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 オンライン・ゲーム運営会社ガンホー・オンライン・エンターテイメントの元社員がゲーム中で使用する仮想通貨を不正に発行・換金して逮捕されたというニュースは,考えさせられる点が多かった。中でも気になったのが,仮想通貨の現金化の是非である。

 仮想通貨と現金を交換する行為(リアル・マネー・トレード,RMTと呼ぶ)はオンライン・ゲームでは一般的になっており,売値と買値の差額で利益を得る業者が数多く存在する。国内のRMT市場の規模は100億円以上,日本よりもオンライン・ゲームが普及している米国や韓国では,1000億円以上にもなるという。

 RMT自体は違法ではないとされているものの,問題視する人は少なくない。RMTには賭博行為や詐欺行為の原因になりやすいといった点があるからだ。スクウェア・エニックスのファイナルファンタジーXIや今回問題になったガンホーのラグナロクオンラインなど,国内の多くのオンライン・ゲームはRMTを規約で禁止している。

 だが,売りたいプレーヤと買いたいプレーヤがいる限り,陰でRMTが行われるのを防ぐのは難しい。どうしても防止したければ,ユーザー同士でアイテムや仮想通貨をやり取りするのを禁止するといった大幅なゲーム・システムの変更が必要になる。実際,強力なアイテムについては交換できないようにしているゲームも存在する。

 利用規約でRMTを禁止すること自体に問題がある可能性もある。韓国では,RMTを行ったユーザーのアカウントをゲーム運営会社が停止したところ,ユーザーから訴えられて敗訴した,という例がある。確かに,数百万円分の価値があるアイテムや仮想通貨を持つアカウントを,ゲーム運営会社が勝手にはく奪するのは少し問題があると言える。たとえそのユーザーの多くがRMT業者であってもだ。

 こうした事情もあって,最近ではRMT業者との提携も含め,ゲーム運営会社自身が何らかの形でRMTとよく似たサービスに乗り出す動きがある。ゲーム運営会社にとっても,RMT業者に儲けさせるよりは自分で儲けたほうがよい,という思惑があるだろう。

 一方で,プレーヤ側にも思惑がある。キャラクタをレベルアップしたり強力な武器を入手したりするために何十時間も単調な作業を繰り返す,というのは普通のサラリーマンにはかなり厳しい。「プレイしたいのは本当に面白い部分だけ。お金を払って単調作業をしなくてすむなら,そのほうがいい」という人は多い。RMT市場が大きくなった背景には,この「時間をお金で買う」考え方がある。

 このほか,ゲームのプレイ料金自体を無償にする代わりに,特別なアイテムなどを仮想通貨ではなく現金で販売することで運営利益を得る「アイテム課金」方式も,時間をお金で買う流れに沿ったものと言えるかもしれない。事前にある程度育てたキャラクタを販売するサービスも見かける。

運営会社の“権力”はどこまで及ぶ?

 このようにRMTが一般的になってしまった以上,ゲームの世界のアイテムや仮想通貨は少なくともプレーヤの気持ちからすれば立派な“財産”である。言い換えれば,たとえ法的にどうであろうと,ゲーム運営会社は,財産としての意識を持ったほうがいいのではないかと記者は思う。

 ゲーム運営会社がゲームの世界で持つ“権力”は,現実世界の政府の比ではない。アイテムの供給量を突然増やして価格を暴落させることもできれば,パラメータを変更するだけで現在最強の武器よりもさらに強い武器を“新規に開発”することもできる。新たに強いモンスターを投入することで,プレーヤがその武器を買うように仕向けるのも簡単だ。ゲームのルール(ゲーム・システム)自体を変えることだって可能である。

 しかし,こうした操作の一つひとつがリアル・マネーで数億,数十億円規模の変革を及ぼすのである,仮想世界の“単なるデータ”という意識で安易に操作すべきではないように思える。リアル世界の銀行残高や口座データと同列とは言わないまでも,取り扱いに慎重さが必要ではないだろうか。

 ゲーム中の財産を法的に保護すべきかどうか,するならどれだけ保護すべきか,という点については,今後の検討の余地を残している。アイテムを大量に販売した後で突然サイトを閉鎖するといった詐欺まがいの行為は取り締まる必要がある。その一方で,ほかのプレーヤのキャラクタを殺して(いわゆるPK)アイテムを奪ったからといって,現実世界で罪に問うわけにはいかないだろう。

 人気のあるオンライン・ゲームの世界には,数十万人,数百万人の“住民”がいる。もし現実世界だとすると,運営会社の責任は大変なものになるはずだ。そこでのルールの変更に“住民投票”をすべきとまでは言わないが,企業の利益だけにとらわれない運営を期待したい。