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 ユーザー企業の元に届いた複数の提案。どれを読んでも、提案内容はほぼ同じ。発注担当者は思う。「つまらない提案ばかりだ。これなら料金は安くてもいいな」――。ここ数年、多くのソリューションプロバイダが、経営を揺るがす失敗プロジェクトの続発に苦しんだ。リスクを厳密に管理することを学び、“危ない案件”を極力排除した結果、不採算案件の撲滅に成功しつつある。ただ、その代償としてSIビジネスはつまらなくなった。提案は凡庸なものとなり、予想外の人手不足という環境変化もあって新規開拓の意欲も衰えた。しかし、リスクを取らないビジネスに未来はない。赤字プロジェクトの何が悪いのか。リスク管理の意味を考え直してみたい。



 2006年度になって、富士通のSIビジネスに関して、黒川博昭社長の積極的な発言が目立つようになった。例えば、こんなふうだ。

 「積極的に顧客のところに行き、手弁当でもやれと言っている。赤字プロジェクトは決してゼロにはできない。冒険的、先駆的なシステムをリスクと取ってやらないと、SIビジネスは広がらない」(6月9日の経営方針説明会)。

 富士通は、2003年度にSIの不採算プロジェクトの損失額が598億円に達した。その後の事業改革の取り組みにより損失額は減少するものの、2004年度は377億円、2005年度には114億円の損失が発生している。2006年度は、問題案件はほぼ収束するが、「ゼロにできない」との黒川発言の通り、不採算プロジェクトで50億円程度の損失が出ることを見込む。

 そんな中、富士通は「SIビジネスを広げる」ための攻めの施策を打ち出した。新規分野にチャレンジする戦略案件のために、2006年度予算として、総額50億~60億円のSIプロジェクトの“赤字補填予算”を付けたのだ。

挑戦のため赤字を事前補填

 この予算は「アシュアランス勘定」と呼ぶもので、SIビジネスの健全化のために2005年4月に設置した社長直轄のSIアシュアランス本部が管理する。

 対象は、大手顧客の“深掘り”や、ソリューション化して横展開が可能な戦略案件に限る。SEが原価を見積もった結果、顧客の予算を上回った場合、本部に申請し、経営会議で認められれば、その差分が補填される仕組みだ。担当SEはこのゲタを利用して、プロジェクトを“黒字化”させることが可能だ。また、事前にリスクを明確にしておけば、リスクが顕在化して原価が膨らんだ際にも、補填を受けることもできる。

 実は、この仕組みは昨年度から存在し、昨年度は3件、約20億円を補填したという。ただ、富士通のSIビジネスが“トップ指令”で積極策に転換したこともあり、今年度から予算化して社内に公表した。50億円以上という予算額は、案件の金額でいうと600億円は超える巨額なものだ。既に2件、補填額で6億円を認めた。

 もちろん、将来の大口ビジネスにつながらなければ意味がない。「2~3年先に深掘りや横展開につながるか、そのビジネスプランの具体性についてはきっちりとチェックする」と梅村良常務理事SIアシュアランス本部長は話す。

リスクを取れなくなったSIer

 富士通の黒川社長のように、SIビジネスでリスクを取って、新しいことをやる必要性を口にするITサービス会社の経営トップは数多い。将来のビジネスのネタを仕込むのは、赤字プロジェクトの撲滅にある程度の成果が見え、顧客のIT投資が復活した今しかないとの認識からだ。しかし、営業や開発の現場では「社長はそう言うが、現実問題としては不可能だ」と、さめた目で見ているケースが多い。

 ある意味、それは当然だ。ここ数年のITデフレの最中、多くのITサービス会社が大なり小なりの赤字案件を抱え込んだ。売り上げが伸びない中、各社はSIの採算性の改善に取り組まなければならず、商談、開発の各フェーズで赤字を出さない管理体制を強化した。2006年3月期決算で2ケタの営業利益率を上げた、ある大手ITサービス会社の部長も「ガチガチに損益管理されており、新しいことなど何もできない」と証言する。

 また、顧客のIT投資が復活したことで、当分は仕事に困らない状況になったという事情もある。仕事はさばき切れないほどで、何もリスクがある新規案件を開拓する必要はない。実際、「顧客が10社に提案依頼を出したとしても、真面目に提案するのは3社程度」という話もある。単に号令をかけるだけでは、経営トップの思いは現場には届かないのだ。



本記事は日経ソリューションビジネス2006年8月15日号に掲載した記事の一部です。図や表も一部割愛されていることをあらかじめご了承ください。
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