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 かつて,Webアクセスを高速化するソフトウエアや装置は,同じ共通の目的の下で統合されていき,互いに相性のよい機能を束ねていった。具体的には,キャッシュ/データ圧縮装置,SSLアクセラレータ,TCPコネクション集約装置,といった機能がWeb高速化装置として統合された。さらに,サーバー負荷分散スイッチと合体した。製品ジャンルとしては,負荷分散装置と括るケースが多かった。

 互いに相性の良い複数の機能を束ねること。または,似た目的を持つ製品をベンダーがラインアップすること---。これらは,至極まっとうな製品戦術であり,頷ける。では,負荷分散装置と相性の良い機能には何があるのか。または,負荷分散装置とともに取り扱うべき製品には,どんなものがあるのか。その時のマーケティング・コンセプトは何が適切なのか---。最近,記者は,WAN高速化装置という製品ジャンルに対し,こんなことを感じている。

WAN高速化という潮流

 Web高速化機能を持つ負荷分散装置を出荷するベンダーが扱う最新の製品が,WAN高速化装置である。WAN高速化とは,通信回線を経由してクライアント/サーバー型TCP/IPアプリケーションを使うための機能であり,通信回線の弊害である遅延によるレスポンスの低下を防ぐのが狙い。遠隔拠点とデータ・センターの双方にWAN高速化装置を設置し,WAN高速化装置同士の間で,通信回線に流すパケットを最適化する。

 WAN高速化の技術にはTCP/IPアプリケーション全般に有効な機能もあるが,主なマーケット・セグメント,すなわち対象アプリケーションは,CIFS(Common Internet File System)などのファイル共有プロトコルである。つまり,遠隔拠点にあるコンピュータが,データ・センターに設置したNAS(Network Attached Storage)をネットワーク経由でマウントする,という需要に応える。

 負荷分散装置とWAN高速化---。一見すると無関係に見える両者だが,データ・センターにあるサーバー・アプリケーションを快適に使うという目的では共通する。負荷分散装置はHTTPクライアントからHTTPサーバー(の背後にある業務アプリケーション)を快適に使うためのサーバー増強機能であり,WAN高速化はアクセス性能を可能な限り落とさずにデータを一極集中化する。

WAN高速化と相性の良い機器は?

 では,WAN高速化は,互いに相性の良い機能として負荷分散装置に統合化されているだろうか。実は,負荷分散装置ベンダーはWAN高速化装置を別の製品ラインとして位置付けている。アクセスを高速化する,業務アプリケーションを配布する,という大きな目的の下,ベンダーとして手がけるべき製品ではあるものの,WAN高速化は負荷分散装置の一機能として統合する類のものではないということだろう。

 Web高速化装置は,システムのトポロジとして見ればリバース・プロキシであり,データ・センター側に設置してWebアプリケーションのフロントエンドに配置する。つまり,Webブラウザからのアクセスを直接受ける。この一方,WAN高速化装置は遠隔拠点側とデータ・センター側の両方に導入し,通信回線と有線LANとのエッジ(境界)に配置するゲートウエイだ。データ・センター側のWAN高速化装置は,クライアント・アプリケーションからのアクセスを直接受けるわけではない。

 Web高速化機能は,WAN高速化とは異なり,負荷分散装置との統合に違和感がなかった。データ圧縮やTCPコネクション集約などの機能がWebブラウザとの間で何の遜色もなく動作するからだ。一方,WAN高速化の場合,WAN高速化装置同士の間で初めて実現できる機能が多く,Webブラウザからのアクセスを直接受ける負荷分散装置との相性には疑問符が付く。

 記者個人は,WAN高速化と相性の良い製品は「Packet Shaper」などの帯域制御装置であると思っている。

WAN高速化にまだ進出していない例

 こうした中,WAN高速化に現時点では踏み込んでいない負荷分散装置ベンダーの1社として,先日,米NetScalerを思い出す機会があった。画面情報端末大手のシトリックス・システムズ・ジャパンの新製品「NetScaler System」の記者発表会でのことである。現在では,米NetScalerは米Citrix Systemsに買収されている。米NetScalerは,かつてWeb高速化の1つであるTCPコネクション集約装置でブレイクした企業であり,後に負荷分散装置としての地位を築いていった。

 NetScaler時代もだが,現在の米Citrix Systemsは,まだWAN高速化装置には進出していない。ここで記者はふと思った。米Citrix Systemsの主力製品であるPresentation Server(旧MetaFrame)は画面情報端末サーバー・ソフトであり,WAN高速化とは対象とするシステム・アーキテクチャが異なるということに,である。

 そして素朴な疑問が湧いた。「画面情報端末とWAN高速化は,どちらのアーキテクチャが良いのだろうか」と。画面情報端末だけを使う限り,CIFSプロトコルはデータ・センターの有線LANの内部に閉じる。一方,WAN高速化装置の主な対象プロトコルはCIFSであり,WAN高速化装置を導入するということは,ネットワークにCIFSプロトコルを流すということだ。

 実は,画面情報端末は元々,WAN回線との相性が良い。思い出してみよう。画面情報端末の主な対象は,WAN回線コストの削減であった。現在でこそWAN回線は安くなったが,転送データが少なくて済むため安価な通信回線でも十分実用になるという画面情報端末のマーケティング・コンセプトは,記者を唸らせた。昨今では,シン・クライアントを用いた情報漏えいの防止,というセキュリティの観点が画面情報端末に加わったのはご存知の通りだ。

 もちろん米Citrix Systemsは,意識してWAN高速化装置を出さないようにしているわけではない。需要があれば出荷するだろう。だが,画面情報端末ベンダーの米Citrix SystemsがWAN高速化製品を持っていないことで,記者はこの両者の使い分けについて,ふと考えてしまったという次第である。

災害対策ではデータ・センター同士をWANでつなぐ

 最後に,WAN高速化装置のように拠点間で対向型に設置することで威力を発揮する機器として,興味深い例を紹介したい。データ・バックアップ専用のNASを開発する米Data Domainである。バックアップ専用のNASとは,ファイル単位ではなくディスク全体での冗長性を排除することで高いデータ圧縮機能を持つNASである。データ容量は,典型的な業務システムで50分の1~60分の1のサイズになるという。

 データ量を削減することによるメリットは,WAN回線を経由したデータ・レプリケーションが可能になるということだ。例えば100TバイトのデータをそのままWAN経由で転送するのは大きな帯域を必要とするが,2Tバイトなら転送できる,といった具合だ。遠隔拠点からデータ・センターへのデータ・レプリケーションはもちろんだが,データ・センター同士の間でのレプリケーションという需要を満たす。災害対策を考えると,一極集中化させるデータ・センター自体を異なる遠隔地に複数用意するという方法が採られる。テープを遠隔地の倉庫に運搬するのと同じことである。