衛星−地上局間光通信とは,レーザー光を使って通信衛星と地上局の間の通信を実現する技術である。2006年3月,情報通信研究機構(NICT)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)が,低軌道衛星と地上局の間でレーザー光を使った通信に世界で初めて成功した。
衛星通信に使う衛星といえば,高度3万6000kmに打ち上げた静止衛星が一般的である。それに対して,今回の実験に使われたJAXAの衛星「きらり」は低軌道衛星で,高度610kmの軌道を回っている。地上から見て同じ場所にとどまる静止衛星と違い,低軌道衛星は高速で地球を周回するので地上局の上空をあっという間に通り過ぎる。そこで今回の実験では,高精度のレーザー追尾技術を取り入れ,実験を成功させた。
レーザー光を使う通信では,大気による光の屈折や散乱も大きな問題になる。とくに衛星通信の上り(地上局から衛星向けの通信)では,大気が最も厚い地表からレーザーを発するので,衛星に届くまでに分散してしまい,エラーの原因になる。そこで今回の実験では,上り方向で同じデータを4本のレーザーに載せて送信し,冗長化を図った(図)。
地上と衛星の間は通常,電波を使って通信する。ところが,データ量は年々増えており,電波の伝送速度では不十分になることが予想される。そこで,レーザー光を使って高速伝送を実現しようというのが今回の実験の趣旨である。
とくに伝送速度が足りなくなりそうな分野が,低軌道衛星による地表画像撮影だ。例えば,「IKONOS 2」という衛星は,解像度1mという高解像度の画像を撮影し,商用で提供している。衛星が撮影した画像データは,複数の無線チャネルを束ねて数百Mビット/秒で地上に送っているという。
こうした地表画像の解像度はさらに高くなっていくと予想できる。そうなると,高解像度の地表画像を送るには高速なデータ伝送技術が必要になり,電波では限界がくる。そうした高速伝送には,光通信の技術が必要になるというわけである。