2006年という時期にSOAに取り組むユーザーの課題は,SOAのガバナンスをいかに確立するか,である。

アーキテクチャの順守を司る組織が必要

 SOAに基づいたシステムを永続的に運営していくには,その企業が打ち立てたアーキテクチャに沿って,各種のシステムが構築・運用されているかどうかを“横ぐし”で見ていく組織が必要だ。しばしばプロジェクトマネジメントの領域では「PMO(Project Management Office)」という,個別のプロジェクトを第三者的に,かつ全社横断的に見る組織を設置する。これに似た概念である。

 この横ぐし組織は,「SOAセンター・オブ・エクセレンス」とでも呼ぶべきものである。EA(エンタープライズ・アーキテクチャ)や業務モデリング/分析を担当するビジネス側のスタッフと,アプリケーション・モデルやデータモデル,運用管理を担当するIT側のスタッフの混成メンバーで構成する。全社的な(業務としての)サービスやプロセスに関する様々な要件---例えばサービスの定義,優先順位,主管,品質,性能,アクセス権,コスト配分など---の意思決定に深く関与するメカニズムとして機能する。こうした組織は,EAコミッティーなど,ITガバナンスに関連する様々なチームでも実装可能である。

 日本企業では,CIOを中心とするIT関連部門で推進するのが現実的,かつ効率的だろう。そしてIT部門はこの活動を通じて,業務とITの両方に精通し,一層全社のガバナンスに関与できる組織になるべきだろう。

 以前筆者は「SOAを成功させるには,その企業のアーキテクチャを死守するべき」と書いたが,アーキテクチャを死守するための具体的な策が,こうした横ぐし組織である,と表現しても良いだろう。横ぐし組織を設立し,運用する過程では,これまでの業務,組織,企業文化・政治の壁を受け入れた上で、壊す覚悟も必要になるかもしれない。

SOAを理解した上でシステムを企画する必要あり

 実はSOAを推進するうえでは,エンドユーザー側にもSOAの核となるアーキテクチャやポリシーを理解してもらう必要がある。アーキテクチャやポリシーの理解度によって,ユーザーが企画し要件を出すシステムの再利用性が変わってくるからだ。

 逆に言うと,SOAの考え方に対する理解を全社に浸透させなければならない。全社に浸透していなければ,たとえ一旦導入できたと見えたSOAもすぐに瓦解する。

思いの強さがSOAの成功を左右する

 少し精神論的な話題で恐縮だが,最近筆者が認識を強めていることなので,あえて書き加えたいことがある。SOAについてリサーチを進めていてしばしば思うのは,その企業の強さは,IT部門の“思い”の強さに比例している,ということだ。そして、その思いは、単に技術論だけの視野で閉じたものではなく、企業ビジネスの“思い”と表裏一体でなければならない。そのためには,システムの設計・構築に関わる人材,いわばITアーキテクトは,ビジネス側にとっての最良のコミュニケーション相手であり,最強のパートナーでなければならない。

 この連載で,筆者はアーキテクチャを貫くことの重要性をたびたび強調してきた。アーキテクチャの堅牢性を言い換えると,「当社のシステムはこのアーキテクチャを貫くのだ」という思いの強さである。思いを貫けるかどうかで,SOAの“成功度”は変わってくるはずだ。


飯島 公彦(いいじま きみひこ)/ガートナー ジャパン リサーチ ソフトウェアグループ アプリケーション統合&Webサービス担当 リサーチディレクター


ガートナー ジャパン入社以前は,大手SIベンダーにてメインフレームを含む分散環境におけるシステム構築・管理に関する企画,設計,運用業務に従事。特にアーキテクチャやミドルウエアを利用したインフラストラクチャに関する経験を生かし,アプリケーション・サーバー,ESB(エンタープライズ・サービス・バス),ビジネス・プロセス管理,ポータル,Webサービスといったアプリケーション統合技術に関する調査・分析を実施している。7月19日~20日に開催される「ガートナー SOAサミット 2006」では,コンファレンスのチェアパーソンを務める。
ガートナーは世界75カ所で情報技術(IT)に関するリサーチおよび戦略的分析・コンサルティングを実施している。