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ユーザー要求が決まらない,開発途中で要件の追加や変更がある,難度の高いシステムが増え予算オーバーになりがち―システム開発の“超上流工程”である見積もりの難しさが増している。だがベンダーなら利益の確保,システム部門なら予算の死守は,最優先課題だ。今こそ見積もりの高度化に,真剣に取り組む必要がある。

 帝国データバンクの情報システム部門は現在,ベンダーが作成するシステム開発の見積書に対して,ある条件を設けている。「ファンクション・ポイント(FP)法およびWBS(Work Breakdown Structure)を使った2種類の見積もりを提出すること」がそれだ。

1億6000万円が1億円に

 発端は1999年頃にさかのぼる。システムの一部をオープン化するにあたって,以前から付き合いのあったベンダーに見積もりを依頼したのがきっかけだった。依頼を受けたベンダーの営業担当者は早速,見積書を持ってやって来た。システム部開発管理課の劉錦福課長補佐がチェックしたところ,「一式1億2000万円」とだけ記されている。内訳は書いてなかった。営業担当者は「本来なら1億6000万円かかるのですが,今回は1億2000万円でやらせていただきます」と説明した。

 劉氏が見積書を持って担当役員に承認をもらいに行ったところ,役員は「4000万円も安くなるのなら,もっと値切れるはずだ」と言う。そこで劉氏は改めて営業担当者を呼んで値引き交渉を試みた。すると担当者は「厳しいですが検討させていただきます」と回答。結局,この案件は1億円で契約となった。“本来”の額よりも,6000万円も安くなったのである。

 金額だけ見れば喜ぶべき話だが,劉氏には大きな違和感が残った。「1億円という契約額は本当に妥当だったのか。金額の根拠を聞いてもきちんと答えてくれない。たまたま聞かれなかったから良かったものの,社内で経営陣に対して説明ができないのも困りものだ」。劉氏は,今後,ベンダーには一定の条件に沿って見積もりを行わせることが必要だと考えた。

 そこで劉氏が着目したのが,FP法の導入である。劉氏は同社の既存の開発案件の一部を,独自にFP法で計測し,実績値と照らしながら誤差をチェックしてみた。「多少のずれはあったものの,十分に信頼性がある技法だと判断した」。

 そうした検証を経て,2001年10月からすべてのベンダーに対して,見積もりの条件として,FP法の利用を義務づけた。多面的に見積もりの信頼性をチェックするため,同時にWBSによる見積書を作成することも条件として加えた。

まともな見積書が出てこない

 帝国データバンクの事例は,氷山の一角に過ぎない。ユーザー企業の見積もりに対する意識は今,急速に高まっている。ベンダーの提案や見積もりをユーザー企業の依頼を受けて評価しているアイ・ティ・アールの広川智理取締役は,「“安ければいい”と考えるユーザーは,まずいない。安かろう悪かろうでは,説明責任が果たせないからだ。提案の良さも含めて,根拠が明確な見積もりが求められるようになった」と指摘する。

 ベンダーにとっても,見積もりの改善は緊急性の高いテーマになっている。例えば富士通は,今年5月の中期経営計画で「見積もり精度の向上」を重点施策として掲げ,全社的な標準見積もり技法の策定に着手した。標準化にあたるSDAS推進統括部アプリケーション品質部兼品質・SPI担当の合田治彦部長は,「経験を基に根拠のない数字を積み上げただけの見積もりでは,利益を確保できない。赤字プロジェクトを減らすために,ベンダーとユーザー企業の両者が納得できる算出根拠を作ることが重要だ」と語る。