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■トラブルの場合、怒りに任せて相手の要求が理不尽と言えるほどエスカレートしてくることがあります。一方で、普段からことあるごとに理不尽なことを言う人がいます。そういう人たちにはどう対応すればよいのでしょうか。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 トラブル、クレームの場合、その責任の大きさに比例して相手の要求はエスカレートしてくる。しかも感情的になっているから、その要求が理性の域を超えることも、しばしばある。

 しかしこれらはあくまでトラブルが招いた結果。トラブルによる動揺や怒りが相手を理不尽なクレーマーへと変貌させているのだ。一方で世の中には、平常時だろうが、なんだろうが、「えっ?そんな無茶な!」と言いたくなるほど常に理不尽な要求をしてくる人たちがいるものだ。

 例えば、結合テスト寸前というところで大幅な仕様変更を要求してきて、しかも納期は遅らせるな、コストも増やすなと、無謀な要求を押し通そうとする顧客などだ。

 何かミスが起こり、そのために四苦八苦するのなら、因果応報と納得もいくが、ただ単純に理不尽な相手に振り回されるほど不条理なことはない。しかもIT業界では、得てしてそういうケースに遭遇することが多い。

 それでは、そんな理不尽な相手にどう対応すればいいのか。

「相手の立場に立って考える」では不十分

 「相手の立場に立って考える」という言葉がある。相手の立場に立つことで相手の心情を理解し、共感をベースに問題を解決しようとする姿勢だ。トラブルなど感情的にもつれたコミュニケーションでは、まずは相手の立場に立って考えるという姿勢が必要だ。

 しかし、理不尽な相手を前にすると、どう相手の立場に立って考えてみても、そんな理不尽な要求には共感できない、と思うことが多い。「オレだったら、いくらなんでもアンタの立場でそこまで要求しないぜ」と。

 当然だ。なぜならそれは「自分の思考で考えている」からだ。「相手の立場に立って考える」と言った場合、ほとんどの人が相手の立場に立って“自分の思考で”考えている。

 そこをもう一歩踏み込んで「相手の思考で考える」ということができれば、本当の意味で相手のことが理解できる。

冷静な判断力を持つためには“相手になりきる”ことが重要

 トラブル時になにより大切なのは、冷静さである。トラブル時で問題なのは、相手の予測不可能な言動に動揺し、理不尽な要求に憤慨することで冷静な判断力を失ってしまうことなのだ

 だから興奮してもおかしくない状況の中、自分の怒りを制御し、一歩ひいた視点で状況を客観化し、冷静な頭で判断しなければならない。そのために相手の思考で考えることが必要なのだ。

 相手の思考になりきることができれば、まず不思議と怒りが和らぐ。相手の理不尽な言動に感覚的に共感できるのだ。

 そして、相手の出方が読めるようになる。相手の行動が予測できれば、さまざまな準備もできるし、それをもとに冷静な判断ができるようになる。

カタチから相手のことを真似てみる

 しかし、「相手の思考になりきる」と言っても簡単なことではない。

 私はファシリテーションの技術を磨くために、プロの役者さんがやるような演技のトレーニングを取り入れたりしている。会議で登場する様々なキャラクターと常に自分が同化できるようにしているのだ。

 そんな専門的なトレーニングは必要ないが、これらの「相手になりきる」トレーニングの基礎は、「相手の動きをマネする」というごく単純なところにある。

 いろんな会社を見ていると、よく上司と部下がそっくりな場合がある。しゃべり方や考え方、ちょっとした所作まで相似形みたいにそっくり。

 自分に影響力を持つ人間と一緒にいる時間が長いと、次第にその人の所作やクセ、言動が伝染してくることがある。そうなると、知らない間に考え方や価値観も似てくるのだ。それと同じ。

 不思議なものでその人の動きをマネしていると、だんだんと考え方自体が似てくる。

 あなたが常に接している理不尽な顧客をもっと理解したいと思うなら、普段からそんな顧客の言葉遣いや、所作を真似てみるといいだろう。全く共感なんてできやしないと思っていた相手のことがだんだんと身近に感じられてくる。相手の繰り出す理不尽な要求も、受け入れられはしないものの、不思議と心情的に理解できるようになる。

 そうすると、理不尽な相手の怒りの矛を治める方法が、自分のこととして見えるようになってくるのだ。

 ただし、完全に同化してしまってそっちの世界に行ってしまうと、あなた自身が理不尽な人になってしまうので気をつけましょう。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。