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「人間,頭で分かっても行動に移しません。心に響かないと。それにはやはり,標語が効果的です」

 相談があると言って突然,来訪したその人はこう切り出した。大手サービス業で新規事業プロジェクトを仕切り,情報システム部門長を務めてから定年退社した。長年の経験を生かし,若い人に役立つことをしたい。こんな話を熱っぽく語った。話し方や,引き合いに出す事例を聞いていて,確かに仕事ができる人であろうと想像はついた。分からないのは,標語のくだりである。

「あの,標語とは...」
「注意一秒怪我一生,現場百回,ご存じでしょう。部下にきちんと行動してもらうためにどうすればいいか,あれこれと工夫してみましたが,標語が一番です」
「ええと,壁に何か貼り出すのですか」
「プロジェクトルームに貼ってもいいですし,早朝会議で話してもいい。日報を確認して返すときに書いてあげる手もあります。まあ,私の時代と違って今は,電子メールとか携帯電話とか便利な道具がありますから,電子的に標語を送るのでしょうね」

 聞けば,新規事業を手がけるときの勘所や,情報システム開発プロジェクトを進める時の注意点を,漢字四文字の標語にして整理しているという。部屋のあちこちにメモ用紙を置いておき,ひらめくと四文字標語を書き付け,標語箱に入れておく。メモを定期的に取り出しては,重なるものは整理し,足りない分野についてはさらに標語をひねり出してきた。こうして「プロジェクトマネジメント100標語」とか,「情報システムマネジメント100標語」といった標語集を完成した。それを世に問いたい,というのが来訪の趣旨であった。

 ようやく話を理解した筆者は,あるセキュリティソフト開発会社の社長から,情報セキュリティに関する標語を作りたい,と相談を受けていたことを思い出した。パソコンのスクリーンセーバーにセキュリティ標語を流す,同社のセキュリティソフトを起動すると操作画面に標語がテロップの形で流れる,といったアイデアをその社長は語っていた。

 そこで標語に強いベテランを,セキュリティ会社の社長に紹介した。早速,両氏は情報セキュリティに関する標語を作り始めた。お二人を中心にした集まりを筆者は「ITセキュリティ標語研究会」と呼び,同研究会の成果物を『経営とIT新潮流2006』というWebサイトの『新潮流 標語』欄にて公開していくことにした。


数文字にすべてを込める

 「日経BPの方でしょうか」

 ドラッカー学会の設立総会に出席した時,声をかけられた。名刺を名札代わりに胸につけていたからである。先方から渡された名刺を見ると,「経営・情報システムアドバイザー」とある。「ビジネスとテクノロジーですね。私もこの二つを包含するビズテックというメディアを作ろうと悪戦苦闘してました」と筆者は言った。

 ドラッカー学会でお目にかかったのは,アーステミアの森岡謙仁社長である。初対面であったが,筆者は森岡氏の名前を日経情報ストラテジー誌の連載や,ITproのWatcherを通じて知っていた。とりわけ森岡氏がWatcherに連載している『CIOへの道』というコラムは毎回末尾に『CIO川柳』が掲載されており,注目していた。

 聞けば,CIO川柳は100本前後を作る予定で,全体の構想はすでにまとめてあるという。筆者はセキュリティ標語に続き,CIO川柳を公開していくことを考え,森岡氏に打診した。すると森岡氏から次のような提案を頂いた。

「あらかじめ用意してあるCIO川柳を,Watcherの連載とは別に公開していくことは可能です。ですが,せっかくなので,できましたらCIO向けではなく,経営トップやITの仕事をしていないビジネスリーダー向けの川柳を作ってみたいのですが」
「ITと聞くと,CIOやシステム部長に任せる,と言ってしまう人向けですね」
「長年,企業の業務改革や情報システムマネジメントのお手伝いをしてきましたが,結局,経営トップや事業部長クラスの方が,ITを利用した改革とは何かをご理解いただかないとうまくいきませんね。もちろん,CIOや情報システム部長の役割は大きいのですが,彼らだけが奮闘しても企業はなかなか変わりません」

 以上のやりとりを経て,『IT経営川柳』という新企画を始めることにした。第1回目の川柳は明日,経営とIT新潮流2006において公開する予定である。

(谷島 宣之=日経コンピュータ副編集長,日経ビジネス編集委員,ビズテックプロジェクト担当,経営とIT新潮流2006編集担当)