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 企業向けソフトウエア業界では,頻繁にパラダイム・シフトが起きるものだ。実際われわれも,今まさに新たなパラダイム・シフトを迎えようとしている。「アプリケーション・ホスティング・サービス」の台頭だ。米Microsoftのアプリケーション配布技術「ClickOnce」も,クライアント/サーバー・システム(C/Sシステム)の復権にはつながらないだろう。

 新しいパラダイム・シフトに触れる前に,まずはわれわれが過去に体験してきたパラダイム・シフトについて説明しよう。元来われわれは,サーバー・ベースのアプリケーションとロール・スクロール式のダム端末に依存する,大型の中央メインフレーム・システムを利用していた。これらのシステムは,大規模な組織以外のほとんどの企業には手が出せないほど,高価なものであった。小規模なコンピュータの処理能力を必要とする企業は,米IBMのような企業がホスティングし運用しているコンピュータの共有権や使用時間を購入していた。 

 サーバー・ベースのシステムの時代は,やがてデスクトップPC上に構築されるクライアント/サーバー・システムに移行した。多くのアプリケーションが,デスクトップPCの処理能力を利用するようになり,中央サーバーにはデータだけを保存するようになった。完全なデスクトップ・ベースの企業アプリケーションも存在した。

 C/Sシステムの時代は,Webの爆発的な成長と,中央システムにホスティングされたアプリケーションの再来によって大打撃を受けた。とはいえ,C/Sシステムの時代が終わったわけではなかった。ユーザー体験を考えると,C/Sシステムの方が優れているケースが多かったからだ。Webアプリケーションは,ユーザー体験を改善する方向へと進化していった。その代表例が,Microsoft .NET FrameworkをベースにしたリッチなWebアプリケーションであり,ダイナミックHTML,別名AJAX(Asynchronous JavaScript and XML)を使ったWebアプリケーションであった。

ClickOnceは「C/Sシステムへの回帰」にならない

 一方で,Microsoft .NET Frameworkの最新版は,C/Sシステムに新たな息吹を吹き込み始めている。例えば,「.NET Framework 2.0」には「ClickOnce」と呼ばれるアプリケーション配布技術が搭載されている。ClickOnceを使うと,サーバーに保存したクライアント・アプリケーションを,クリックひとつでローカル・マシンにインストールして利用できるようになる。ローカル・マシンにインストールされたクライアント・アプリケーションは,サーバー上のアプリケーションと同期しているので,ユーザーは常に最新版のクライアント・アプリケーションを利用できる。

 ClickOnceアプリケーションは,パラダイムをもう一度C/Sシステムに引き戻す可能性を持ってはいる。しかし,私はそれが現実になるとは思っていない。なぜなら,まもなくWindows VistaやLonghorn Server,そしてWindows Presentation Foundation(WPF)がリリースされるからだ。WPFの狙いは,同じユーザー・インターフェースを,サーバー上のWebアプリケーションと,クライアントのデスクトップ上の双方にホスティングできるようにすることである。つまり,WebアプリケーションからC/Sシステムへのパラダイム・シフトの回帰は起こらないと私は考えている。その代わりに,別のパラダイム・シフトが起こっているのを感じている。

アプリケーション・ホスティングの台頭

 前に述べたように,メインフレーム・システム全盛期には,多くの企業が自分達専用の中央システムを所有していなかった。だが,C/Sシステムの普及によって,この状況は一変した。多くの企業は,C/Sシステム用に,サーバー・アプリケーションと複数台のサーバーを購入したのだ。

 ハードウエアのコストは比較的安いとはいえ,現在多くの企業が,サーバーの維持やサーバー・アプリケーションにかかるコストのことを,ひどく高いものだと感じ始めている。私はここに,新しい時代が始まりつつあるのを感じる。新しい時代では,企業はサーバー・ベースのアプリケーションやネットワーク・インフラを手放して,その代わりにアプリケーションをベンダーのサーバー上に置き,そのアプリケーションの共有権や処理時間だけを購入するようになるだろう。大企業は恐らく,内部ITインフラの維持にかかる費用を払い続けるだろうが,中小企業の多くは,こうしたホスティング・モデルに移行するだろう。カスタム・アプリケーションにおいても同様だ。

米SalesForce.comやMSが「アプリケーション公開インフラ」を提供

 ベンダーは既に,アプリケーション・ホスティング・サービスの提供を開始している。例えば,米SalesForce.comの「AppExchange」だ。これは,オンデマンドのアプリケーション共有サービスである。企業(そして個人の開発者でさえも)は,「サブスクライバ(購読者)」として,AppExchangeプラットフォームの範囲内で,アプリケーションを設計したり,実行したりできる。SalesForce.comに自分の作成したアプリケーションを評価してもらって,それを他のサブスクライバに使ってもらうよう公開することも可能だ。サブスクライバは,他のサブスクライバが開発/公開しているアプリケーションを有料で利用できる。実は,Microsoftの「Office Live」にも,同種のサービスができようとしている(Office LiveのWebサイト)。

 私は何の根拠もなしに,アプリケーション・ホスティングへのパラダイム・シフトを予測しているわけではない。いくつかの企業は,既にこの方向に進み始めている。そして,この動きは急速に加速するだろう。オンデマンドのアプリケーション共有モデルとClickOnceのスマート・クライアント機能を組み合わせれば,企業向けソフトウエアにとって強力なパラダイムが近年中に間違いなく生まれるだろう。