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 “全員が経営者”。これは創業者の編んだ「社員ハンドブック」の中で,経営理念の次に登場する項目だ。「会社繁栄のためには全社員の一体感が必要」という創業者の言葉は,何十年という時を経た今も決して色褪せることなく,私たちに大切なことを思い出させてくれる。

 社員は1階級上の立場のつもりで物事を判断し,「自分が会社を支えている」という気持ちで全体を考え,自分の職責を完全に遂行する。管理職は我が子を育てるがごとく部下にも愛情を持って接し,父のように厳しく,母のように優しく叱咤激励する。そして互いにひざを合わせ,腹をうち割って語り合い,誠心誠意相手に尽くして相互信頼感を高める。こうした「家族的経営」が,創業以来一貫して当社が目指してきた理想の企業像だ。

 さらに創業者は言う。「上から下への一方交通的な意志伝達でなく,社長を中心に上下左右,常に心の通じ合う経営をすることが重要」と。ITの普及したデジタル化社会において,ネットワーク型組織を行き交うのは無機質の電子情報だ。しかし,ここに人間らしい温かみを通わせ,経営者と社員,さらにお客様やお取引先との間に有機的なつながりを確立することを忘れてはならない。

 バブル後の「失われた10年」は,当社においては「躍動の10年」だった。21世紀を迎えてなお,進化の歩みは止まらない。来春には最新ITを導入した新オフィス棟が竣工する。目的の一つは,現在工場と同居している管理部門を別棟に集約することで工場設備を増強し,生産能力を倍増させることだ。当社はIT企業ではない。高品質の「ものづくり」に徹するため,ITによって業務を効率化し,より多くの時間や利益を得る努力を重ねているに過ぎない。

新社屋のイメージ。隣接地に新社屋が竣工した後,現社屋の全フロアを生産工場に改装。生産能力は2割増となる。インターンシップやチョコレート教室の開講計画もあり,社会貢献やチョコレート文化の普及にも一層注力していく


規模が違っても経営の基本は変わらない

 当社はいわばリトルリーグの企業だが,野球をするグラウンドもルールも,メジャーリーグのそれと何ら違いは無い。「経営」というものは,大企業でも,中小,零細企業でも,基本はまったく同じだと言うことができるだろう。

 ご披露してきた様々な例を見て,自分とは違いすぎて参考にはならない,と即断するのは禁物だ。まず意識して「情報」に接すること,そして自分なりに活用すべく努力を続けることが「情報活用」の第一歩ではないだろうか。「学ぶ」は「真似ぶ」が語源と言われる。すべてを一から真似するのではなく,基本となる考え方を学び,実行できそうな部分だけでも,それぞれ自分に置き換えて役立ていただければ幸いに思う。

 「海図なき道」を切り拓く指針となる羅針盤,そして船に携わるすべての人間のコミュニケーションを図る道具。これらこそが「収集,分析,公開,共有」すべての過程を経た「情報活用」であると,最後にもう一度強調しておきたい。

 “IT革命”と題しながら,連載中はITとは無関係の話題も多かった。期待しておられた方々にはこの場を借りてお詫び申し上げるとともに,これまで長らくご愛読下さった読者の皆様に改めて感謝申し上げ,本連載を閉じさせていただく。


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■原 邦生 (はら くにお)

【略歴】
 メリーチョコレートカムパニー,代表取締役社長。1935年東京都生まれ。青山学院大学文学部卒業後,同社に入社。取締役,常務取締役,代表取締役専務を経て,1986年より同社代表取締役社長に就任。1958年に日本で初めてバレンタインセールを企画。現在の巨大なバレンタイン市場の「生みの親」でもある。営業畑を歩んで来た一方で,独自の社内情報システムも一貫して推進してきた。2004年より,経済産業省が推進するIT経営応援隊(中小企業の経営改革をITの活用で応援する委員会)の本委員会会長,東京商工会議所常議員(CSR委員会委員長)などを務める。

【主な著書】
『家族的経営の教え』(アートデイズ),『今週の提言』(ストアーズ社),『この商いで会社をのばせ!』(かんき出版),『朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『続・朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『新・朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社)『新新・朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『小さな変化で,大きな流れを読む 朝礼でちょっと考えてみたい52の話』(ストアーズ社),『感動の経営~想いを贈る企業を目指して~』(PHP研究所),『社長は親になれ!』(日本実業出版社)など。