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「交通安全運動のような啓蒙活動」の重要性を強調する西和彦氏
「交通安全運動のような啓蒙活動」の重要性を強調する西和彦氏
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 「2006年度のセキュリティ政策体系『セキュア・ジャパン2006』では,対策が遅れがちな部分でのセキュリティ・レベルの底上げを目指す」(内閣官房セキュリティセンター参事官補佐山崎琢矢氏)。

 「ネットワーク・セキュリティについても交通安全教室のような教育啓蒙が必要」(尚美学園大学大学院教授 西和彦氏)。

 「ユーザーの知識不足が問題だ。攻撃者は最も弱い部分を突く」(国立インド銀行CIO クリシナ・クマル氏)。

 5月25日から27日にかけて開催された「コンピュータ犯罪に関する白浜シンポジウム」で,様々な識者から発せらた発言の中に,ある共通するメッセージがあった。高度化するセキュリティ対策技術の向上を使いこなして恩恵を受けている層と,そうでない人の格差が拡大しているという,内閣官房 山崎氏の言葉を借りれば“セキュリティ格差社会”だ。

 「コンピュータ犯罪に関する白浜シンポジウム」は今回で10年目となった。「10年の間に,防御側の技術は大きく向上した。と同時に,攻撃側の技術も向上した。一方,一般の初心者がどんどんユーザーとなっている」(白浜シンポジウム 実行委員の京都大学助教授 上原哲太郎氏)。警戒心も薄く,知識も少ない初心者は技術と知識を進化させた攻撃者の前に無防備な格好でさらされる。「こういった一般ユーザーをどう救うかが問題だ」(上原氏)。

 現実の格差議論でも実際に拡大しているのかどうかを巡って議論がある。セキュリティ格差社会については裏付ける数字があるわけではなく,本当に拡大しているのかどうか分からない。しかし,これだけ多くの識者が肌で感じている以上,何らかの実態が存在するのだろう。

 西和彦氏が基調講演の中で指摘したのは,「交通安全運動のような啓蒙活動」の重要性だ。小学校で交通事故の怖さや交通ルールを教えるように,低年齢のうちから(もちろん成人や高齢者に対しても)広範にセキュリティやインターネットに関する教育を行っていくべきというものだ。

 インド銀行CIO クリシナ・クマル氏も教育の重要性を強調する。「インド銀行では20万人の従業員に対し,セキュリティに関する教育を受講させた」(クマル氏)

 確かに啓蒙は重要だ。もっともっと多くのユーザーにセキュリティに関する関心と正しい知識を備えてもらわねばならない。西氏が挙げた「ネット・ギャンブルにはまってクリック・クリックで莫大な借金を背負う」という例のように,そもそも本人の自覚以外には対策のない問題もある。

 しかし,もし,技術の進歩が格差を拡大しているのであるとすれば,それは正しい進歩の方向ではないように思われる。交通安全に例えればエアバッグやABSのような,人間のスキル不足や注意不足のもたらす被害を軽減していく方向への技術の進歩であってほしい。インターネットを,試験に合格しないと使えない免許制にするわけにはいかない。人間である以上間違うこともある。“セキュリティ格差社会”がこれ以上拡大せず,縮小していくことを切に願う。