PR
図6 普及のために改良が進められている技術的要素
図6 普及のために改良が進められている技術的要素
[画像のクリックで拡大表示]
図7 グリッドの主なプロジェクトや団体のWebサイト
図7 グリッドの主なプロジェクトや団体のWebサイト
[画像のクリックで拡大表示]

 「グリッドの3形態や標準化の話は,並列処理が主眼では?冒頭にあった“次世代高度インターネット利用技術”はどこへ行ったのか」。こういう疑問があるかも知れない。そこで,今後のグリッドに関する技術的な見通しに触れておこう。

 現在のところ,主に3つの点が大きな開発テーマになっている(図6[拡大表示])。第1は,マスターにおけるメンバーへのジョブ割り当て方法だ。方向性としては,MPUの性能や主記憶容量,ジョブの進ちょく状況などメンバーの詳細な情報を,マスターがほぼリアルタイムに近い頻度で把握する。これにより,適切なジョブの割り振りが可能になる。

 第2はセキュリティ。自動車メーカーでの車体設計や製薬会社における新薬開発など,グリッドで扱うデータが機密情報である場合,セキュリティの確保は不可欠だ。Globus Toolkitをはじめとする多くのツールは,暗号化と認証技術を適用することで,マスターとメンバーの間の通信部分と,メンバーのハードディスク内においてデータを保護する機能を備えている。

 しかしそれだけでは不十分。NTTデータの鑓水訟氏(やりみずしょうじ)・技術開発本部バイオインフォマティクスグループcell computingプロジェクトリーダは,「コンピュータの主記憶上に展開されたデータは暗号化されていないので,読み取られる恐れがある」と語る。この問題を解消する見込みは立っていないが,グリッドの用途拡大には重要だ。

 そして第3が,会計や生産計画など様々な業務システムへの対応である。並列処理に向くシミュレーションや大量のデータ解析などとは異なり,一般的な業務システムでは「下手に並列処理させると,1台で実行した方が速いということになりかねない」(日本IBMの野村部長)。

 そこで米IBMはOSのAIXに加えて,アプリケーション・サーバーの「Websphere」やデータベース管理システムの「DB2」などのミドルウエアをグリッド向けに作り直しているという。「既存の業務アプリケーションに多少の手を入れるだけでグリッドでの実行速度を上げられるようにするのが目標」(同)。当然,実行速度だけでなく,システムの可用性向上も狙う。ただし,開発は途についたばかりで,どれだけ実用性を高められるかは未知数だ。

メーカーや金融機関にニーズ

 これからどのようにグリッドのビジネス利用が進んでいくのだろうか。専用ツール・ベンダーであるプラットフォーム コンピューティングの今井龍二代表は,「当面は自動車や電機・電子,半導体,プラント,化学,医薬品などのメーカー,それに保険会社や証券会社,銀行といった金融機関などの研究開発部門において,導入が進む」と見る。

 これらの研究開発部門では,日常的に大規模なシミュレーションやデータ解析処理を行っており,それに使うコンピュータへの投資や運用管理が大きな負担になっている。しかも製品やサービス商品の開発期間の短縮が至上命題である今,「処理能力はいくらあっても足りない」(同)。

 その先にある,より一般的な用途,例えばWebサービスとの技術的な融合や,複雑な設定や操作なしにPDAからネットワーク上のコンピュータ資源を自在に使えるようにするといった方向はどうか。どんな技術が必要で,その開発はどこまで進んでいるのだろうか。実は,こういったことは,研究者や技術者の間でもまだ見えていない。それが冒頭で述べた「すべてはこれから」の意味だ。

 そもそもグリッドを,現状のニーズに合わせて考えることに無理があるという見方もある。グリッド協議会の関口会長は,こう語る。「Webだって最初からしっかりとしたニーズがあったわけではなく,技術先行だった。ところが技術革新によってニーズが掘り起こされ,情報システムのあり方が変わり,今やなくてはならない基盤になった。グリッドも同じように浸透していく可能性が大きい」。

(中山 秀夫)