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 2006年4~6月期の業況判断指数を見ると、ITサービス市場は緩やかな成長軌道に乗った。しかし市場が拡大しても、価格低下によって、ますます利益確保が難しくなっている。



図1●ITサービス業界の業況DIの推移

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 ITサービス市場は緩やかな成長軌道に乗ったようだ。2006年4~6月期の業況DI(ディフュージョンインデックス)は、前回(2006年1月~3月期)の28から今回は32と増えた(図1)。2006年7~9月期の見込み値は34となるなど、ここ数年でITサービス市場は回復基調から新たなる成長へと発展を遂げていることが分かる。

 しかし手放しでは喜べない不安な要因も出てきている。今回の調査で売り上げDIは前回の29から48へと大幅に上昇したものの、粗利益率DIでは前回の38から10へと急激にダウンしているからだ。たとえ市場拡大が続いても単価の上昇が見込めないため、利益がなかなか取れないのである。

 実際、今回の調査の自由意見欄でも、今後のITサービス市場の成長を確信しながらも心配する声の方が目立っていた。

 「仕事は増えているが、価格競争は厳しくなっており、外注コストも上がっているため、利益率は低下傾向にある」(ソフト会社)、「昨年度から地方の中堅・中小企業など民需は立ち直りの傾向が出てきているが、逆にこれまで数年、伸長していた東京近郊のビジネスはますます競争が激化してきている」(販売会社)などの声があった。

SOX法関連はこれから

 さらにユーザー企業のIT投資意欲に、やや陰りが出てきていることも不安な要因の1つである(図5)。

 「高まっている」との回答が、全体では前回(2006年3月期)の65%から、今回(2006年6月期)は60%に下がったからだ。60%という数値は、過去の調査結果と比較すると高い数値ではあるが、IT投資意欲が前回に比べて下がった点は、注視すべきだろう。これを業種別に見ると、ソフト会社では「高まっている」との回答が前回とほぼ同じだったが、販売会社では大きく後退していることが分かる。

 個人情報保護などのセキュリティ、日本版SOX法や新会社法などの法令順守など、最近になって注目を集めるキーワードは多い。中堅・中小企業のIT化なども、今後の市場拡大要因として期待されている。しかし新しいソリューションの登場も、実際の市場開拓となると簡単ではないようだ。

 自由意見欄では、こうした新市場に対する期待と不安が交差するソリューションプロバイダの現状が垣間見える。

 例えば「市場は、高単価ではあるが付加価値の高いサービス・製品に対する需要と、低価格で標準的なレベルのサービス・製品への需要に二極化している。特にセキュリティ分野には多くの企業が参入して市場成長率は高いものの、高付加価値なサービス・製品へのニーズとなると限定的である」(ソフト会社)、「新会社法や日本版SOX法の影響で内部統制などの引き合いは増加しているが、ユーザー企業はまだ模索段階であり、現実にはビジネスに結び付いていない。逆に、一時は弱まったセキュリティ分野のソリューション案件が増加傾向にある」(販売会社)などの声があった。

SE不足も追い討ちに

 通信や金融など一部の業界では堅調なIT投資が続いており、需要がひっ迫しているといわれている。しかしそうなると今度はITサービス業界のSE不足が原因となって成長を妨げる。

 実際、「ユーザー企業のIT投資意欲を受けて、引き合いは活況ではあるものの、SE不足が原因となって短期的な需要増の色合いが強くなっている。このため、ソリューションプロバイダの企業体質の強化にまでは至らないと感じている」(ソフト会社)という声も聞かれた。

 こうした状況で、ソリューションプロバイダには他社に負けない強みを備えることが、ますます重要になっている。「業界全体では、緩やかにIT投資が増えていると推定される。しかし個々のITサービス企業にとっては、どの分野を得意とするのか、あるいは以前からどの分野に注力してきたのかによって、業績に相当な開きが生じている、あるいはこれから生じてくるのではないかと思われる」(ソフト会社)。

 ある大手ソリューションプロバイダの幹部は、「これからITサービス業界で利益を確保するには、コンサルティングの部分かシステムの保守サービスの部分を重視するしかないと考えている。前工程と後工程がメインになり、これまで主流だった真ん中のシステムの開発部分こそ、いまや最もコストダウンが厳しくなっている」と語っている。ITサービス市場は今後も成長が続くものの、その利益構造は今までとは異なる姿になるだろう。

 このほかにも、「金融業、製造業(組み込み)などは成長率が高く、それ以外は低成長という図式ではないかと思われる」(ソフト会社)、「開発よりも運用サービスのビジネスの割合が、ますます増加している」(販売会社)、「ソリューションプロバイダも選択と集中が進んでおり、今後は淘汰されていくのではないか」(ソフト会社)といった声もあった。

 構造転換のうねりの中で、ユーザー企業の要望にいかに応えるか、ソリューションプロバイダの本当の実力を試される時代になるのだ。

サービスの伸びに期待

図2●業態別に見た業況DIの推移

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図3●業態別に見た売り上げDIと粗利益率DIの推移

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図4●業種別のハード/ソフトの売り上げDIとサービスの売り上げDIの推移

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図5●ユーザー企業のIT投資意欲に対する見方の推移

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 ハード/ソフトなどの商品販売が主体の「販売会社(販社)」とソフト/サービスなど開発・提供が主体の「ソフト会社」など業態別に分けて、それぞれの業況DIの推移を示したものが図2である。

 全体の業況DIが前回の28から今回は32になったほか、ソフト会社の業況DIは前回の30から今回は35と増えているが、販売会社の業況DIは前回の24から今回は23とほぼ横ばいだった。今後の動向も、それぞれ緩やかな上昇を期待している。

 業態別に細かく売り上げDIと粗利益率DIを見たのが図3である。

 ソフト会社の数値を見ると、売り上げDIは前回の32から今回は48へと急上昇している。今後は47と横ばいである。粗利益率DIは前回の38から、今回は3と大幅にダウンしているが、今後は13へと回復を期待している。

 販売会社の売り上げDIは、前回の24から今回は45と大きく上がったが、今後は36と減少すると予想している。粗利益率DIは前回の36から今回は27へと落ち込んでおり、今後は14へとさらに下がると見ている。

 図4では、ソフト会社や販売会社の業種別に、ハード/ソフトの売り上げDIとサービスの売り上げDIの推移をそれぞれ示した。ほとんどの業種・部門で、売り上げDIは前回よりも上昇しているが、今後に期待されるのはハード/ソフトより、サービスの方である。

 ソフト会社のハード/ソフトの売り上げDIは、前回のマイナス3から、今回は7とプラスに転じた。今後は5へと横ばいを見込む。サービスの売り上げDIは、前回の33から今回は43になった。今後は47へと伸びを期待する。

 販売会社のハード/ソフトの売り上げDIは、前回の12から今回は27に増えたものの、今後は14となる見通しだ。サービスの売り上げDIは、前回の28から今回は27とほぼ横ばいだったが、今後は36になると上昇を見込んでいる。

ユーザーの意欲がやや低下  ユーザー企業のIT投資意欲を見ると、業種別ではソフト会社の「高まっている」が前回は63%だったが、今回は62%とほぼ横ばいである(図5)。「変わらない」は、前回の35%から今回は37%に上がった。「低くなっている」という回答は1%だった。

 自由意見欄では、強気の見方がほとんどである。「ユーザー企業のIT投資については金融関連を中心して強い意欲があり、こうした傾向は変わらないと感じている」(ソフト会社)、「ユーザー企業のIT投資意欲は落ちていないが、投資対効果をますます重視するようになっている」(ソフト会社)といった意見などがあった。

 ただし販売会社に聞くと、「高まっている」は前回の68%から、今回は55%とダウンしている。「変わらない」は前回の32%から、今回は45%になった。

 ユーザー企業のIT投資意欲を、いかに利益の確保に結び付けるかがソリューションプロバイダの知恵の見せどころになる。ITサービス市場の利益構造が変化しているのならば、ソリューションプロバイダも新たなサービスを打ち出す必要がある。

調査の概要
 「ITサービス業の業況調査」は、企業向けIT市場の景気動向のすう勢を把握することを目的に、本誌が四半期ごとに実施しているアンケート形式の調査。今回は2006年6月中旬から下旬に、上場しているシステムインテグレータやディーラー、それらに準じる会社約130社に対しアンケートを依頼し、82社から回答を得た。このうち、システムインテグレータや保守・サービス会社などサービス販売を主体とする「ソフト会社」が60社で、コンピュータ商社やディストリビュータなど製品販売を主体とする「販売会社」が22社だった。

 業況判断の指数となる「DI(ディフュージョンインデックス)」は、回答者の感覚的な判断を知る目的で使われる数値で、日本銀行が四半期ごとに発表している景気判断調査「日銀短観」でも使われている指標。本調査では、業況、売り上げ、粗利益率のそれぞれについて「良い」または「増える/増えた」と回答した企業の割合から「悪い」または「減る/減った」と回答した企業の割合を差し引いて算出している。