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 今年11月までに開始される携帯電話の「番号ポータビリティ」。携帯電話の事業者を乗り換えても,既存の携帯電話番号を引き継げるという制度である。この番号ポータビリティを巡り,携帯電話事業者の“自社ユーザーの乗り換え阻止”および“他社ユーザーの乗り換え促進”策が花盛りである。

 先週もKDDIが異例の発表を行った。8月に開始すると1月に発表していた「3カ月くりこし」を,サービス開始前にサービス名称とその内容を変更したのだ(関連記事)。新しいサービスの名称は「無期限くりこし」。携帯電話の月額基本料に含まれる無料通話分を翌月以降に繰り越せるというサービスの,期間制限を撤廃するというものだ。無料通話分の繰り越しは,今や各携帯電話事業者のサービスで当たり前のようになっているが,期限の撤廃(ただし上限金額は存在する)まで踏み込むのはKDDIが初めてである。

 明言はしていないものの,「繰り越しの増額による減収よりも,他社からユーザーを獲得することによる増収の方が大きいと予想している」というKDDIの発言からは,明らかに番号ポータビリティ狙いであることが分かる。

 だが11月に「番号ポータビリティ」が開始されたとして,いったいどれぐらいのユーザーがこれを活用して携帯電話事業者を乗り換えるのだろうか。

 1年ぐらい前の報道などでは,それこそ民族大移動が起こるような調査結果が出ていたりした。「NTTドコモとauのシェアが逆転する可能性」というような過激な見出しも躍っていた。しかし最近の調査では,ユーザーが大幅に入れ替わるかのような結果はあまり出てないのが実情だ。例えばMM総研が6月14日に発表したアンケート調査結果によると,番号ポータビリティを利用して携帯電話事業者を変更するユーザーは11%にとどまるとしている(発表資料関連記事)。

 1年前と比べて何が変わったのか。容易に想像できるのは,番号ポータビリティの実態が次第に明らかになってきたことだ。以前は多くの人が番号ポータビリティの内容を正確に把握していなかったのに対して,メール・アドレスは引き継げない,端末機やコンテンツ・データも引き継げない,長期割引サービスはリセットされる,変更に当たって手数料が発生する−−などという実態が明らかになってくるにつれ,そう簡単に事業者を移れないと判断するユーザーが増えてきたというわけである。

 もちろん,「携帯電話事業者を変えたいが,番号を変えなくて済むようになるのなら,その制度が開始されるまで待とう」と考えているユーザーもいるだろう。番号ポータビリティ開始直後は,こうしたユーザーが一斉に事業者乗り換えに踏み切ると考えられる。しかしこうしたユーザーの場合は,もし番号ポータビリティ制度がなかったとしても事業者を乗り換えた可能性は高い。

 結論から言って筆者は,“番号ポータビリティをきっかけとした事業者乗り換え”は少ないのではないかと感じている。携帯電話の料金体系は非常に複雑になっており,しかも家族割引制度の活用は広がっている。「あっちの携帯事業者の方が得だから移ろう」と簡単に決められるものではないだろう。

 もし携帯のメール・アドレスが変わるとすれば,メール・アドレス変更のお知らせを必要な相手先にメールすることになるだろう。電話番号が変わったのであれば,そこに明記すればいいだけではないのか。メール・アドレスの変更を決断することと電話番号の変更を決断することには,大差がないと考えられる。また,携帯電話はパーソナルな機器である。電話番号が変わったことを伝える必要がある人は,そもそも少ないのではないのだろうか。

 それでも携帯電話事業者が「番号ポータビリティでユーザーを逃がさないために」さまざまな値下げや,サービス拡充を行うことは歓迎したい。事業者乗り換えを全く考えていないユーザーにとっても,大きなメリットがあるからだ。ということで,番号ポータビリティ開始までしばらくは,携帯電話事業者の“杞憂”が続くことを願っている。