加するといった成果を上げ始めている。
情報インフラの整備を先行
リコーの営業プロセス改革の起点は1999年までさかのぼる。当時、コンサルティング会社を使って改革テーマを体系的に調査した。この時に5分野の15もの課題を洗い出した。5分野とは、(1)案件発掘力の強化を柱とする営業生産性向上、(2)付帯業務削減、(3)ネットなど新販売チャネルの活用、(4)在庫削減のための工場との連携、(5)商品企画に役立つ情報の収集——である。
いずれの解決にも、情報システムの開発が必要だった。まず着手したのは(2)や(3)、(4)などの関連システムだ。オンライン販売サイトのネットリコー(NetRicoh)を99年度に立ち上げるとともに、見積もりや受注時の起票などを省力化するシステム、リフォス(RIFOSS)を2002年度下期に導入した。
最も重要な(1)の「案件発掘力の強化」のためには、そもそも営業プロセスをマネジャーが把握できる情報基盤を整備する必要があった。そこで、SFA(セールス・フォース・オートメーション)ツールの導入に1999年度から着手した。だが、この市販SFAツールは当初の予想以上に導入費用がかかった。2002年度までに2300クライアントのライセンス料だけで10億円、カスタマイズにも10億円以上を費やした。
「99年当時は、営業情報をリレーショナルデータベースに格納するようなシステムは市販パッケージでないと実現できないと思っていた。2004年4月に再検討の結果、ウエブ関連技術の進歩で自社開発が可能になったとみて方針を変更した」(販売事業本部CRMセンター所長兼NetRICOH販売事業部長の村上清治氏)
顧客データベースの整備も当初は不十分だった。例えば、どの得意先がどんな保守契約を結び、コピー機のカウンターはどれぐらい回っているか、といった切り口で顧客を手軽に抽出できるツールが営業現場に無かった。当時は営業部門や保守サービス部門などで情報が散在していたからだ。
そこで、これらの情報を統合した統合顧客データベース(DB)を2001年度下期に作った。そして、顧客の事業所では他社機も含めてコピーをおよそ何枚取っているのか、リコーの顧客内シェアはどの程度か、といった新たな顧客情報の収集を推進した。「今では350万事業所の情報が蓄積されており、最終的には500万事業所をカバーする予定」(村上所長)という。
マネジャーの指導力を見直す
こうしたシステム整備の一方で、新たな営業マネジメント像を模索していった。
2003年に都内のある営業所で営業マネジメントの改革テストを行った。(1)「コピー枚数が多いにもかかわらずリコーのシェアが低い」といったターゲットをマネジャーが戦略的に選定して営業担当者に割り振る、(2)カラー機で300万円以上といった重点案件については商談進行の計画表も作成して進ちょくを管理する、(3)10日間で2日間以上訪問しても商談が進まない案件にはマネジャーが積極的に助言をしたり同行営業などを実施する——といったものだ。
実験の効果は目覚しかった。月間の売上高が100万円弱と伸び悩んでいた入社4年目の営業担当者が、半期で前期比3.7倍もの売り上げを達成したのだ。
成績向上の理由として若手の営業担当者は、(1)様々なアドバイスが上司からもらえるようになった、(2)商談の進ちょくの目安や期限を定めたことで商談スピードが上がった、(3)上司のアドバイスがもらえるので従来より付き合いの浅い顧客でも積極的に登録してアドバイスを仰ぐようになった、といった理由を挙げたという。