PR
写真1 6月6日の竹中懇談会の最終会合後,報告書について説明する竹中平蔵総務大臣(左)と松原聡座長(右)
写真1 6月6日の竹中懇談会の最終会合後,報告書について説明する竹中平蔵総務大臣(左)と松原聡座長(右)
[画像のクリックで拡大表示]
図1 竹中懇談会が作成した報告書の主要なポイント
図1 竹中懇談会が作成した報告書の主要なポイント
[画像のクリックで拡大表示]

 6月6日,竹中平蔵総務大臣が主催する「通信・放送の在り方に関する懇談会」(竹中懇談会)が,6カ月間にわたる議論に終止符を打ち,最終報告書を完成させた(写真1)。その中で懇談会は,政府がブロードバンド・ゼロ地域の解消を目指す2010年度と,地上波放送のデジタル化が完了する2011年を見据え,2011年を「完全デジタル元年」と命名。そのために,通信・放送改革に今すぐ着手すべきだと訴えた(図1)。

 竹中懇談会の通信分野における重要な論点となったのが,2010年に向けたNTTの在り方だった。NTTグループが今後のブロードバンドの主役であり,放送コンテンツを流す媒体にもなる光ファイバを大量に敷設する能力を持つからだ。報告書では,NTT東西地域会社のアクセス部門を,会計だけでなく人事交流なども分ける「機能分離」を短期策として実施するよう強調。さらに,「2010年には」通信関連法制を抜本的に見直すため,NTT持ち株会社の廃止などを含む検討を「速やかに」始めるべきとも提言している。

 ただし報告書は,アクセス部門の機能分離やNTT法の廃止を提言するなど,NTTに厳しい要求を迫るだけではない。東西NTTの業務規制の撤廃にも言及するなど,東西NTTの自由度を高める新たな施策を打ち出しているのだ。つまり2010年以降,現NTTグループ企業同士の再統合が可能となり,東西NTTが放送局を買収することさえ自由になる可能性がある。

 報告書の提言が実現すれば2010年には,現在とは全く異なったNTTの姿が形作られ,日本の通信・放送市場に今だかつてない競争環境が訪れる。だが,これが本当に実現するのかどうかは全く不透明な状況にある。

「2010年までに光3000万回線」を宣言したNTTの猛反発

 「“2010年問題”は一体どうなるのか」---。通信業界では最近,このような言葉がささやかれ始めた。竹中懇談会が打ち出した2010年に向けた提言に,NTTの競合事業者が期待する一方で,その実現性をいぶかる声もあるからだ。実際,2010年に向けた通信市場の競争環境の在り方について,NTTや政権与党である自由民主党(自民党)の意見は,竹中懇談会と食い違う。

 アクセス部門の機能分離やNTT法廃止については,当のNTTが猛反発している。というのもNTTグループは,2005年11月に中期経営戦略のアクションプランとして,光アクセス回線の構築計画を公開済みだからだ。具体的には,2010年までに次世代IPネットワークを構築し,光アクセス3000万回線を普及させるという計画を達成するため,現在のNTTグループの一体化を進めるというもの。NTT持ち株会社の配下にある東西NTTやNTTコミュニケーションズ,NTTドコモなどの主要通信事業会社の役割分担を明確にし,重複事業の解消を目指している。このための布陣を敷いた矢先に,持ち株会社の廃止も視野に入れる竹中懇談会の報告書が出てきたわけだ。

 NTT持ち株会社の和田紀夫社長は,竹中懇談会の報告書が出来上がる前から,懇談会の議論をけん制する発言を繰り返した。「アクセス部門の機能分離など受け入れられない。最終報告書は出ていないが,仮にNTTとして納得いかない内容なら,明確に抗議する」と発言。NTTの有馬彰取締役も,「現状のNTTの組織形態に問題があるとしても,だから機能分離をしろというのはあまりに乱暴な議論」と非難する。

 同時に有馬取締役は,「そもそも懇談会は通信と放送の融合について議論すると言っていたのに,なぜNTTの組織論に焦点が当たったのか。議論の経緯を見ながら,嫌な予感はしていたのだが」とぼやく。独自に3000万回線の光アクセスを引くことを宣言したNTTにとって,竹中懇談会の報告書はまさしくその方向性をひっくり返すもの。東西NTTなどの規制緩和という“アメ”が用意されているとはいえ,すんなりと受け入れられる内容ではない。

「速やかに始めるべき」か,「2010年ころに検討すべき」か

 一方,自民党はNTTと重なる部分が多い意見を明らかにしている。片山虎之助氏が委員長を務める「電気通信調査会 通信・放送産業高度化小委員会」(片山委員会)がまとめた案では,NTTの組織問題について「拙速に結論を出すべきでない」と提言。「2010年ころに」NTT法などの関連法令の改正を検討するべきだ,としている。

 片山委員会は竹中懇談会とほぼ同時期に始まり,竹中懇談会と同様に放送と通信の在り方について議論を進めてきた。NTTは竹中懇談会の報告書案が見え始めたころから,片山委員長にも相談に行っていたようだ。こうした動きが奏功したかどうかは不明だが自民党案は,NTTが次世代ネットワークを完成し,3000万回線の光アクセスを引き終わるまでは様子見をする案となっている。

 NTT法廃止の議論は,竹中懇談会の提言通り「速やかに始めるべき」なのか,自民党案の「2010年ころに検討すべき」なのか---。7月初めにも政府が基本政策としてまとめる「骨太方針」への反映に向け,竹中懇談会と自民党の調整は水面下で続いている。2010年のNTT像と通信・放送市場の競争環境を左右するこの「2010年問題」の行方を,業界全体が見守っている。