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 大阪市役所の抜本改革が本格化し、ほぼ1年が経つ。4、5月には改革本部を中心に成 果の棚卸と課題の整理が行われた。今回はその概要を報告したい。

1.外部の民間有識者による評価

 3月3日、そして5月15日には外部の有識者からなる市政改革推進会議が開かれた。 これは経営や改革のプロが進行中の市政改革をチェックし、また助言するために新た に、できた機関である。筆者が委員長を務め、委員には地元の企業経営者や前三重県 知事の北川正恭氏などが就任した。2回の会合のコメントを集約すると次のようにな る。

  • 不祥事と厚遇是正をほぼ終え、市政改革は一応の軌道に乗った。
  • 遅れていた市役所の予算・人員のスリム化、いわゆる「身の丈改革」は一気に進 んだ。5年間の採用凍結や約5%の経常経費のカットなど他都市を凌駕する規模の 見直しが実現した。
  • 公債残高もはじめて前年度比マイナスとなった。
  • しかしこの1年の改革は「正常化」にすぎない。これだけの巨大組織の改革には 最低4年はかかる。やっと1年が経過し、基礎固めができた段階に過ぎない。
  • 自律改革への動きはまだ脆弱だ。今後も外部委員やコンサルタントなどの力を借 りなければ改革はあっというまに形骸化、もしくは失速するだろう。
  • 改革の実態と成果が市民や職員に伝わり、そこでの賞賛や支持が次の行動を呼ぶ という好循環ができていない。せっかくの改善の萌芽を組織外に伝える工夫と活 動にもっと投資すべき。

◎(関連サイト)大阪市 市政改革推進会議
http://www.city.osaka.jp/keieikikakushitsu/kaikaku/kaikaku_s/index.html

2.改革本部内での議論

 さて、市役所改革本部は3月3日の市政改革推進会議の指摘を受け、さっそく職員と 外部委員による過去1年の総括を行った。まず、改革が組織全体に浸透していない、 まだまだ危機感が足りないという点で意見が一致した。昨年来の改革は、マスコミと 市民による激しい厚遇批判を契機に始まった。そのため「なぜ改革が必要か」を現場 職員が必ずしも十分に議論していない。一部の現場職員、そして議員の一部にすら 「改革はもう終わった」という誤解が一部ある。しかし上から危機感を煽るだけでは 人の行動は変わらない。いろいろな議論を経て、「今後の改革には“夢”と“愛”と “対話”が必要」という結論が出た。

 “夢”と“愛”と“対話”とは、以下のような取り組みである。

(1)夢:市役所のスリム化を超え、大阪の町をどうするという“夢”を描く作業は今 年の課題。来年度からの具体的な施策に反映できる“創造都市ビジョン”を職員の力 で構築し、市民との対話を経て作り上げる必要がある。

(2)愛:昨年度の改革は市民からの信頼失墜と財政危機に端を発した緊急対応だっ た。そのため上から数値目標を提示せざるを得なかった。だが本来の改革は現場と仕 事を愛する職員が自ら取り組むものである。今年度からは現場の底力を引き出す改革 に取り組むべきである。

(3)対話:不健全な労使関係や議会・市長・労組の癒着を断ち切るべく、昨年来、市 長を中心にけじめの明確化を図ってきた。しかし是正後には立場の違いを理解しあっ た上で政策対話を積極的に進めるべきである。対話を通じて意見の違いをはっきりさ せることから問題解決は始まる。

◎(関連サイト)市政改革この1年の総括と展望(2006年4月、大阪市 市政改革本部)
http://www.city.osaka.jp/keieikikakushitsu/kaikaku/
kaikaku_s/kaigi/pdf/20060515_03.pdf

3.労使関係は変わったか?

 さて、これまで専門家やマスコミは大阪市役所の一連の職員厚遇問題の背景には不 健全な労使関係があると指摘してきた。市長も是正に乗り出し、市役所は過去1年に 労使協議のやり方を変えるなど数多くの改革を行ってきた。だが、現場の実態はどう か。実態を把握すべく総務局は全職員に対して実態調査(アンケート)を行った。

 回収意見は多岐にわたったが、そのうち「労使関係は改善した」という答えは79通 だった。一方、「変わらない」という回答は「改善した」を上回る82だった。ほぼ同 数だ。大阪市役所は、つい最近まで「個別人事や来年度の予算要求まで労組に相談し て決めていた」といわれる組織である。まだまだ予断を許さない。

 労組の旧態依然ぶりを象徴する現象が市職員組合による本庁舎会議室の不法占拠で ある。かつて大阪市役所には勤務時間中に組合活動をする“ヤミ専従”がたくさんい た。だが昨年の条例改正を契機に人数も労使協議の時間数も激減した。したがってか つてと同じ面積の会議室を労組が占有する理由はない。ところが返還に応じない。本 庁舎では各種改革プロジェクトが進み、会議室はいくらあっても足りない状況だ。書 類を抱えた職員が右往左往する中、労働組合は昼間、がらんとあいた空の会議室を占 有し続ける。あまりにも異様な光景だ。労組の存在、そして健全な労使関係は、市役所 の経営再建、そして職員の職場環境作りにも不可欠なはずだ。この問題を解決しない 限り、大阪市役所は市民からの信頼を回復することはありえないだろう。

※注 本稿はあくまで筆者の個人的見解である。

上山氏写真

上山信一(うえやま・しんいち)

慶應義塾大学教授(大学院 政策・メディア研究科)。運輸省、マッキンゼー(共同経 営者)、ジョージタウン大学研究教授を経て現職。専門は行政経営。行政経営フォー ラム代表。『だから、改革は成功する』『新・行財政構 造改革工程表』ほか編著書多数。