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 前回の「個人情報漏えい事件を斬る(53):教育分野に見る個人情報保護リテラシ日米格差」では,盗難・紛失による個人情報流出を取り上げた。

 2006年7月31日に日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)が公表した「2005年度 情報セキュリティインシデントに関する調査報告書」によると,教育・学習支援業で起きた個人情報漏えいの原因の約8割が「盗難」と「紛失・置忘れ」であり,他の業種よりも比率が高いことが特徴となっている。盗難・紛失による個人情報流出の防止対策なくして,教育分野の個人情報保護に前進はない。


海外では主要ISPが個人ユーザー向けにフィルタリングサービスを提供

 今回は,「【第52回】SNSの泣き所は子どもの個人情報保護対策」で取り上げたフィルタリングソフト(有害なホームページの閲覧を防止するソフト)について考えてみたい。日本では,企業におけるWeb経由の情報漏えい対策ツールとして利用されているが,海外では,家庭や教育分野で普及し,AOL,MSNなど主要ISP(インターネットサービスプロバイダ)が,個人ユーザー向けサービスとして提供してきた。

 フィルタリングソフトがWebサイトをブロックする代表的な仕組みとしては,サイトの格付けを読み込んで制限するかどうかを判断する「セルフレーティング方式」,制限するサイトや許可するサイトのURLリストをあらかじめ登録して選別する「データベース方式」,見せたくないキーワードでサイト内を検索し,そのキーワードを発見したら表示させない「検索方式」がある。ただし,フィルタリングソフトを導入すれば万全というわけではない。人的ブロックなどの対応も欠かせないのが実情だ。


フィルタリングサービスに対する認識不足が日本の課題に

 米国のDOPA (Delete Online Predators Act)法案で,プライバシー・個人情報保護の観点から議論を呼んだフィルタリングだが,実は日本でも,子どもの安全・安心の観点から,フィルタリング機能に関する規定が設けられていることをご存じだろうか。例えば,東京都の「東京都青少年の健全な育成に関する条例」では,青少年がインターネット接続機器を購入する場合,インターネット事業者がフィルタリングソフトを利用したサービスを告知・勧奨する,または提供に努める旨の規定を設けている(第18条の7)。

 しかしながら,フィルタリングサービスに対する日本の消費者の認知度や利用率は低い。6月30日に総務省が公表した「平成17年度電気通信サービスモニターに対する第2回アンケート調査結果」によると,全回答者の約6割がフィルタリングソフトを認知しているが,18歳未満の子どもがいる保護者のうち,自宅のパソコンや子どもが利用する携帯電話でフィルタリングを利用している割合は6.8%にとどまっている。

 事業者側についても,2006年5月24日に東京都青少年・治安対策本部が公表した「インターネットのフィルタリングに関する実態調査結果」によると,都内でインターネットに接続できる機器を販売または貸付している店舗のうち,フィルタリングサービスに関する条例の規定を知らない店舗の割合が5割近い。その後東京都では,条例に定めた販売時のフィルタリングサービスの勧奨などについての理解が不十分だったことを受け,大手家電量販店を対象とした説明会を開催するなど,普及・啓蒙活動に躍起となっている(「携帯電話販売店等に対するフィルタリングサービス普及の協力依頼」参照)。

 IT戦略会議の「重点計画-2006」でも,フィルタリングソフトの普及が具体的施策に掲げられている。だが,インターネット上の違法・有害情報対策が最優先で,個人情報保護の視点に立った記述は見当たらない。

 子どもを相手にする事業者にとっては,「安全・安心」で他社との差別化を図るマーケティングの視点から,個人情報保護対策やフィルタリングサービスを「攻め」に活用するチャンスかもしれない。

 次回は,KDDIが発表した個人情報漏えい事件の再発防止策を取り上げてみたい。


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■笹原 英司 (ささはら えいじ)

【略歴】
IDC Japan ITスペンディンググループマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業,公共部門まで,国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。

【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/