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 前回までは,下請法が適用されるかどうかの要件について説明してきました。今回は,下請法を適用された親事業者の義務について説明します。

 親事業者の義務自体は,この連載の「ITサービスと下請法(1)」で簡単に触れています。今回は,特に注意しなければならない点について触れたいと思います。


契約書等の書面交付で下請け業者へのしわ寄せ防ぐ

 下請法の定める親事業者のメインとなる義務が,書面交付義務(下請法3条)です。これは,下請事業者の給付内容,下請代金の額,支払方法その他の事項を記載している書面を,下請事業者へ直ちに交付しなければならないという義務です。

 下請けに際して,契約書等の書面を交わさないことは多いようです。情報サービスの委託取引でも,「すべての取引について受注書面が交わされているとする事業者は6割程度」というアンケート結果もあります(注1)。受注書面がないと,本来は仕様変更に該当するため下請事業者が追加費用を請求できるような場合でも,仕様の範囲内だとして請求できなくなるなどの問題が生じやすくなります。書面が交わされていても,その内容が不明確だと,下請事業者にしわ寄せがいくことになりかねません。そこで,下請事業者の保護の観点から書面交付義務が課されているわけです。

 交付しなければならない書面に記載すべき事項は,次のような内容です。

1.親事業者及び下請事業者の名称
2.情報成果物作成委託をした日
3.下請事業者の給付の内容
4.下請事業者の給付を受領する期日
5.下請事業者の給付を受領する場所
6.下請事業者の給付の内容について検査をする場合は,その検査を完了する期日
7.下請代金の額
8.下請代金の支払期日
9.手形を交付する場合は,その手形の金額と手形の満期
10.一括決済方式で支払う場合は,金融機関名,貸付け又は支払可能額,親事業者が下請代金債権相当額又は下請代金債務相当額を金融機関へ支払う期日
11.原材料等を有償支給する場合は,その品名,数量,対価,引渡しの期日,決済期日,決済方法

 この中で問題となるのは,まず3番目の「給付の内容」です。可能な限り詳しく特定することが求められますが,ありがちなのは最終ユーザーの事情により,発注段階では委託内容を十分に特定できないことです。委託内容が定められないことに,こうした正当な理由がある場合は,内容が定められない理由および内容が確定する予定期日を記載した書面を,別途交付する。その後,内容が確定した段階で,確定内容を記載した書面を直ちに交付することが認められています。

 注意しなければならないのは,知的財産の取り扱いが給付の内容になるということです。委託内容に知的財産権を含めて譲渡・許諾させる場合には,発注書面にそのことを記載します(注2)。つまり,知的財産権の譲渡・許諾対価を含んだ下請代金の額を,下請事業者との十分な協議の上で設定して発注する必要があるということです。知的財産の譲渡・許諾の対価を開発費と区別して記載することまでは求められていませんが,発注書等に知的財産の譲渡・許諾対価が含まれることの記載が必要になります。

 下請代金の金額は,具体的な金額で記載しなければなりません。通常の請負型の契約であれば,金額は確定しているので問題はないと思います。作業時間に応じて代金が支払われる場合は,技術者の技術水準ごとの単価に作業時間を乗じるなど,具体的な金額を「自動的に確定」する算定方法を採る必要があります。


下請代金は給付受領から60日以内の定められた日までに支払う

 下請代金の支払期日は,給付を受領した日から起算して60日以内で定められなければなりません(下請法2条の2)。

 ここで,注意しなければならないのは,システム開発であれば,システムの受領日が「給付を受領した」起算日となるのであって,システムの検収終了日が起算点ではないということです。

 システム受領後に検収をする場合に,システムの規模によっては検収期間が60日を超えることも少なくないと思われます。このような場合,検収終了後に下請代金を支払うことが許されるのか,という問題が発生します。基本的には,検収期間が60日を超えるような場合であっても,受領後60日以内の定められた支払期日までに代金を支払う必要があります。

 しかし情報成果物の場合,外見だけでは委託内容の確認ができないので,納期日までに親事業者が情報成果物を確認することを認めています。認められる要件は「委託した情報成果物が一定の水準を満たしていることを確認した時点で,受領したこととする」ことを,親事業者と下請事業者との間で事前に合意していることです。この場合,情報成果物を一時的に親事業者の支配下においたとしても,その時点では受領したことにはならないという扱いが認められています。

 ただし,あくまでも書面に定められた納期日前の検収を認めているだけです。したがって,書面で定められた納期日に変更はなく,結局のところ,検収が終了していない場合でも,下請代金は書面で定められた納期日から60日以内の定められた日までに支払わなければなりません。

 なお,支払期日に支払わなかった場合には,年14.6%の遅延利息を支払わなければなりません(下請法4条の2)。


給付内容を変更した場合も書面化が必要

 親事業者は,取引の内容について,書面を作成し保存しなければなりません(下請法5条)。また,作成した書面は2年間保存する義務があります(同規則3条)。書類を電子的な方法で保存することも認められています。

 気をつけなければならないのは,給付内容を変更した場合にも書面化が要求されていることです。仕様の詳細化については給付内容の変更に当たらないと思われますが,別途費用が発生するような仕様変更,追加事項については記載が必要になると思われます。

(注1)「情報サービス産業の委託取引等に関する調査研究報告書」9頁より。なお,下請法の対象となる取引以外の委託取引が含まれています
(注2)下請け事業者から著作権の譲渡を受けない場合でも,成果物についての許諾(ライセンス)は受けることになりますので,システム開発等,成果物が「著作物」に該当する場合には,知的財産権について言及することは不可欠だと思われます


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。