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世界バスケの予選ブロック大会が行われた北海道立総合体育センター
世界バスケの予選ブロック大会が行われた北海道立総合体育センター
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放送ブース内に4台もモニターを置いて,アナウンサーと解説者が活発に実況している国もある
放送ブース内に4台もモニターを置いて,アナウンサーと解説者が活発に実況している国もある
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 夏の高校野球は早稲田実業の優勝で幕を閉じ,サッカーではオシム・ジャパンが公式戦で初勝利を収めるなど,今年の夏はスポーツの話題に事欠きません。そうした報道の狭間にまったく埋もれてしまっているのが,バスケットボールの世界選手権大会(通称,世界バスケ)。4年に一度のバスケの祭典が今年,日本で初めて開催されているのをご存じでしょうか。

 じつは今年の世界バスケはとても見所が多いのです。バスケと言えばNBA,米国の独壇場と思われがちですが,米国が優勝したのは1994年のトロント大会が最後。98年のアテネ大会は3位,2002年は自国開催にもかかわらず6位に終わりました。その後も2004年のアテネ五輪で隣国のプエルトリコに準決勝で大敗を喫すなど,米国の威信は今,地に堕ちています。だからこそ今回来日した米国チームは最高の布陣を敷き,今大会と2008年北京五輪での優勝を期していると言われます。

 そこで今回は,バスケットボールの魅力,他のスポーツとの違いを情報技術の視点で書いてみたいと思います。ちなみに筆者は高校,大学とバレーボール部に所属し,十分に中年と言える年になった今でも,地元のクラブチームで実業団上がりの奥様方にいびられながら,しつこくプレーしている自称バレーウーマン。「やるのはバレー,見るのはバスケ」を実践してきました。バスケ選手は永遠の憧れです。

 単刀直入に言って,バスケの魅力とは「戦況の複雑さ」「戦術の妙」「スピード」にあると思います。これを演出しているのが,プレーヤーたちの卓越した情報処理能力×身体能力でしょう。

 まず情報処理能力ですが,プレーヤーが扱う情報量(相手や味方の動き,取るべき戦術など)を分子に,処理時間を分母にして表現できます。バスケは他のスポーツに比べ,分子=情報量が格段に多く,しかも分母=処理時間を最小化する,すなわち究極のスピードが要求されます。バスケの試合を見ていて「今,何が起きたの?」と状況がよくわからなかったことはありませんか。プレーヤーはコンマ数秒の間に,周囲の状況を把握→戦術を決断→アクションを起こします。アクションとは,ドリブルやパス,シュートなどですが,相手のディフェンスをかいくぐり,強烈な体当たりをものともせずにゴールを決めるには,卓越した身体能力が求められます。しかも,5人のプレーヤーが1個の有機生命体のように振る舞うことで戦術を実行するのです。バスケの醍醐味は,戦況が複雑になればなるほど,スピードと展開が速くなればなるほど増大するというわけです。


激戦地・北海道で米国チームを観戦

 さて,本場のNBA選手を間近で見るチャンスというわけで,筆者も米国チームを一目見るべく,4ヵ所ある予選会場の一つ,北海道に行ってきました。8月19日,札幌駅に降り立ちましたが,横断幕一つあるわけでもなく,「本当にここで世界大会があるの?」と不安になりました。すすきの近辺から会場まで歩くことにしましたが,これまた道案内一つなく,ますます不安は募ります。

 しかし会場に着くと,来るわ,来るわ,バスケフリークたちが。バスケ現役の中高校生や若者たちは練習着とおぼしきTシャツとジャージ姿のまま,バスケ好きのおじさん達はビール片手に,世界のトップ・プレーヤーたちの勇姿を見ようと観客席を埋めていきます。海外組ではスロベニアの応援団がどの国よりも威勢がよく,相手チームのフリースローのときには極上のブーイングを飛ばしています。応援席に陣取った米国人の女子高生たちも,米国チームがシュートを決めるたびに負けじと歓声を上げる。と,すぐ隣に陣取った中国の一団が呼応してウェーブを起こすなど,世界大会ならではの応援合戦に花が咲きました。

 肝心の試合の方は,米国がプエルトリコに思わぬ苦戦を強いられ,いまひとつ盛り上がりに欠けました。それでも,2006年2月のNBAオールスターゲームでMVPを獲得したレブロン・ジェームスはシュートが不調な分,すばらしいディフェンスを見せてくれたし,2006年NBAファイナルのMVP,ドウェイン・ウェイドの華麗なダンクを間近に見られたのもラッキーでした。


スポーツ実況は大変!!

 さて,ハーフタイムで会場内を歩き回っているとき,参加24ヵ国のために用意された実況放送用ブースの後ろを通りました。見ると,たいていの国はアナウンサーが1人で黙々と実況しているのですが,中にはブース内に4台もモニターを置いて,アナウンサーと解説者が活発に話している国もあります。アナウンサーと解説者は2台ずつモニターを専有しており,1台には試合前半のハイライトだけでなく,他の会場で行われている予選大会の映像,前もって収録したインタビューなどが次々と映し出されます。もう1台には試合のスコアや,プレーヤーの今シーズンの成績などが表示されています。

 放送技術や機器が進化し,映像やデータを短時間に処理できるようになると,それらを使いこなすアナウンサーや解説者は高い情報処理能力が必要になります。これ以上情報が増えてくると,それらを整理・分析し,優先順位をつけて,放送原稿にまで落とし込んでくれる「実況アシストツール」なるものが必要になってきそうです。

 私たちが実況に求めているのは,正確な情報だけではありません。戦術の解説はもとより,伝説となっている過去の名場面や隠れた人間ドラマなど,解説者の記憶の奥深くから紡ぎ出されるストーリーが,ゲームの面白さを一層引き立ててくれることに疑いありません。スポーツの世界は天才プレーヤーが一生涯をかけても極め尽くせないほどに奥が深い。人間同士が,精神力と技術力と身体力のすべてを賭けて織りなす壮大なドラマだからこそ,多くの人が感動を覚えるのでしょう。
 
 今年の世界バスケで日本チームは45年ぶりに1勝を上げることができました。米国は第2戦以降,圧倒的な強さを見せつけ,ベスト8に勝ち進んでいます。2004年アテネオリンピックチャンピオンのアルゼンチン,欧州の強豪,ギリシャやスペインは,優勝を狙う米国の前に立ちはだかることができるのか?まだまだ寝不足の日々が続きそうです。